第51話
目を覚ました時、周りは暗い部屋だった。
地下室のようで、俺はその部屋の真ん中に置かれている椅子に座らされている。
ただ座らされているだけではない。両手と両足を縄で拘束されているのだ。
「おいおい、ホラー映画じゃあるまいしさ……」
何とか動かして拘束を解こうしようとしたその時、ちょうど扉が開いてそこから博美さんが入ってきた。
「目が覚めたかしら?」
「博美さん、なんの真似だ。あんたはこんなことするような人間じゃない!」
博美さんの手には鞭が握られていた。そしてそれを俺の体に向かって振るってきた。
ビシィ!
「く……」
鞭で叩かれたことにより、ジンジンとした痛みが走ってくる。
世の中にはこれが気持ちいいと思う野郎もいるっぽいけど、こんなの普通に痛いだろ。
とりあえず俺はマゾじゃないことにホッとしたあと、博美さんを睨みつける。
「変わっちまったな。あんたはいつからSMクラブの女王様に転職したんだよ?」
「それはこっちのセリフよ。昔はあんなに可愛かったのに、ずいぶんと悪態がついちゃって」
「不良のレッテル張られても、善と悪の見分けはつけるさ。とりあえず今のあんたは俺の中じゃ悪ってことになってるぜ?」
「いいえ、私は間違いなく善よ。なぜなら罪のない子供たちを救ってあげているもの」
「何を言って――」
「昔話をしましょうか。ある少女は両親を亡くして施設へと入りました。しかしそこには弱いものイジメを生業としている職員のいる地獄のような場所でした」
語り始めた博美さんの話を、俺は妨げることなく黙って聞くことにした。
「絶望に陥った少女は、ある日希望を手に入れることができました。力の強い大人たちを叩きのめすほどの力を」
もしかしなくてもその力っていうのはビーストカードのことだろう。
そして今語られているのは博美さんの過去に違いない。
そうか。博美さんも俺と同じ境遇にあっていたんだな。
傲慢な大人どもから虐げられる毎日を送ってきたのだろう。
「少女はその力で大人たちを葬りました。不思議と罪悪感はありませんでした。なぜなら彼らは死んで当然の人間だったのだから」
「本当に後悔はしなかったのか?」
俺はビーストの力で父親を殺した。
自分を傷つけ続ける存在の消失に安堵したがそれは刹那に過ぎなかった。
なぜなら俺は父親を殺したことで母親の精神が壊れてしまい、今も病院での生活を強いられているからだ。
「俺は後悔している。あんたと同じ境遇だったからさ、わかるよ。虐待され続けてきた心と体の痛みってやつはさ。でも違うんだ。俺は不良として高校生やってるけど、人を殺めることは絶対のタブーだってことはわかりきっているつもりだ! はっきり言うぜ博美さんよぉ……あんたは間違っている!」
俺の訴えの後に、すぐさま鞭による強打が俺の体に走った。
「てっ……」
「私は何も間違ってはいない。あの時職員を皆殺しにしたのは正義のためよ。私だけじゃない、あの時は私以外の子供もたくさんいたわ。そんな子供たちを救ってあげたんだから、これって立派な行いでしょ?」
「目を覚ませよ。あんたはもっとやさしい人だったはずだ!」
「うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! うるさい! 」
耳をつんざく博美さんの怒声と同時に鞭が俺の全身を叩きつけてきた。
顔に、腕に、腹に、足に、ありとあらゆる箇所に痛みが走り、痛みを口に出すのも面倒になるくらい徹底的かつ一方的に傷を増やされるだけだった。
「ハァ、ハァ……永一くんが……わからずやなのがいけないのよ……私は子供たちを救っている正義の使者なの。今もなお私の知らないところで罪のない子供たちが理不尽な虐待にあっているかもしれないのよ? ならばせめて、私の手の届く範囲の子供たちは、私が救ってあげないといけないの! 私が正義を貫かなきゃいけないの! 私がやらなきゃ、誰がやるっていうのよぉ!」
博美さんは俺に向かって存分に振るった鞭を放り投げた。
「…………」
俺はただ固まったままだった。
体の痛みによって動けないのもそうだが、何より博美さんの心の内側を知ってしまったことによる心のダメージが大きいのが原因だろう。
だが、一つだけわかったことがある。
この人は今まで戦ってきた連中と同じように、ビーストの力を間違った方向へと向けてしまっている。
修正しなくっちゃならない。だけど今は体が動かない。
フェンリルを召喚しようにもビーストアウトされたフェンリルはしばらく召喚することができない。
「あなたはしばらくここにいなさい。大丈夫よ、殺したりはしないから」
こうして俺は暗い地下室に一人置き去りにされてしまった。




