第50話
「あなたの出番よ、お出でなさい!」
カードが光り、そこから召喚されたのは長い口を持った獣だった。
「な、なんだあれは……」
そう言ったのは俺の隣に立っていたビラ配りをしていた両親だった。
何もないところからいきなり大きな獣が登場すれば、ビースト使いじゃない者が驚くのは当然だ。
しかし今回は俺も驚いてしまう。まさか博美さんがビースト使いだったなんて想像もしていなかったのだ。
「この子はセベク。鰐のビースト・セベクよ」「セベェェェェェ!」
長い口には数本の牙が生えていた。四足歩行で俺たちに近づいてくる鰐のビーストは大きく口を開いた。
食われる! と思ったが相手がとってきた行動は予測を外れていた。
「なんだこれは……!」
まるで巨大な掃除機に吸い込まれるかのように体が勝手に大きな口に向かってしまうのだ。
俺は足に力を入れて踏ん張っているが、隣に立っていた父親は耐えきれず吸い込まれてしまう。
「う、う、うわぁぁぁぁ!」
セベクの吸引攻撃に父親は口の中へと吸い込まれる。
そして大きな口の中にすっぽりと入ってしまったのだ。
「あ、あなたぁ!」
旦那を捕食されてしまったことにショックを受けている奥さんはその場で腰を抜かしてしまった。
「な、なんてことしやがる!」
「安心して永一君。あの男は死んではいないわ。この子の口の中は異次元空間になっているの」
「い、いじげん?」
「なんでも入るし、いつどんな時でも吐き出すことができるのよ。こんな風にね!」
再び大きな口を開いたセベクの口の奥から勢いよく何かが発射された。
時速一〇〇キロぐらいのスピードで吐き出されたそれは、今さっき吸い込まれた父親の姿だった。
狙ってやったのか吐き出された父親は腰を抜かしている母親とぶつかった。
「ぶぅっ!」
お互い衝突した二人はそのまま気絶してしまった。
「あんた、なんてひどいことを……」
こんなのは俺が知っている博美さんじゃねぇ。
小さい頃一緒に遊んでくれて、俺の面倒を見てくれた人の姿じゃねぇ。
俺が知っている博美さんは、偽物だっていうのかよ!
「どう、驚いた? これが私の頼りになる最愛のパートナー、セベクの力よ。どんなものでも『吸収』し、その後吸収したものを『放出』するの」
セベクの能力を解説し終えた後、俺に近づいてきた博美さんは「さて」と言いながら俺の方を見てきた。
「秘密を知ったからにはたとえ永一くんでも容赦しないわ。口封じが必要ね」
「クソッたれ! こいやフェンリル!」「フェェェェェン!」
俺は迷わずフェンリルを召喚した。
「あら驚きね。永一君もカードを持っていたなんて」
「俺だってびっくりしているさ。博美さんがビーストの力で悪事を働いているなんてな……」
「悪事? なんども言わせないで。私の行いは、正義よ!」
セベクの吸い込み攻撃は始まった。
「へっ! この力を逆に利用してやる! フェンリル! つっこめ!」
フェンリルはセベクの口の中にあえて向かっていく。
だが、これでいいのだ。
フェンリルの爪は接近戦にこそ発揮できる。口の中に吸い込まれそうになっているふりをしながら一気にその体にフェンリルの斬撃をお見舞いしてやるのだ。
「そうくるなら、こうはどうかしら?」
セベクが急に吸引を止めた。しかしあの大きな口は開きっぱなしだ。
すると口の奥から何かが発射された。
「なにぃ!?」
セベクの口から吐き出されたのは大きな岩だった。俺と同じくらいの大きさを持つ岩がフェンリルの体にヒットしたのだ。
「フェェェェン!」
「フェンリル!」
岩をぶつけられただけでなく、ぶつけられた時の勢いで壁に叩き付けられてしまった。
フェンリルの体が白い光となってカードに戻っていく。強制退場だ。
「こんなこともあろうかと前持って岩をセベクに食べさせてよかったわ」
これじゃまるで自動で移動する大砲じゃねぇか。
ビーストに対抗する術を失った俺はひとまずここから逃げようとしたが次の瞬間、俺の体全体に痺れが走った。
「ぐあぁぁ!」
博美さんが右手に持っていた何かを体に押し付けられたからだ。
「なんで、そんな物騒なもんを……」
右手に持っているものがスタンガンだと知った後、俺は気を失ってしまった。




