第49話
数年ぶりの再会だった。
あの頃の永一くんは甘えんぼで今みたいな感じじゃなかったのに、人というのは数年で変わってしまうものだと私は思った。
あれからもう少しだけ話をした後、永一君たちは教会を去っていった。
正直ホッとした。これ以上この教会に近づかれるのは私としても不安だったからだ。
「おねーちゃん」
私のことを呼ぶ小さな子供の声が聞こえる。
「みんな、おまたせ」
教会の中には男の子が二人、女の子が一人いる。
みんな私が面倒を見ているのだ。
「さっきのおにーちゃんたちだぁれ?」
「んー? さっきのお兄ちゃんはね、お姉ちゃんが昔一緒に暮らしていた子だよ」
「そーなんだー」
「さ、今日の夕飯はカレーよ! もう少しでできるからね!」
「「「わーい!」」」
毎日の食事も私が作っている。子供たちのよろこぶ顔が見られるのならば手の込んだ料理だって頑張って作ることができるのだ。
「「「ごちそーさまでしたー!」」」
カレーを綺麗に完食してくれた。こんなにもたくさん食べてくれると作る側としてもうれしい。
夕飯を食べて後片付けをしながら、私は子どもたちにある約束をした。
「教会にはなるべく出ないでほしいの。約束できるかな?」
私がそういうとみんな「どーして?」と返してくる。
「外にはね? 悪い鬼さんがたくさんいるの。外に出たら鬼さんに食べられちゃうわよ」
「あのおにーさんたちもおにさんなの?」
永一くんと陽介くんのことだ。
「あの人たちは……大丈夫、かな。でも他にもたくさん鬼さんがいるかもだから、ね?」
◆
「お願いします。お願いします」
偶然昔暮らしていた教会を訪れた日の翌日。
一人でパトロールをしていた俺は商店街でビラを配っている男女を見かけた。
「お願いします」と言いながら通りかかる人たちにビラを配っている。
そのビラには子供の写真つきだった。どうやらあの男女は夫婦で、この写真の子供を探しているのだろう。
「ん?」
夫婦が持っているビラの束から偶然一枚落ちたのを拾うと、写真の子供をよく見てみる。
……この子供、見たことがある。
「そうだ、昨日教会にいた子供だ」
「い、今なんと?」
俺が口にしたのを聞き逃さなかったのか、夫婦二人が俺との距離を一気に詰めてきた。
「どこにいるんですか!? 息子はどこに!?」
「ちょ、お、落ち着きなって!」
よっぽど心配しているのだろう、速く連れて行ってあげよう。
◆
俺と迷子の夫婦は昨日訪れた教会にやってきた。
そこには花壇に水をやる博美さんの姿があった。
「博美さん」
「あら永一くん。どうしたの? もしかして私が恋しくなっちゃった?」
「いや、そんなんじゃないんだよ、ほら」
俺の隣に立っている夫婦が博美さんに近づく。
「私たちの子供を知りませんか? この子なんですけど……」
そういいながら商店街で配っていたビラを博美さんに見せた。
「……さぁ?」
少し間を置いてから首を左右に振る博美さんだが、俺はそんな彼女を追求した。
「いやいや俺は昨日ここで見たんだよ。あの扉の隙間からこのビラと同じ顔の子供をさ。博美さんなんか知ってんじゃないのかよ?」
俺がそう言うと博美さんは「はぁ……」と溜息を吐いた。
そこには昨日まであった元気ハツラツな雰囲気はなく、逆にどこか暗い雰囲気が漂っていた。
「永一くん、どうしてその人たちを連れてきたの? その人たちは鬼さんなんだよ?」
「お、鬼?」
急に何を言っているのだろうか。
「子供をイジメることしか脳の無い腐った大人、それが鬼。あの子はね、そこにいるクソ両親に虐待されていたのよ」
「な……!」
まさか博美さんの口から腐った大人とかクソ両親なんて言葉が出てくるなんて思わなかった。
俺はここまで連れてきた夫婦二人の方を見た。すると急に父親が「違う!」と怒鳴ってきた。
「私たちは虐待などしていない! 変な言いがかりはやめろ! 我々を犯罪者呼ばわりするなら、君だって私たちの息子をさらった誘拐犯じゃないか!」
「そうよ! 早く息子を返しなさい!」
父親だけでなく、母親も怖い剣幕で博美さんに寄ってきた。
「誘拐? 違うわ! 私は救ってあげたのよ。悪い鬼から罪のない子供たちを!」
普段はおっとりしている博美さんだが突然ヒステリックになった。
「だまれ犯罪者!」
「犯罪者はあなたたちでしょ! あなたたちは子どもをイジメて楽しんでいるクズじゃない!」
博美さんの言葉をきっかけに、俺は十年前の記憶がフラッシュバックした。父親にいたぶられていた日々の記憶が舞い戻ってきたのだ。
(この親も、俺の親父と同じ……なのか?)
クズ呼ばわりされた両親は、苦しそうな表情を浮かべている。
「な、何を証拠に……!」
「あの子が言っていたもの。お父さんとお母さんは僕が悪いことをすると叩いてくるんだって。怒鳴ってくるんだって苦しそうに言っていたわ」
「ば、ばかな……! あれは躾だ! 悪いことをしたら罰を与えるのが当たり前だろ!」
「たしかにそうかもしれないわね。でも、あの子の体は全身アザだらけだったわ! いくらなんでも躾の領分を超えているものだと私は思えますけど?」
「黙れ黙れ! 赤の他人が人様の家庭の事情に足を踏み入れるんじゃない! 訴えてやる! 息子をさらった上に我々を犯罪者呼ばわりなんて名誉棄損もいいところだ! 覚悟しろよ! 多額の賠償金を請求してやるからな!」
「……話にならないわね」
呆れた表情を浮かべた博美さんの右手には一枚のカードが握られていた。
「それはまさか……そんな! なんで博美さんが!?」




