第44話
「お前ら……たくさんいてズリィぞ……」
「ズルいのはお前のビースト能力だろうが。ちょこまかちょこまか潜っては出てきてを繰り返してよぉ。だがここが年貢の納め時だぜ」
俺、陽介、聖来の前にはそれぞれ自分のビーストを召喚している。そして俺の足元にいたチェックも獅子のビースト・ネメアを召喚していた。
さすがに四対一では分が悪いと判断した先原も足元がガクガクと震え初めている。
となりにいるフォルネウスは依然として態度を変えてはいないが、こっちのビーストが一斉に攻撃すれば強制退場はありえる。
「なんで俺の邪魔をするんだよ……」
「あ?」
「なんで俺の夢の邪魔をするんだよ! 俺は親父の言う通り野球選手になるんだ! そのために対戦相手を半殺しにしたし、ストレスに打ち勝つために『突風』を使った! 何度も何度も何度も何度も突風をキメたさ! あははははははアレは最高の代物だぜ! アレさえあれば俺は日本で、いや世界一番の野球選手になれるんだ! そうすれば俺は大金持ちだ! 億単位の車だって買えるし家だって何件でも建てることができる! もちろん突風だって買い放題のキメ放題だぜ! ひゃぁぁぁぁぁはっはっはっはっはっは! バラ色の人生が俺を待っているんだぁ! 俺は勝ち組の人間なんだぁ! それを! それを! 邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇ! 俺の前に立ちはだかるならぁ! お前全員ぶち殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「………………」
もはや反論をする必要はなかった。
こいつはもう完全にイカれている。
説教をしようにも俺たちの言葉はあいつの耳には届かない。
どれだけ説得をしようとあいつの心には響かない。そう確信した。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
フォルネウスに跨り、俺たちに向かって突進してくる先原。
もうあいつは俺たちを消すことしか脳にないのだろう。
「今すぐお前を、救ってやる! フェンリル!」「フェェェェェン!」
フォルネウスの胴体がフェンリルとすれ違った瞬間、フェンリルの爪がフォルネウスの体にダメージを与えた。鮫の三枚おろしまではいかなかったが、初めて与えたダメージにしては手ごたえがあった。
「ぐわぁぁぁ!」
フォルネウスが地面に打ち上げられ、跨っていた先原も吹き飛ばされた。
なんども地面をバウンドするが気を失っている様子はない。
「こいつで決着をつけてやる!」
倒れているフォルネウスに向かってフェンリルが高くジャンプした。
腕を交差した状態で落下しながらフォルネウスに近づき、一瞬の隙も見せないほどスピードで交差した腕を斜めに下ろした。
「爪交斬(そうこうざん)!」
鉄さえも簡単に切り裂く爪がフォルネウスの体に×印型の傷をつけた。
「フォォォォル!」
両手の爪によってほぼ同時に切り裂かれたフォルネウスは悲痛の叫びをあげた。
そしてその体は徐々に光の粒となって俺たちの前から少しずつ消えていったのだ。
ビーストアウトだ。
「うわぁぁぁぁぁ! 俺の! 俺のフォルネウスがぁぁぁぁぁ!」
今までビーストアウトになったことがなかったのか、消えてしまったフォルネウスを見て先原は泣きじゃくってしまった。
「ああ……これで俺は……幸せになれなくなってしまったぁ……あはっ……はぁ……」
そんな先原を見ながら俺は言った。
「ビーストの力を使ったってな、幸せにはなれねぇんだよ。罪を償え。親父さんもお前のことを待っているぜ」




