第45話
先原は逮捕された。
ビースト能力を失った先原に抵抗する力はなく、大人しく警察にご厄介になった。
話によると今よりも厳重な施設に入ることになるという。
なんでも脱走した後も薬を服用していたらしく、その効果が完全になくなるまで時間がかかるそうだ。
それから先原の親父さんが俺たちの前に現れて「ありがとう」と礼をした。
先原をあのような姿に変えてしまったのは自分の行き過ぎた理想の押し付けの結果だと親父さん自身も反省をしているとのことだ。
もちろん俺たちは先原の所持していたフォルネウスのカードをしっかり回収した。
ビーストカードのコンプリートに一歩近づいたのだ。
「けどよ、先原があんな風になっちまったのは薬の所為だけどよ。そのきっかけを作ったのは親父さんだよな? やっぱ親がわりーんだよ親が」
「もういいだろその話はよ。親父さんだって十分反省していたじゃないか。なぁ永一」
「…………」
喫茶・安心地帯でいつものようにナポリタンを食べている俺たちだが、俺は少しだけ考え事をしていた。
「どうしたよ永一。私の作ったナポリタン、全然食べてないじゃないか」
「え? ああ、すまねぇ。ちょっとな」
そう言いながら俺は急いでナポリタンをすすり始める。しかし勢いが強すぎたのか「げほげほ」とむせてしまった。慌ててレスカを口の中に流しこむ。
「何考えていたんだよ」
「ああ……先原の親父さんのことだよ。あの人は自分が悪いことをしたことを反省していただろ? 自分が息子を追い詰めたんだって」
「ああ」
「俺の父親はハッキリ言ってクソだった。ビースト能力に目覚めてなかったら一生この男に痛めつけられるのだろうって今でも思ってる。だからと言ってフェンリルの力であいつを殺したことですがすがしい気持ちになんかなったりはしてねぇ。むしろ後悔しまくっている。それでよ、先原の親父さんを見ていたらますます後悔するようになったんだ」
「どういうことだ?」
「どんな人間だって間違いは起こすじゃん? そりゃ人を殺しまくったりした奴は間違いなく死刑かもしれねぇけど、悪いことをしたのならさ、やり直すチャンスを与えるのもありなのかな……って思ってさ」
「やり直しのチャンスねぇ……不良のあんたがそんなこと言ってもあんまり説得力ないよ?」
「何言ってんだよ。俺は健全な不良だ。タバコの代わりにナポリタンをすすり、酒の代わりにレスカを飲む。そして喧嘩は半殺し程度に抑える。でも授業は大して聞かない」
「ずいぶんと都合のいい不良じゃねぇか」
「そんな話はどうでもいいんだよ。んで俺は思ったんだよ。あんなクソ親父だけど反省さえしてくれれば許してやるべきなんじゃないかってな。なのに俺はその反省の機会を永遠に奪っちまったんだ」
「んなこと今更言ってもしょうがなくね?」
俺と聖来の話に割り込んできたのは陽介だった。陽介も俺と同じナポリタンをすすっている。
「この世にタイムマシンなんかねーんだ。過ぎちまったことをくよくよしてもしゃーないだろうさ。ビーストの力でクソな行いをしてちゃならねぇってことはよくわかる。だからよぉ、お前はお前の二の舞を踏ませねぇようにこれまで通りビーストカードを回収すればいいってことじゃねぇか。もちろん俺たちも協力するぜ」
「陽介……お前普段は筋肉バカなのにたまにそんなイカしたセリフいうと全くの別人に見えて若干気持ち悪いぞ」
「んだとコラ」
「けど、お前の言う通りだな。ビーストの悪行はビーストでなんとかする! それが俺たち『矢崎軍団』の使命ってわけだ!」
「んだよ矢崎軍団って……」
聖来がつまんなそうな目でこっちを見てくる。
「俺たちのチーム名さ。俺を中心にビーストカードを回収するいい感じの連中ってことさ」
「おいおいなんでお前がリーダーってことになってんだよ。リーダーってのは筋肉の大きい俺にこそふさわしいだろ」
「リーダーに筋肉関係ねーし」
「私だってどうでもいいよ。軍団だろうがなんだろうがさ」
「ところでさ」と聖来が続けて俺に聞いてきた。
「お前が先原と戦った時に使ったあの……なんとか斬。あれなに?」
昨夜先原との戦いでフェンリルが使用した技のことだろう。
「ああ! 『爪交斬』のことか? 俺があみ出したフェンリルの必殺技だよ! かっこいいだろ!?」
「おおアレ俺も見たぜ! 俺たちに隠れて必殺技とか作ってたのかよ! いーなーいーなー! 俺も作っちゃおっかなー!」
意気投合した俺と陽介「「いえーい!」」とテンション高くハイタッチした。
「……アホくさ。小学生じゃあるまいし」
どうやら女子の聖来には必殺技のロマンというものがないらしい。
まぁ何はともあれフォルネウスのカードを利用した少年院脱走事件はこれで幕を下ろした。




