第41話
「しかしあいつを何とかするってどうすればいいんだ? あいつがどこに現れるかもわらかねぇしよ」
喫茶・安心地帯で先原盛幸の悪行を止めるための作戦会議は始まっていた。
一番最初に疑問を投げつけてきたのは陽介だった。
「あいつが出現するのは基本的に夕方から夜の時間帯が多いはずだ。脱獄犯の時にしろ昨日の聖来の時にしろあたりが暗くなった時にあいつが現れたからな」
「そこでだ」と俺は提案を出した。
「二手に別れよう。俺とチェック、陽介と聖来のチームで行動しようぜ」
どこに出現するかわからない奴を探すならバラバラで探した方がいいと思った。
相手ビーストの能力も未知数だから一人一人ではなく、二人一組での行動ならいざ戦闘になった時もなんとかなるだろう。
「待て待て、なんで私はこの筋肉バカと一緒なんだ」
「バカとはなんだバカとは! 心外だぞっ!」
俺なりにパワーバランスの合ったチーム分けをしたんだが聖来が抗議してきた。
「私はこんなアホと組むなんて嫌だよ」
「アホとはなんだアホとは! 心外だぞっ!」
バカなどアホなど言われている陽介は「あ!」と何かに気づいたのか、急に顔をにやけ始める。
「そうかそうかそういうことか~。うんうん俺も空気が読める男だからな! フヒヒヒヒヒ……」
「なんだお前急に、キモイぞ」
「なんだよわからねぇのか永一くぅ~ん? 聖来はお前と一緒に行動したいってことだよ」
「は?」
何を言っているのか分からず軽く口を開けてしまう。
聖来も俺と同じリアクションをしているので、同じことを思っているのだろう。
「そうなんだろそうなんだろ? 俺と組むのが嫌だってことはそういうことなんだなぁ聖来さんよ……って危ない危ない! 眼前にフォークを向けるんじゃない! 目ん玉は筋肉ないから刺されたら普通に痛いんだよ!」
失明させる気満々の聖来の顔は少し赤くなっていた。
「今度そんなこと言ったらガチで眼球抉るぞ!」
最近気兼ねなく共に行動することが多かったので忘れがちだったが聖来は南高で恐れられているスケバンなのだ。
本気で怒れば小さな怪我じゃ済まない。
「落ち着け落ち着け。わかった、聖来はチーム変更を望んでいるんだな? だったら聖来がチーム分けをしてみろよ」
こうして新しくチームが編成された。
俺と陽介、聖来とチェックというチームになった。
今夜さっそく行動開始だ。
◆
私が決めたチーム分けによって行動を開始してからの出来事だった。
「マジかよ……永一の言う通り本当に出やがるとはな……」
二手に分かれて行動してからおよそ三〇分。
本当に奴が現れるのかと少し疑問を抱きながら半分ほど警戒をしながら夜の町を歩いていたら、目の前に奴が現れたのだ。
「先原盛幸……!」
昨日私に襲いかかってきた男が目の前にいた。
全く同じ服装をしていたから一目でわかった。
「昨日はよくもやってくれたな! 倍にして返してやるぜ!」
さっそくヨルムンガルドを召喚しようとするが、共に行動していたチェックが「待て!」と止めに入ってきた。
「奴のビースト能力はまだハッキリしていない! ここは永一たちを呼んだほうがいい!」
チェックの意見にも一理あった。
昨日もやられそうになったことだしここはチェックの言う通り永一たちを呼んだほうが無難かもしれない。
さっそくスマホで連絡を取ろうとしたその一瞬のスキに先原の姿が消えていた。
「逃げた!? 違う……下だな!」
昨日と同じように地面からビーストを出現させて攻撃してくるのではないかと思ったら案の定だった。
水面から顔を出すように私の真下から鋭い牙を生やした大きな口が襲い掛かってきたのだ。
私は真後ろにジャンプして攻撃を回避することに成功した。
「ちっ……はずした……」
さっきの攻撃はなんとか回避できたがそう何回も避けられるものではない。
やはりここは永一を呼んで多人数で戦った方が有利だろう。
「何呼んでんだよ!」
スマホに手をかけた瞬間、先原のビーストが突っ込んできた。
「くっ!」
うまいこと避けるが、先原のビーストの牙が少し腕をかすめてしまった。
痛みによってスマホを地面に落としてしまう。
「金出せ……金出せ……」
先原がゆっくりとこっちに近づいてくる。このままだとやられてしまうのは明白だ。
ならばこっちもヨルムンガルドを召喚して対抗するしかない。
「させるかぁ!」
カードを取り出した瞬間、再び先原のビーストが一気に接近してきた。
「させるか! ネメア!」「メアァァァァ!」
私の足元にいたチェックがビーストを召喚していた。
チェックはビーストカードを集めていると同時にネメアという獅子のビーストを持っているという話は前に聞いたことがあるが、ネメアそのものを見るのは初めてだ。
ネメアは自分の身体の前方にバリアを発生させて、どんな攻撃も反射してしまう能力を持っているという。
「ぐぎゃ!」
体当たりを仕掛けてきた先原は見事にネメアの作り出したバリアに直撃してしまい、さらに勢いよく後方に吹っ飛んで行った。
「くくくくくく……」
地面に転がされながらも先原は怪しい笑みを浮かべている。
「何がおかしい」
「後ろがらあき」
先原がそれを言っていた頃には私の背後には奴のビーストの牙が目の前にいた。
「しまった!」
私は反射的にヨルムンガルドを召喚した。
「ガルドォォォォォ!」
本当ならば相手を氷漬けにして動きを止めればいいのだが、そんな余裕はなかった。
少し気が引けるがここはヨルムンガルドを盾代わりにするしか自分の身を守ることしかできそうにない。
先原のビーストは大きな口を開いて、ヨルムンガルドの体に向かって噛みついてきた。
噛みつかれたヨルムンガルドの体には食いちぎられた跡が残る。
見るにも耐えないほどの大きなダメージを受けてしまった。
「ガルドォ……」
(ごめん、ヨルムンガルド……)
先原のビーストの牙の餌食になってしまったヨルムンガルドは、弱々しい声と共に、光となってカードの中に戻ってしまった。
「なんちゅう攻撃力だ! 一撃でヨルムンガルドを強制退場させちまうなんて! 聖来! 俺たちだけではなんともしんどい! 早く永一たちと合流しないと!」
「その必要はないぜ!」
夜の闇の中から颯爽と現れたのは狼のビースト・フェンリルだった。
フェンリルの爪が先原のビーストの顔を切り裂く。
相当なダメージだったのか、先原のビーストは地面の中に潜ってしまった。
「ようやく見つけたぜ! ここからは俺が相手になってやる!」




