第40話
俺と陽介そして聖来は、とあるコンビニにやってきた。
「いらっしゃいませ」
レジに立っている初老の男性があいさつをする。
彼が聖来の姿を見た時、少し表情が変わった。まるで申し訳なさそうな顔だった。
「なぁ。昨日私と会った男のことについて知りたいんだけど……」
「……あともう少ししたら休憩になるから、それまで待っててくれないか?」
10分後、俺たちにジュースをそれぞれ一本おごってくれた初老の店員はコンビニの外で昨日聖来と出会った男について話をしてくれた。
「君と出会った男の名前は先原盛幸。私の息子だ」
俺たちは絶句した。
やはり昨日聖来が出会った男は俺たちが探していた先原盛幸だったということもあるが、このおっさん店員があいつの息子だと言うのだから驚きを隠せない。
「あるんだな、こんな偶然」
俺たちは先原盛幸を探していたのに、本人を見つける前に父親を先に見つけてしまうとは。
父親がいること自体は前に西高で調査した時知ってはいたが、住所や働き先までは知らなかったので会うことはないだろうと思っていた。
「息子は罪を犯して少年院にいるはずなのに、なぜ昨日あんなところにいたのか……」
「俺たちはわけあってあんたの息子を探しているんだ」
「すべて……すべて私が悪いんですっ!」
先原の親父さんは急に俺たちに土下座をしてきた。
「おいおいよしてくれよ! なんで年上のおっさんが土下座してるんだよ! やめてくれよ!」
傍から見たら俺たちが束になってカツアゲをしているようにも見えてしまうではないか。周りの人たちにいらぬ誤解を与えてしまうかもしれないので今すぐやめさせようとする
が、おっさんは頭を下げたままだった。
「私が! 息子に自分の理想を押し付けたばかりにっ……!」
「そんなに言うならよ、話してくれねぇか? あんたとあんたの息子の間に何があったのか」
俺がそう言うとおっさんは過去のことを話し始めた。
◆
先原の父親はかつて野球選手を目指していたらしい。
しかし実力不足で夢だった野球選手になることはできなかったとのことだ。
なので代わりに自分の息子に自分の夢を叶えさせようと考えていたのだ。
毎日ひたすら野球の練習をさせていたらしく、TVゲームなどを買ってあげることはなかった。
中学生になって野球部に入り、本格的に野球に専念するようになってから、野球の練習も今まで以上に過激になっていった。
ミスをすれば暴力を振るうこともあったが、父親本人は「将来のため」だと言って毎回息子を納得させていた。
将来野球選手にさせるために心を鬼にしたらしいが、今思えばそれが息子を狂わせた一番の原因だったのかもしれない。
優秀なスポーツ選手を育てている西高に入学して、さらに野球の練習がヒートアップすることになる。
なぜなら夏には全国の高校球児の憧れの舞台である甲子園があるからだ。
甲子園でいい成績を残せばプロ野球選手の道はもう目の前だ。
そんな期待に胸を躍らせている時に、先原は事件を起こした。
対戦校の選手をバットで殴りつけたのだ。
その時にはすでにもう先原は薬の餌食となっていた。尿検査ですぐに明らかになったのだ。
なぜこんなことをしたのだと問い詰めると、先原は気味の悪い笑みを浮かべながらこう答えた。
「親父の期待に応えたかったんだよ。対戦校のエースを半殺しにすれば勝てる確率はあがるじゃん? 県大会も甲子園もプロになっても同じように強い相手をボコれば勝ち続けることができる! 俺は最強のプロ野球選手になれるんだ! フハハハハハハハハ!」
常人の思考ではなかった。
薬の影響でもあるのだろうが、最後に気持ち悪く高らかに笑った息子の姿が記憶から離れない。
手塩に掛けて育てた息子が、まさか犯罪者になってしまうなんて思いもしなかった。
先原の少年院行きが決定した時、やっと気づいたのだ。
育て方を間違えてしまった、と……
◆
「ほぼおっさんの所為じゃねーかグヘェ!」
親父さんの話が終わったと同時に陽介が身も蓋もないことを言うもんだから俺は思い切り横腹を殴った。
たしかにその通りだが落ち込んでいるおっさん相手に追い打ちをかけるもんじゃねぇだろ。
「そうなんですっ! すべて私の……私のせいなんですっ!」
ぽろぽろと涙を流し始める親父さんに俺たちは周りに他にいないか焦ってしまう。
なぜならどう見ても俺たちが親父さんを泣かせているようにしか見えないからだ。
「おおお落ち着けっておっさん! 男が簡単に涙を流すもんじゃないぜ?」
「盛幸にも似たように叱ったことがあったよ。でも……今思えば私はあの子を道具扱いにしていたのかもしれない。自分の叶えられなかった夢をあの子に押し付けてしまったから、自分の理想に近づけさせようとしてしまったから、あの子はおかしくなってしまったのだ!」
「そのとーりグギャ!」と再び空気の読めない発言をする陽介の反対の横腹を俺の代わりに聖来が殴った。
「心配すんなっておっさん! あいつは俺たちがなんとかするからよ」
うなだれている親父さんの肩をぽんぽんと叩く。
そもそも相手はビースト能力に覚醒したやつだから普通の警察なんかには捕まえることは難しいだろう。
ビースト使いの問題はビースト使いで解決する必要がある。
「君たちなら、あの子を止めることができるのか……?」
「ああ。俺たちもあの男の暴走をほったらかしにするわけにはいかねぇんだ」
ビーストカードを回収するという理由があるが、これ以上親父さんが悲しむ姿を見ていたら必ず救ってあげないといけないという使命感が溢れてきたのだ。
「俺たちに任せろ!」
◆
先原盛幸は橋の下で震えていた。
まさか自分以外にもビースト使いがいたことが予想外だったのだ。
最初に見たのは西高と南高が練習試合をしている時、手助けをしてやろうとビーストを召喚した時、突如として狼のビーストが現れたのだ。
そして昨日は蛇のビーストの出現によって、先原は薬を買うための金を集めにくくなっていたのだ。
「俺を怒らせたことを……後悔させてやる!」
これ以上快楽の邪魔をするのであれば、容赦なく殺すことに決めた先原であった。




