第39話
西高で情報収集をした日の夜。
松浦はコンビニのスイーツコーナーにいた。
プリンやケーキなどが並ぶ棚を凝視して、今日は何を食べようかと考えているところだった。
「これにするか」
聖来は甘いものが好きである。こうしてコンビニでスイーツを買って食べることはもちろん、自分で作って食べたりもしている。
この間バイト先で永一と出会い自分が作ったナポリタンを「うまい」と言ってくれた。
大げさすぎて若干引いたが、作る側からしたら嬉しくないはずがない。
今度は自分の手作りのスイーツでも作ってやろうかと考えていると「いやいや恋人じゃあるまいし!」と心の中でつっこんだ。
「ありがとうございました」
愛想のいい初老のおじさん店員からつり銭をもらって、聖来はコンビニを後にしたが、なんだか妙な違和感がした。
その違和感の正体はすぐにわかった。
コンビニの灯りにより照らし出される電柱の影に男の姿があったのだ。
コアラのように電柱にしがみついていて、見るからに普通じゃないことがわかる。
普通の人なら見て見ぬふりをするだろう。
聖来もそうしようと思ったが、その人物がぶつぶつと何かを呟いているのが気になっていた。
「足りない……足りない……こんなんじゃ足りない……もっとだ、もっと風を感じさせてくれよぉ……」
目は明後日の方向を向いていて、常に口角が上がっている。
その男が聖来に近づいてきたかと思えば右手を開いてこっちに見せてきた。握手を求めているわけではなさそうだ。
「金よこせ……」
ただのカツアゲだった。迫力のカケラもない恐喝に聖来が臆することなどなかった。
「あんた、病院行きな」
それだけ言い残して聖来はさっさと姿を消そうと踵を返す。
しかし後ろから「いいからよこせぇ!」と怒声が響いた。
聖来が後ろを向くと、その男の右手には一枚のカードが握られていた。
「まじかよっ!」
変な行動をとる変人の正体がビースト使いだったと判明した時にはもう遅かった。
男はカードからビーストを召喚し、そのビーストの背中にまたがった。
そしてそのビーストは地面の中に潜ったのだ。
「なっ! どこ行った!」
左右を振り向いてもさっきと同じ男とビーストは出てこない。
急に姿を消したビーストに聖来は焦りを感じていた。
そんな時、陽介が練習試合に行った時のことを思い出した。
自分の足元から大きな口が現れた。そんなことを言っていたことを思い出していたのだ。
「くっ!」
聖来は一か八か自分の立っている位置から大きく後ろにジャンプした。
するとさっき自分が立っていた場所に大きな牙が出現した。
さっきの変人男が召喚したビーストだ。
「や、や、やるなぁ……」
ビーストにまたがりながら男は小さく拍手をした。
若干バカにしている感じがある相手の行動に聖来は少しカチンときていた。
「ふざけやがって!」
聖来も対抗しようとヨルムンガルドのカードを出現させる。
「ガルドォォォォォ!」と吠えるヨルムンガルドの姿に男は目を見開く。
「お、お、お前も! お前も持ってるのか!?」
「あんた、もしかしなくても先原盛幸だろ? この間起きた脱獄犯の事件も、西高で井下を襲ったのもあんたなんだろ? 答えろよ!」
ヨルムンガルドの口から氷の息が吐き出される。
一直線に放たれた冷たい息吹を、ビーストにまたがっている男は回避する。
「ちぃ! すばしっこい!」
「へへへへ……俺のビーストの方がスピードは上……なっ!」
男は何を驚いているのか、松浦は男が見ている方へ目線を向けた。
するとそこにはさっきのコンビニ店員の姿があった。
「何事かね!?」
騒ぎを耳にしたのか、初老のおじさん店員はここまで走ってきたのだ。
「盛幸! お前、盛幸なのか!?」
なぜか店員のおじさんはこの男の名前を知っていた。
「ひ、ひぃ!」
盛幸と呼ばれた男はビーストの力で地面の中に潜ってその場を去った。まるであの店員から逃げるように。
「待ちやがれ!」
聖来はそれを追いかけようとするが、騒ぎを聞きつけたコンビニの客や偶然通りかかった者たちが集まってきてしまったのだ。
これ以上騒ぎを起こすのはよくないと思った聖来はその場から去ることにした。




