第34話
あれから一週間経った。
それまではこれといって事件もなければビーストに関する情報も入ってこなかった。
平和なことはいいことだが、ただ俺たちが知らないだけで今もどこかでビースト使いが身勝手な行いをしているかもしれない。
そう考えるとチェックからの報告が気になって仕方がないがここ最近は姿さえも見ていない。
なので俺たちはいたって普通の学生生活を送っているわけだ。
「帰りにナポリタンでも食いに行くか」
今日は好物のナポリタンの気分だったので安心地帯に足を踏み入れようと考えていた。
しかし放課後のホームルームで担任がこんなことを口にした。
「さっき入ったニュースなんだが、刑務所から脱走した男がこの町に潜伏しているとのことだ。気をつけて帰るように」
脱走犯なんて珍しい。そもそも刑務所からの脱走なんて簡単ではないはずだが……
(もしかしてビースト使いか?)
ビーストの力を使えば脱走なんて難しくないはずだ。
担任は気をつけて帰れなんて言っているがビースト使いの可能性があるならば寄り道をしなければならないな。
◆
その男は幸運だった。
偶然という偶然が重なって、刑務所からの脱走に成功したのだ。
自分にはなにか特別な力が備わっているのかと疑うぐらいの幸運の連続により、今男は刑務所の外にいる。
刑務所の中では味の薄い料理しか口にすることができなかった彼が一番に行きたかった所はずばりコンビニだった。
コンビニに行けば甘いものが山ほどある。まず最初にそれを食らうことを目的に行動していた。
刑務作業で得たわずかな金を握りしめ、いざ行かんと足を動かそうとした時、後ろから若い声が聞こえた。
「金くれや」
その少年はどこから現れたのか。さっきまで人の気配なんて感じていなかったのに。
まるでどこからともなく突然として出現したとしか考えられない。
まぁどんな奴にどんな命令をされようが今の男にはそんなことどうでもよかった。
「わりぃがボウズ。お前にやる金は一円もねぇよ。とっとと帰りな」
そう言ってさっさとこの場所を離れようとした男の足元に何か違和感があった。
「なっ!?」
その違和感は痛みだった。まるで虎ばさみに挟まれているように片足の前と後ろに痛みが走る。
下を見てみると大きな口と鋭い牙を持った怪物が自分の足を噛んでいたのだ。
「な、ななななななな!」
なんで地面からこんな得体の知れない怪物が生えているのか。頭がどうにかなりそうだった。
「金よこせ。じゃないと噛む」
どういうわけか、この怪物はこの少年と関係があるらしい。痛みが徐々に強くなっていく。このままではまずいと判断した男は持っていた金を少年に向かって投げた。
「金ならやっただろ! た、助けてくれ!」
少年はニヤリと笑うと地面に散らばった金を少しずつ拾っていく。
「なにやってんだよ! そんなの後でいいだろ! 早くこいつをなんとかしろ!」
足を噛んでいく力が徐々に強くなっていく。強くなるたびに痛みが増し、焦りも生まれる。
それなにの少年は男の言葉に耳を貸すことなくただただ静かに地面に落ちている金を拾っている。
「はぁ……はぁ……これだけじゃ足りない……もっと集めないと……」
手の平にいっぱいに集めた金をポケットに詰め込んで、少年は去ろうとしたが「あ、忘れてた」と男の方を振り向いた。その瞬間――
男の片足が食いちぎられた。
「いぎゃああああああ!」
今まで味わったことのない激痛が男の片足に響いた。
男は倒れ、痛む片足を必死に抑えようとするが痛みは引かないし流れ出ている血を抑えることすらもできない。
ただただ叫ぶことしかできなかった。叫べば誰かが助けてくれるかもしれないと思ったからだ。
そうなれば自分は再び刑務所の中だろうがそれでもよかった。早くこの食いちぎられた片足の痛みを消してくれる者を求めた。
そうしているうちに少年の姿は夜の闇の中へと消えて言った。
「キメる前にあそこに寄るか。みんな元気にしてるかぁ……」
そんなことを口にする少年。彼の片手には一枚のカードが握られていた。
◆
「昨日のっ、夜っ、脱獄犯っ、捕まった、らしいぜっ」
南高の屋上で陽介は昼食の腹ごなしに腕立て伏せをしながらそう言った。
「そうなのか。ていうかずいぶんと張り切ってねぇかお前」
今日の陽介は筋トレオンパレードという感じだ。
授業中も空気椅子で下半身を鍛えていたし、休み時間もこっそり自宅から持ってきたダンベルで腕の筋肉を鍛えていた。
普段から筋トレ三昧である陽介だが今日は特に張り切っている様子だ。
「ああ。実は野球部の連中に助っ人を頼まれちまってよ。今度西高との練習試合に出ることになったんだ」
「西高って地元じゃめっちゃ強いところじゃないか。勝てるのか?」
「勝てるどーかはわかんねーな。野球ってあんまりやったことないし。だが野球部の連中も俺の筋肉を頼って助っ人を頼んで来たんだろ? ふっふっふ。俺の筋肉が役に立つ時が来たってことじゃねぇか。存分に戦ってやるぜ」
俺も野球の経験はないに等しいが、暇だし陽介の試合を見に行くことにした。




