第28話
「おいおいそりゃ本当かよ!」
商店街の路地裏でチェックと待ち合わせをしていた俺と陽介。
中林の住所がわかっと同時に、彼女が何者かに暴力を受けていたという事実を知る。
「けどよ、そのわりには怪我をしている様子はなかったよなあいつ」
陽介の言う通りだ。前回も前々回も彼女と会っているが、どこも怪我をしているようには見えなかった。もしかしたら服の下に怪我を隠しているかもしれないけど。
「おそらくそれがそいつビースト能力なんだろう」
「もしかして怪我を治すビーストがいるってことかよ?」
「ああ。その力で男から受けた傷を治しているんだろう」
「なんだってそんなこと……さっさと警察にチクっちまえばいいのによ」
「……人間のことをはまだオレっちにもわからないことだらけだが、もしかしたらあいつなりのワケがあるんじゃねぇのか?」
少し真剣な顔をしながらチェックは言った。
「ワケ? 殴られることを我慢しねけりゃいけねぇワケなんてあるのかよ」
「マゾなんじゃね?」
俺と同時にチェックが陽介の脛を思い切りキックした。冗談なんて言っている場合じゃないってのにこの男はまったく。
「いてててて……とにかくよ、事情はどうにしろ中林の家に行くんだろ? ビーストのこととか暴力のこととかいろいろあるかもしれねぇけどよ」
「そうだな。チェック、案内してくれ」
「ああ」
こうして路地裏を飛び出したチェックだが、すぐに何かにぶつかってしまう。
「いってぇ……」
「わりぃ。大丈夫か?」
ぶつかったのはどうやら通りすがりの人らしい、ってなんか聞いたことある声なんだが……
「って! 松浦!」
そこにいたのは俺たちの通っている学校で恐れられているスケバン女、松浦聖来だった。
「何してんだよお前らそんなところで……ってこのウサギ今しゃべらなかったか?」
まずい。チェックにとって俺たち以外の奴らに自分の本性を知られるのはなるべく避けたいとのことだ。どうやってごまかすんだ?
「…………………」
瞬き一つせずにチェックは固まってしまった。まさかぬいぐるみになりきっているのか!? いやいや無理があるって。
「何してんだよチェック。早く中林のところにいかねぇとやばいんじゃねぇのかよ」
「バカ!」
俺の後ろに立っているアンポンタンの陽介が余計なことを言ってしまっている。
「チェック? 中林? 何の話だ? お前らやっぱりあの娘に何かしようと企んでるんじゃ!」
「そ、そんなんじゃねぇよ! それより俺たち急いで――」
バン! と松浦は俺の隣にあった電柱に向かってキックをしてきた。あと少しずれていたら俺の身体に当たっていたのは間違いない。
「てめぇら何隠してんだ? あ?」
南高のスケバンの恐怖を間近で感じた俺たちは、これ以上隠し事はできないと判断し素直に白状することにした。
◆
チェックの案内によって、俺たちは中林の家の前にいた。
結局松浦にはチェックのこととビーストカードのことを洗いざらい口にしてしまった。
しかし松浦本人は「ビーストねぇ……」と半信半疑だ。
しゃべるウサギの存在には驚いていたが、カードから出現する獣のことまでは信用していない様子だ。
まぁこれから中林に会って実物を見せてやれば信用してくれるはずだ。
「それよりもさ、この前会った中林って子が家庭内暴力を受けているって本当なのか」
「ああ、オレっちがこの目でハッキリと見たさ」
「だったらさっさと助けて――」
松浦が玄関のインターホンを押そうとしたとき、家の中からパリンと何かが割れる音が響いた。
「なんだ!?」
松浦は危機を感じ、インターホンを押す前に玄関の扉に手をかけた。開けてみると鍵はかかってなく、すんなり家の中に入ることができた。
「おい! 松浦!」
勝手に家の中に入っていく松浦の後を俺と陽介は追いかける。
「な、なにしてんだよ……」
リビングの中にいたのは顔面蒼白状態の松浦だった。彼女の目線の先には割れた酒瓶を持った長身の男。そして床に倒れているのは頭から血を流している中林だった。
「どうなってんだよ、これ……」
「な、なん、なんなんだよお前ら……」
割れた酒瓶を持った男が俺たちの方を向いてそう言ってきた。
「なんなんだよはこっちだよ。お前、中林に何をした?」
「なんでってさぁ……ゲームしている途中にジュースこぼしてさぁ……PCがショートしちゃってさ……それで、それで、ゲームができなくなっちゃってさぁ! だからイライラしていたんだ! 今までで一番イライラしてんだよ! だから明咲を殴ってスッキリしていたんだ! 殴って! 殴って! 殴って! 殴っってぇぇぇぇぇ! ……はぁはぁ……でも、全然スッキリしねぇんだよ、だからさぁ、そこにあった空の瓶で殴ったらさぁ……こいつ、動かなくなっちまってさぁ……根性ねぇよなぁ?」
ぼそぼそとしゃべるコイツの言葉を耳に入れるたびに、俺の中の怒りがふつふつを湧いてきやがる。今すぐここでフェンリルを召喚して、ズタズタにしてやりたい気分だ。いや、こんなやつビーストの力を使うまでもない。俺のこの手で、目の前にいるふざけたクソ野郎とぶっ飛ばしてやる!
しかし俺が飛び出す前に松浦が「この野郎!」と叫びながら目の前の男の顔面にパンチを繰り出していた。
「い、いてぇ! いてぇよぉ!」
酒瓶を手放して床の上をごろごろと転がされる男は、両手で必死に顔を抑え込んでいる。鼻から血が出ているのか、よく見ると指の間から血が流れている。
「お前、こいつの兄貴なのか?」
「な、なんなんだよ、それが……」
「こいつの兄貴なのかって聞いてんだよクズがぁ!」
半泣き状態相手にも関わらず怒鳴る松浦。
「兄貴ってのはよぉ、妹を守るためにいるんじゃねぇのかよ!? なに妹傷つけてんだよ! あぁ!?」
「だ、黙れよ……お前も、俺をイジメるのか?」
「はぁ?」
「どいつもこいつもムカつくんだよ……俺はエリートなのに誰も俺のことなんかバカにしやがって……ああうぜぇ、お前らマジでうぜぇよ!」
ふらふらの状態のまま立ち上がってきた男の右手には一枚のカードが握られていた。
「な! あれはもしかしてビーストカード!?」
「なんだよお前ら、知っているのかよ……そうさ、俺も持っているんだぜ? だけどコイツの力は強力だからよぉ……下手したら秋咲を殺しちまうかもしれないほどの力だからよぉ……使わないでおいたのさ」
目の前のクズ男の手に持っていたカードが光だし、そこから現れたビーストは……巨体を持った一体の象だった。




