第27話
行きつけの喫茶店、安心地帯。
ここでいつものナポリタンを注文した俺は中林の様子が怪しいことで話あっていた。
「中林は間違いなくビーストカードを持っている。だけどとある事情があってそれを手放すことができないのかもしれない」
「とある事情ってなんだよ。どーせ悪いこととかしているんだろ?」
確かに今まで出会ったビースト使いはみんな自分勝手にビーストの力を利用していた。
北高の生徒、吉岡朔朗はイジメの復讐、俺たちの通う南高の教師、桑名礼介は指導の道具としてビーストを使っていた。
「だけど今回はなんだか違う気がする。中林もたしかにビーストカードを利用しているのかもしれないが、悪いことには使っていないんじゃないのか?」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「あいつは去り際に『殺される』って呟いていたんだよ。ビーストを悪用している奴が言うセリフなんかじゃねぇ」
「ふーん……それで? これからどうするんだよ」
「うーん……明日から中林を尾行して動向を探るしか――」
「なんだお前ら。ストーカーの相談か?」
俺の好きなナポリタンの匂いと共に現れたのは松浦だった。だけどなにやら目つきが怖い。
「なんだよ松浦。そんな目をしていたらお客が逃げちまうぜ? ていうかストーカーの相談じゃねぇし」
「お前らまさか。助けた礼とか言って中林って娘にちょっかいだそうって考えているんじゃねぇだろうな? あぁ?」
「んなわけねーし! 俺たち不良だけどそこまでクズなことしねぇよ!」
「いや俺は不良じゃねぇぞ。俺はそう! 筋肉だ!」
「うん、お前は少し黙ってろ」
松浦にいらぬ誤解を与えてしまった。これでは中林を尾行する作戦は却下になる。からと言って直接東高に足を踏み入れようとすればまたあの堅物クソ眼鏡インベーダー生徒会長にあれこれ言われて門前払いされるのがオチだ。
透明人間にでも変身できればこっそり潜入できるんだろうけどなぁ……
「あ」
俺はふと思いついてしまった。
透明人間にはなれなくても中林の情報を入手する手段を。
「あいつに頼めばいいだけの話じゃねぇか」
◆
翌日の放課後。
東高の校門に、彼はいた。
永一と陽介は無理でも、彼なら目立つことなくこっそりと中林の後をつけることができるからだ。
「ま、元々オレっちの問題だからな。協力しない理由はないな」
草陰に隠れていた白いウサギ、神の使いチェックは校門からぞろぞろと出てくる生徒たち一人一人を確認していく。
そう。永一が思いついた中林の情報を集める方法とは、普通にチェックに頼むことだった。
人間相手なら怪しまれるかもだが、そこらへんの小動物なら小回りもできるし隠れながらの尾行だってしても怪しまれない。もっとも学校の近くで野生のウサギがうろうろしているのはやや珍しいかもしれないが。
とりあえず今回は中林の住所さえわかればいいとのことでチェックは中林の後を追うことだけを考えていた。
「お、来た来た」
校門から出てきた中林の姿を確認したチェックは草陰から出て、素早く電柱の影に移動する。影から影への移動を繰り返して中林の後を追いかけていく。
それを繰り返すことおよそ二〇分。チェックは中林の家にたどり着いた。
「ここか……」
ごく普通の一件家。その前に中林は立っていたが、表情がどうも暗い。「はぁ……」と思いため息を吐いてからドアノブを回して家に入る。
「ただいま」
そう言って中林は家の中に入っていった。
「まぁ今回は住所だけを調べるってことだし今日は帰るか……」とチェックが踵を返そうとしたその時だった。
中林家の中で何かが割れる音が響いたのだ。
「なんだ!?」
反射的に家の中に入っていくチェック。庭に行き、カーテンの間から家の中の様子を見ることができた。
今さっき帰宅した中林と、彼女より少し年上の男が一人。
なんと男は中林の髪を引っ張って床に叩きつていたのだ。よく見ると割れた花瓶が床に散乱している。さっきの音はおそらくこれだろう。
「ムカつくムカつくムカつくんだよぉぉぉぉぉぉ!」
中にいる男が怒声を上げてきた。外にも聞こえるくらいの大きな声。そしてまた中林の髪を掴んでは床に叩き付けていた。
「なんであそこで! 足を引っ張るんだよ! あのクソプレイヤァァァァァ! 俺のランキングがまた下がっちまったじゃねぇかよぉぉぉ!」
チェックには彼が何で怒っているのかわからなかった。だが無抵抗の人間を痛めつけている行為を見ているとむかっ腹が立ってくるのは確かだ。
助けに行こうにも無闇に自分の姿を見せるわけにはいかなく、チェックは血眼になりながらただ見ていることしかできなかった。
(エーイチみたいな人間もいることは知ったが……やはり人間はクソだ!)
このことをいち早く永一たちに知らせるためにチェックは振り返ってすぐダッシュした。




