第26話
「ほへー……ここが頭のいい奴らが通っている東高か」
平日の放課後、俺と陽介はこの町で一番成績優秀な生徒たちが通っている学校、東高にやってきた。
なぜ万年劣等生である俺たちがこんな場違いな所にいるのかと言うと、昨日チェックが言っていたことがきっかけだった。
「しかし昨日会ったあの子がビースト使いだなんて、俺はそうには見えないぜ」
陽介の言う通り、俺もあの子がビースト使いだなんて考えにくい。今まで遭遇したビースト使いはみなビーストの力を使って自分勝手なことをしていた。
北高の生徒、吉岡朔朗はイジメの復讐に蛸のビースト・クラーケンの力を使っていて、俺たちの学校の教師だった桑名礼介は蝗のビースト・アバドンの力で生徒たちを無理やり言うことを聞かせていた。どいつもこいつもハッキリ言ってクズ野郎ばかりだった。
だけど昨日出会った中林明咲はどうも悪いことをしているようには見えない。きれいな態度で礼を言ってくれた彼女がビーストの力を濫用するようには見えない。
まぁビースト使いの全員が全員悪いことをしているとは限らないと思うけど。
それを確かめるために俺と陽介は中林が通っている東高の校門の前に立っているわけだ。
「よし行くか!」と校門を潜り抜けようとした瞬間「待て」とクールな男の声が聞こえたので足が自然と止まってしまった。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
俺たちの間の前に現れたのは眼鏡をかけた男だった。
年齢は俺たちより少し上なのだろうか? 着ている制服は着崩しされておらず、見てわかるぐらいの優等生感を放っているいかにもイイ子ちゃんな雰囲気な男だった。
「いや俺たちここにいる生徒に用があるんスけど……」
陽介が俺に代わって目の前のきっちり男と話をするが、男は「ふん」と言いながら俺たちを睨んだ。
「お前たちのその制服は南高だろ? 僕たちより出来の悪い人間がうちの生徒に何の用だ?」
「あ?」
反射的にガンを飛ばしてしまった。俺の今の顔は間違いなくカツアゲをする不良と同じ顔になっているだろう。
そんなことするもんじゃないと言われてもそれは無理だ。なぜなら初対面の人に対して「出来の悪い人間」なんて言われたら誰だってむかっ腹が立つもんだ。
「なんだその目は? とにかくここはお前たちのような輩がいていい場所じゃない。失せろ」
「てめ……」
「なぁ行こうぜ永一。俺こいつ嫌いだ」
あと少しで手が出そうになったところを陽介が止めてくれた。
「僕も自分より劣っている人間がどうも好かん。さっさとここから出て行ってくれないか? 劣等生の南高さん」
◆
「ああああああああ! なんなんだよあのクソ眼鏡インベーダーはぁ!」
俺がここまで頭に来たのは今年に入って初めてだ。今ならこの怒りの力を利用し、素手で巨大な岩も破壊できるんじゃないというくらいにむしゃくしゃしていた。
そんな怒りのエネルギーを河原で拾った小石に籠めて、大声を出しながら川に向かって思い切り投げた。
「クソ眼鏡はわかるけどよぉ……なんだよインベーダーって」
「宇宙人みたいなツラしてたじゃねぇかよ! あの野郎はよぉ!」
頭のやかんが沸騰しそうになっている俺対して陽介はいたって冷静だ。
「お前意外とクールなんだな」
脳みそ筋肉アンポンタンという印象が強い陽介だが相手の挑発に乗ったりすることはないらしい。
「クールなもんかよ。俺も結構頭にきてんだぜ? 公衆の面前でジャイアントスイングしたい心をぐっとこらえていたのさ」
筋肉が自慢の陽介が繰り出すジャイアントスイングか。ひとたまりもないだろうな。
「だがな、俺のこの筋肉は他人を傷つけるためにあるんじゃねぇ。己の存在を高めるために鍛えているのさ」
陽介はたまに大人に見える時がある。見習わなければ。
「それにしてもよぉ? 東高の奴らってみんなあんな感じなのか?」
昨日の中林という女子はとことん礼儀正しい女の子だった。それとは対照的にあの男は頭上からつま先にかけてとことんむかつく男だった。
「中林の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ」
「あの? 呼びましたか?」
振り向くとそこには昨日俺と松浦が助けた女子の姿があった。
「おわあああああ! ビックリしたぁ!」
「そんなに驚かないでくださいよ。ところでさっき私のことを口にしていたような……」
「え? ああ、実は今日お前に会いに行こうとしていたんだが……」
俺たちは東高の生徒に門前払いをされたことを中林に話した。
「ああ、彼は生徒会長の高渕清さんですよ。お二人もご存知の通り、なかなか厳しい方なんです」
「厳しいって言うか南高の生徒だってだけでめっちゃディスられたんだけど。なんなん? 東高の奴らってみんなあんな風に下々の者たちをバカにして生きているのか?」
「たしかに会長はプライドが高くて他人を見下すところがありますが、成績は優秀で運動もできるたいへん人気の高い人なんですよ」
成績がよけりゃどんな悪口言っても許されるってか? いいご身分だな。
「それに東高の人たちは別に他人を見下したりはしませんよ。昨日私を助けてくれた人にそんなことするわけないじゃないですか」
「やさしいな、もうお前が生徒会長になっちまえよ、って! そんなこたぁどうでもいいんだよ」
俺は本題に入り始めた。
「単刀直入に言うぜ? 中林さんよぉ、あんたビーストカードを持っていたりしねぇか?」
「!」
図星をつかれたようなリアクションだった。大きく目を見開いた中林は少し後ずさる。
「な、なんのことですか?」
「いやなに誤魔化すことはねぇよ。俺たちも持っているからさ」
そう言って俺は手のひらにフェンリルのカードを出現させ中林に見せた。隣にいた陽介も俺と同じようにミノタウロスのカードを出して彼女に見せる。
「俺たちはわけあってそのカードを集めているんだ。カツアゲってわけじゃないけどさ、あんたもカードを持っているなら俺たちに譲ってくれないか?」
「…………」
中林は黙り込んでしまった。
「もしかしたらそれがないと困る事情があるのかもしれない。だけどそいつを持ってばかりいると悪いことに使っちまうかもだろ? そうならないために――」
「これがないと私殺されちゃう」
そう呟いた中林は踵を返して俺たちの前から去ってしまった。
「あ、おい! 逃げんなこらぁ!」
「よせ、陽介」
「けどよう永一!」
「あの様子から見てビーストカードを持っているのは確かだ。だけど何やら事情を抱えていることも事実だ」
小声で聞こえにくかったが「殺される」と聞こえた。
「これは何かあるぜ。安心地帯で作戦会議だ」




