第25話
「あ~走った走った……」
商店街での揉め事を聞きつけた警官から必死に逃げた俺たちは、商店街から離れた河原にいた。そういえばここで俺は舞炎隊と名乗る三人組の不良たちと戦った覚えがある。あと尾坂という上級国民を名乗る銃刀法違反者で撃たれたこともあったな。思い出したら横腹が痛くなってきた。もう思い出さないようにしよう……
「大丈夫か?」
俺たちと一緒に走ってきた東高の女子を心配したのは松浦だった。
「ハァ……ハァ……だ、大丈夫です」
俺たちよりも息が上がっている。運動が苦手なのだろうか? 東高の連中は頭がいい奴らばかりだから体が弱いのかもしれない。
「ていうかよ……俺、一番状況が理解できてねぇんだけど?」
陽介がそんなこと言ってきたもんだから俺もふと疑問に思った。
「そうだよな。松浦はなんであんな奴らに絡まれていたんだ?」
「私が絡まれていたわけじゃねぇよ。この子があいつらに絡まれていたんだ」
「あーなるほど」
彼女のピンチに颯爽と駆けつけたわけだな。
「なかなか正義じゃねぇか松浦。いよっ! 姉御肌!」
「あ?」
「いや、なんでもないッス……」
ちょっとからかっただけなのに松浦の奴はめっちゃ俺を睨んできやがった。冗談の通じないやつだ。
「あ、あの。ありがとうございます。私がよそ見して歩いていたらあの人たちにぶつかっちゃって。それで怖くて怖くて……」
うっすら目尻に涙をためている。よっぽど怖かったのだろう。
「そうだよな。不良なんかに絡まれたら誰だって怖いよな?」
俺も不良だけど。
「ええ。兄なら慣れているんですけど……」
「ん?」
「い、いえ! なんでもありません! こっちの話です! あ、自己紹介がまだでしたね。私は東高に通っている中林明咲と言います」
「松浦聖来だ。見ての通り南高だ」
「俺は矢崎永一」
「井下陽介だ。よろしくな」
三人同時に自己紹介した俺たちに、中林は「今回は本当にありがとうございました」と礼儀正しく頭を下げた。
「このお礼はいつか必ずします」と言った後、中林はそそくさと河原から離れていった。
「さっすが東高の奴だ。出来が違うぜ」
「まったくだな」
陽介と俺が感心していると、松浦は何も言わず俺たちから離れていった。
「おいおいもう帰るのかよ」と声をかけたところで俺は大事なことを思い出す。
速足で松浦に近づき、俺はクマのキーホルダーを出した。
「これ、お前のだろ?」
「あ」
松浦は少し頬を赤らめながらキーホルダーを手にした。
この様子からしてやはりこんなかわいいキーホルダーを持っていることが恥ずかしかったのだろう。
「お前、これを届けに?」
「ああ。急いで追いかけたんだぜ?」
「嘘つけよ。お前こいつがどんな生活しているか気になってストーカいっだっ!」
陽介のアホがいらんことを口にしようとするもんだから俺は横腹を思い切り殴った。
「なんでもないなんでもない!」
ストーカー行為なんてしていたと知ったらボコボコにされるに決まっている。俺は全力で否定をした。
「よくわからねぇけどありがとな。明日は喫茶店、シフト入っているから来てくれよ」
「おおそうか! ぜってー行くからよ!」
こうして松浦は俺たちの前から去って行った。
「ようやく行ったか」
「「うわぁ!」」
前触れもなくひょっこりと俺たちの知っている白ウサギが姿を現したもんだから心臓が飛び跳ねた。陽介も俺と同じリアクションをしている。
「チェックぅ……毎回毎回いきなり飛び出してくるなよな、心臓に悪いじゃねぇかよ」
「そんなことよりもだ。一つ気になることがあってな」
「気になること?」
チェックが指をさす方向。それは中林が去っていった方だった。
「エーイチ。あいつはビースト使いだぜ」




