第23話
「よ! 松浦!」
腹も心も満たしてくれた絶品ナポリタンを作ってくれた松浦の姿を廊下で見かけたのであいさつをする俺。
「んだよ……気安く呼ぶんじゃねぇよ」
何が嫌なのか、松浦は俺を睨んできやがった。
「なんだよその目は。まぁいいや。お前の目つきの悪さは今に始まったことじゃねぇもんな」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ」
「怖いこと言いなよ。ところで今日もバイトか? もしそうなら今日も俺、行っちゃうぜ?」
俺は一週間連続でナポリタンを食べ続けることができる自身がある。途中で絶対に飽きないくらいにナポリタンが大好物なのだ。
「わりぃな。今日は休みだよ」
「そうか。お前のナポリタン。めっちゃくっちゃうまかったからな。毎日でも食いたいくらいだぜ」
「は、ハァ!? 何言ってんだお前! バカじゃねぇの!?」
ゲシッ! と俺の脛を思い切りキックしてから松浦は去っていった。
「いつつつ……なんなんだよ」
「おう。どうした永一」
片足でケンケンしながら蹴られたところを押さえていると、後ろから陽介の声が聞こえた。
「さっきさ松浦と会ったんだけどさ、お前のナポリタン毎日食いたいって言ったらいきなり蹴られちまったぜ? おかしいと思わねぇか?」
「あー……それはきっとあれだな」
「ん? なんだよ」
「いわゆる『俺のためにみそ汁を毎日作ってくれ』的なやつと思ったんじゃねぇのか?」
それは一昔のドラマとかでたまに聞くプロポーズのセリフじゃねぇか。そんな古臭いセリフをナポリタン風に解釈しちまったってことなのか?
「…………」
「…………」
「んなわけないよなっ!」
「そうだな! そんなわけないそんなわけない!」
もしそれが本当なら松浦は相当な乙女チック女ってことになっちゃうもんな!
◆
その日の放課後、俺はそのまま家に直接帰ろうかと思ったが、下駄箱付近で松浦を見かけた。
声をかけようと思ったがその時、松浦のカバンにぶら下がっていた何かが落ちた。松浦はそれに気づいていない様子だった。
なんだろうと俺は松浦の落とし物を拾った。
それは小柄でかわいい熊のキーホルダーだった。
(これなんのキャラクターだ?)
熊をモチーフにしたキャラクターなら山ほどいるだろうが、これはあんまり見たことがないなぁ……最近の女子の趣味なぞ知らないし、きっと最近はやりのキャラクターか何かなのだろう。
ていうか松浦もこんなかわいいグッズを持つことあるんだなぁ……意外。
「ってあれ?」
落とした熊のキーホルダーを渡そうと思ってが、その時にはすでに松浦の姿はなかった。もうすでに学校を後にしてしまったのかもしれない。
「ん? なにしてんだ永一?」
そこへやってきたのは陽介だった。
「ああ。松浦の奴がさコレを落としたんだけど、あいつ先に行っちまってさ」
「走れば間に合うんじゃね?」
「そうかもな」
こうして俺は松浦の後を追うことにした。
◆
松浦の姿を見つけることはできた。
だが俺はすぐには松浦に熊のキーホルダーを渡さなかった。
「なんで松浦のところに行かねぇんだよ。そこにいるじゃねぇか」
「ま、まぁ……な?」
悪気があっての行動ではないが、俺は松浦の行動を観察することにした。
これじゃあストーカーじゃないかと言われるかもしれない。だが、どうしても気になってしまったのだ。松浦の普段の生活ってやつを。
普段はスケバンとして南高の連中に恐れられている松浦。しかし実はナポリタンを作るのがうまかったり、熊のキーホルダーを持っていたりと、何かと乙女なところがあって俺はもっと松浦のことを知りたくなってしまった。
しかし直接聞いてすんなりと教えてくれるやつだとは思っていない。だから俺は影に隠れながら松浦の動向を探ることにした。
「お前にこんな趣味があったとはな……ガッカリだぜ相棒」
「あのなぁ、だから俺はストーカーじゃないって……って言っても他人から見たらストーカーにしか見えないよな……」
それはなんとなく自分でもわかっているさ。
「まぁ心配しなくても俺もアイツのこと知らないし、いい機会かもな」
「お! 気が合うな陽介」
こうして俺たちは松浦の後をつけることにした。
ばれないように忍者のごとくそそくさと後をつけて、松浦の後を追いかける。
そうしているといつの間にか商店街に入っていた。
「本屋に入っていったぞ」
年季の入った古い書店だが、この店は俺もよく通っている。いつもここで最新のグラビア雑誌を購入しているのだ。
俺たちも書店の中に入っていく。店内は小さいので簡単に見つかってしまうかもしれないので、俺はグラビア雑誌を開いて顔を隠しながら松浦の様子を見ることにした。
陽介も同じように雑誌を開いて俺と同じことをしているが、陽介が開いている雑誌のタイトルが気になって松浦から視線を外しそうになってしまう。なんだよ「マッスル大冒険」って。表紙には黒光りした外国のボディビルダーの写真が載っている。こいつはやっぱり雑誌もこんな感じのやつしか読まないのだろうか。夏休みの読書感想文ももしかしてこんなものを題材にしているのでは? 陽介のことだからありえん話ではないな。
「ん? あいつ漫画なんて読むのか?」
松浦が今立っているのは漫画コーナーだ。それも少女漫画ばかりが並んでいる棚の前に立っては周りに見られていないかどうかを確かめるために何度もキョロキョロしている。 そして一冊の本に手を伸ばして手に取る。そしてそれを自分のカバンの中へ……入れることなくそそくさとレジへと向かっていった。
「俺はてっきり万引きするかと思ったぜ」
不謹慎ながら陽介も俺と同じことを考えていたらしい。まぁ見るからに怪しい動きをしているからな、やるのか? やるのか? と内心ドキドキしていたが、あいつはゲスなことなんかしないと信じていた。
会計を済ませた松浦は購入した少女漫画をカバンの中に入れて書店を後にした。
俺たちも引き続き松浦の後を追うことにするが、「待て」と陽介に停められる。
「俺これ買うから先に行っててくれ」
「おいおい……さっさとしろよ?」
俺は読んでいたグラビア雑誌を元の場所に戻して松浦の後を追うことにした。




