第21話
「なに見てんだよ」
店内に入ってきたスケバンの少女、松浦は俺たちのことをジッと睨んできた。
まさかこんなところでこいつと出会ってしまうとは……
「おい。お客さんに向かって何て目つきしてんだ」
すると突然マスターが現れて松浦に向かって注意をした。それを言うのならアンタも口の悪さを何とかしろというツッコミはなしだ。
「……すんません」
「ほら、早く着替えな。そいつらにナポリタンだ」
「はい」
ん? なんでマスターが松浦になんか指示をしているんだ?
松浦が店内のさらに奥に入っていき、しばらくするとエプロン姿でこっちに戻ってきた。
「あいつここで働いていたんか!?」
陽介は驚いているが、俺も驚いている。俺はこの店の常連だが、松浦が働いている姿なんて見たことがない。
「前々からバイトの募集をしていてな。なかなか来ないと思っていたけど最近になってあの子が入ってきてくれるようになったんだ」
「なるほどねぇ……でも最近入ったばかりのやつに俺を満足させるナポリタンを作ることができるのか~?」
「なんで上から目線なんだよ。ま、楽しみにしていな」
ナポリタン大好きボーイである俺が、まさか松浦の作るナポリタンを食すことになるとはな。
「よかったじゃねぇか永一。女子高生の手作り料理を食えるんだぜ?」
「あ? ……ああ」
陽介の言うことにも一理ある。俺と年が変わらない女の手料理が食えるなんてなかなかレアなことじゃないだろうか?
しかし作る相手はあの南高で恐れられているスケバンの松浦だ。そんな彼女の作る料理とははたして……
「お待ちどうさん」
しばらく待っているとマスターがナポリタンを持ってきた。
「う~む……」
俺はフォークを手に取る前にまずはナポリタンを凝視した。見たところマスターが作るナポリタンとの違いはない。
次に鼻で香りを楽しむ。うん、このケチャップの香りがなんとも……
「なにさっきから変なことしてるんだよ。変態かお前?」
「誰が変態じゃ!」
俺なりのナポリタンを楽しんでいたのに陽介に変態呼ばわりされてしまった。
まぁ見た目も香りも堪能できたことだし、そろそろ食べるとしますか。俺はフォークをくるくる回してパスタをひとまとめにする。そしてそのまま口の中に入れ――
「うんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
吠えた。俺は吠えざるおえなかった!
「パスタがケチャップを、ケチャップがパスタを引き立てていやがる! なんつーかこう……なんか、そう! ハーモニーってやつだ! 味のパンドラボックスっとも言うよな、ウン! デリシャスすぎるだろオイ! もうこれ店に出せるレベルにまで達しているぜ! いやー生きててよかった食べてよかった! 俺の心の中のナポリタンランキングの上位に輝くうまさだ! なにボーっとしているだよ陽介! お前も食ってみろって、なぁおい!」
「あ、ああ……お前がそこまでいうならよ……」
俺は陽介に松浦の作ったナポリタンを勧めた。
「お、おおう……こりゃうまいな」
モソモソと食べて平凡なリアクションをする陽介に俺は一瞬で腹が立った。
「なんだてめぇそのリアクションはよぉ? さてはうまくないとか思ってんじゃねぇだろうな、ああ?」
俺は立ち上がり向かいの席の陽介の胸ぐらを掴んだ。
すると「オイ!」と松浦が俺の頭をお盆で叩いてきやがった。
「なにすんだ!」
「喧嘩するなら外でやりな……他の客に迷惑だろうが」
殺意でいっぱいで満ちた眼光を突き付けてくる松浦に俺は一瞬で委縮してしまう。
「さ……さーせん」
小声で謝罪しながら俺は席に座りなおした。
「わ、悪かったな、陽介」
「別にいいけどよう……なんだってあんなにキレたんだ?」
「いやなに。ナポリタンマニアの血が騒いだというかなんというか……」
「ナポリタンマニア? なんだそりゃ? アホだったんだなお前」
「それはお前には言われたくない」
そんなこんなで俺たちは松浦の作ったナポリタンを堪能した。
「いやーごっそさん! うむうむ余は満足じゃ」
ナポリタンをすべて平らげ、レスカを飲み干した俺は腹をぽんぽんと叩いた。
「なぁ」
食べ終わったばかりの俺のテーブルに松浦がやってきた。もしかして「食べ終わったらさっさと帰りな」とか言ってくるのか?
「ありがとな」
「ん?」
なぜかお礼を言われてしまった。
「あたしの作ったナポリタンをさ、うまいって言ってくれてさ。めっちゃ大声で迷惑だったけど、うれしかったよ」
頬をぽりぽりとかきながらそんなことを言う松浦。
「ああ。このナポリタンはうまかった。本当にうまかった。お前は将来いい感じのお嫁さんになれるぜ」
「は? はぁ!? なななな何言ってんだお前!」
俺はジョークで言ったのに松浦は本気と受け止めてしまったのか、顔を真っ赤にしながらまたお盆で頭を叩かれてしまった。今度は結構強めだったのでめっちゃ痛かった。
「ピュアなやっちゃのぉ……」
陽介がそんなことを呟いていたが、まったくその通りである。
スケバンと恐れられている松浦聖来。そいつは意外とかわいいところもあったんだもんだ。




