第20話
俺たちが暮らしているこの町には4つの高校が存在する。ではどの高校も同じようなものなのだろうか? それは違う。
今回は、この町に存在する4つの学校について触れてみよう。
まずは東校。ここに通っている生徒はみんな成績が優秀で、将来はいい大学に入っていい会社に就職することが目に見えている高校だ。ようするに俺みたいな不良なんかとは縁もゆかりもないいい子ちゃんのための学校だな。入学試験もとても難しいはずだ。なんせエリート校だからな。生半可な頭脳じゃ入学することなんて無理だろうな。
次に紹介するのは西校。ここの生徒の成績は普通かもしれないが、その代わりスポーツに特化した高校であり、この学校のほとんどの運動部はインターハイとかに出場している。自分の青春の大半を部活動に費やしているというストイックさには感心する。俺も勉強よりも運動の方が好きではあるが、西校の連中と一緒に練習をしろって言われたらついていける自身がないな。入部して三日で辞めるな。
続いて南校。ここは俺が今通っている学校である。特徴と言えば「特徴がないのが特徴」というべきか。平凡な授業、平凡な行事、何をとってもフツーを貫いている学校である。まぁ俺のような不良がチラホラいるけどな。
不良と言えば忘れてはいけないのが北高だ。ここは言ってしまえば不良たちの巣窟だ。右を見ても左を見ても不良、不良、不良のオンパレード。その気になれば不良たちだけでパレードができるかもしれないくらい素行の悪い連中がウヨウヨいるわけだ。不良を自称しているが俺はそこまで落ちこぼれじゃねぇ。
だけどなにも北高だけに不良どもがいるわけじゃない。俺の通っている南高はもちろん、西高にも不良はいるし、もしかしたら東高にも隠れ不良的存在がいるかもしれない。
あと、不良と一言で言ってもガラの悪い男ばかりとは限らない。女だって不良はいるもんだ。そう、俺の通っている学校にも「スケバン」と呼ばれている女の不良が存在している。
そいつの名は……松浦聖来。
◆
「どきな」
廊下でわちゃわちゃとはしゃいでいる数人の男子生徒をそいつは一声だけで黙らせた。
「おっかねーよな、松浦って」
そんな様子を偶然見てしまった俺と陽介。陽介は松浦の姿を見てそう言ったのだ。
だけど陽介の言うことはわからなくもない。なんでも松浦は木刀一本で数人の不良を叩きのめしたという噂がある。実際に戦っている姿を見ているわけではないので真実かどうかは不明だが、あの蛙を睨む蛇のような眼光を見ていると、本当に無双ゲームのキャラクターような振舞いをしているのではないかと疑ってしまう。
ひょっとしたら俺よりも強いのではないかと思うとゾッとする。
「あーゆーのってスケバンって言うんだっけ?」
スケバンってなんだか昭和チックなネーミングだが、間違いはないと思う。
現に松浦は一昔の不良女のような格好をしている。制服のスカートの丈が長いのだ。今時のJKなら制服のスカートなんて短くしてナンボであるのに対して松浦のスカードは膝すら見せないほどに長くしている。そのスカートの長さがスケバンらしさを物語っている。
あとこれはスケバンと直接関係ないと思うが……松浦は結構美人だ。肩まで伸ばした黒髪がよく似合っているし、不良じゃなくて普通の生徒だったらそこらの数人の男子に告られてもおかしくはないほどに美少女なのだ。
「あんなに美人なのに友達とかいねぇのかなぁ?」
「なんだよ永一。お前あんな感じの女子がいいのか?」
おっと。俺としたことが心の中で思っていたことを思わず口に出してしまった。松浦のことを思い切り「美人」なんて言っちまったじゃねぇか。
なので俺はそれとなく誤魔化す。
「ちがわい。俺の好みの女はグラビアアイドルの如く出るとこ出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるグラマラスな……」 と俺が理想の女の話をしていると松浦がこっちをにらみつけてきやがった。全身の動きが止まるかもしれないほどに恐ろしい視線だった。
視線を察知した俺は被害に合う前にそそくさとその場から退却した。
「オイどこ行くんだよ」と陽介のアホが大きな声で俺の後を追いかけてくる。松浦に気づかれたらどうするんだ!
◆
放課後。
ここは俺の行きつけの喫茶店「安心地帯」。
この間ビースト使い同士の仲間として陽介が加わったので、陽介にこの場所を教えてやったのだ。
「この店、ステーキあるのか?」
「あるわけねーだろ。ステーキを提供する喫茶店なんて聞いたことねーよ。ここにあるのはナポリタンだ」
陽介は肉が好物なのだろうか。マッチョマンは肉をガツガツ食べるイメージがあるから陽介もそうなんだろうか?
「プロテインは?」
「もっとねーよ! それは自分で買って飲め!」
本気で言っているのか、ギャグで言っているのかはまったく不明だがこの陽介という男と本格的に一緒に行動するようになってからよくわからない野郎だということはハッキリした。
「マスター」
店内に入ると顎鬚を生やした喫茶店のマスター、玉地浩三さんが顔を出した。
「またお前か。ほんとよく来るよな」
「そんだけマスターのナポリタンがうまいってことさ」
「いっちょ前に常連気取ってんじゃねぇよ、悪ガキ」
「どんなに悪口言われても、俺はあんたのナポリが好きなんよ」
「そんなに言うならよ、そろそろ俺のコーヒーも飲んでもらおうか? いつもお前レスカばかりじゃねぇかよ」
「……そ、それは」
正直なとこ俺はコーヒーが苦手なのだ。シンプルに苦いのが嫌であり、ここに来る時はいつもナポリタンと一緒にレスカを注文している。
「うちはコーヒーが自慢なんだ……ん? なんだ今日はもう一人いるのか」
マスターが俺の後ろで物珍しそうにキョロキョロと店内を見渡している陽介に気づいた。
「ああ。俺と同じ学校のやつなんだ」
「この間来た三人組とは違うんだな」
この間の三人組とはおそらく舞炎隊のことだろう。以前にもあいつらと一緒に来たことがあるがそれっきりである。
「あ、どもッス。井下陽介ッス」
ペコリと頭を下げてとりあえずあいさつをする陽介に「まぁ適当に座りな」とマスターはぞんざいな接客をした。いい加減で多少腹立つ口ぶりだが、この人は毎回こんな感じなのでもう慣れてしまった。
「こんにちは」
俺たちが席に座ったと同時に誰かが店内に入ってきた。
その人物は俺たちがよく知っている人物だったので、俺と陽介は同時に「「あ」」と軽く口を開けてしまう。
「ん?」
その人物とは俺たちの学校にいるスケバン、松浦聖来だった。




