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今日日の不良はカードからビーストを召喚するんだぜ?  作者: スカッシュ
第2章 己を鍛え続ける者、井下陽介登場! 編
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第18話

「逃がさねぇぜ!」

 桑名が逃げる前にフェンリルを公園の出入り口前まで移動させていた。

「フェェェェェン!」

 吠える俺のフェンリル。まさに「ここから先はいかさん」とか「逃げられはせんぞ」と言っているかのような咆哮だ。

「ひ、ひぃ……」

 地べたに尻をつけながら後ずさりする桑名。

 その後ろにはもう一体の猛獣がいることに気づいていなかったようだ。

「へ?」

 おそるおそる後ろを向いて見ると、そこに立っていたのは荒々しく鼻息を吹き出す巨大な牛がシーソーの板を担いで立っていたのだ。

「あ、あはははは……」

 顔が真っ青になる桑名。小さく開いた口から恐怖の笑い声がほんのりと聞こえた。

「ぼ、僕を殺すのか? そ、それで僕を殺すのか?」

 ミノタウロスの隣に姿を現したのは井下だった。井下はつまらなそうに「けっ」と言いながら桑名を見下ろしている。

「誰がそんなことするかよ。俺の筋肉は誰かを殺すためなんかのためにあるんじゃねぇ。己を鍛え、そしてかつての俺を助けてくれたこいつと同じ存在になるためだ」

 親指をミノタウロスに向ける井下。

「だがあんたはやりすぎた。ケジメはつけさせてもらうぜ?」

 ミノタウロスは持っていたシーソーをポイッと投げ捨てた。そして丸太のような太い腕で桑名を持ち上げる。


「ダイナミックたかいたかいだ」


 ミノタウロスは自分の出せる力を目一杯振り絞り、桑名を上空へと放り投げた。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 青い空に向かって飛んでいく桑名の姿がどんどん小さくなっていく。これはさながら逆バンジージャンプだな。紐はないけど。

「おぉー飛んだ飛んだ」

 手を額に当てて天空へと昇っていく桑名の様子を見上げる井下を「なぁ」と俺は声をかける。

「これ、どうやって受け止めるんだ?」

 俺もさっきアバドンに空から落とされたが、チェックのネメアのおかげで助かった。だが今回のあれはいくらなんでも高すぎる。落ちる途中風に吹かれて公園から離れてしまったらキャッチどころではない。

「受け止めるか……考えてなかったぜっ」

「バカッ!」

 青い空の点と化した桑名の影が、徐々に大きくなっていく。落下を始めたのだろう。すると俺の予想通り桑名は右へ左へとあっちこっちに移動を繰り返す。

「あ! あっち行ったぞ!」

「違う違う! こっちだこっちだ!」

 桑名が落ちてくると思う場所に向かって俺と井下は走り回る。まるで空からひらひらと落ちてくる一枚の一万円札を手に入れるように。

 もしキャッチに失敗して桑名が地面と激突なんかしたら井下は人殺しになってしまう。 もしそうなったらとても後味が悪い。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! たすけてぇぇぇぇぇぇぇ!」

 落下速度がだんだんあがってきたのか、桑名の悲鳴が耳に入ってきた。落下の軌道は幸い公園に向かって真っすぐ向かっている。

「あっちだ! あっちにむかってダッシュだ井下!」

「お、おう!」

 俺の指示通りに移動した井下。しかしミノタウロス自身のスピードが遅いもんだから目的地までたどり着くまでまだかかりそうだ。

「ああもうしゃあないな!」

 俺はフェンリルにミノタウロスの背中を押すように指示をした。これにより少しばかりは早くなっただろう。世話のかけるやつだ。

「よしっ! ここだな! バッチリだ!」

 落下してくる桑名の姿が完全に目に映った。

「今だ! ミノタウロス、キャッチだ!」「ミノォォォォォォ!」

 吠えるミノタウロス。10メートル、5メートルと徐々に落下していく桑名の姿を完全に目で捕らえることができたが、地面と激突する直前になって俺は思わず目をつむってしまう。

「…………」

 目の前は真っ暗だ。当然だ。俺は今必死に目を閉じているんだからな。目を開けるのが恐ろしい。なぜなら目を開いた先には地面に激突した桑名の残酷な死体が広がっているのではないかと思っているからだ。

 それでも俺は少しずつ瞼を開けていく。真実を見定めるために。

「……ほぅ」

 安堵の息が自然と出た。桑名は死体にはなっていなかったからだ。

 ミノタウロスの両手でしっかりとキャッチされた桑名の姿を見て緊張の糸が切れたのを感じた。

 井下も俺と同じ気持ちのようだ。いつも能天気な性格のあいつも、今回ばかりは焦りを思い知ったのか、額には大量の汗が流れていたのだ。

「ん? あれ?」

 ミノタウロスに見事にキャッチされた桑名の顔を見てみると、桑名は口から大量の泡を吹き出して、白目を向けていた。

 完全に気絶状態である。

「ありゃりゃ。こいつどうしよう」

「とりあえずそこらへんのベンチでも寝かせて置こうぜ」

「おっとその前に」と俺と井下の間に入ってきたのは一匹のおしゃべりラビットだった。

「こいつの持っているビーストカードを回収させてもらうぜ」

 そうだった。神の使いであるチェックは、ビーストを悪用している人間からビーストカードを回収するために地上へとやってきたんだったな。

「な、なんだこのウサギ! しゃべってやがる!」

「ああこいつはな……」と俺がチェックについて話そうとしたとき、小さな子供たちの声が聞こえてきた。

「ママー! ぼくのすきなシーソーがこわれているよー!」

 母親連れの子供のお気に入りだったのか、井下のミノタウロスによってひっぺがされたシーソーを見て子供は泣きだしてしまった。

「あらあら大変! 何があったのかしら!?」

 母親もこれはただ事ではないと思って慌てふためいている。

「……井下」

「……矢崎」

 井下はおそらく俺と同じことを考えているだろう。

公園の大事な遊具を破壊してしまったのだから弁償しなければならなくなるハメになってしまうと思った俺たちの行動はただ一つだった。

「「逃げろっ!!」」

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