第19話
井下が過去に助けてくれた理想の存在。
その正体はなんと井下のビーストであるミノタウロスだったのだ。
事故にあって絶望的になったその時に、井下はビーストカードを手に入れていたらしい。記憶があいまいでカードが手元にあったことさえ忘れていたようだ。
つまり井下は過去の事故の時からすでにビースト使いだったということになる。
そして井下が長年憧れていた理想の存在とは、自分自身のビーストだったということだ。
「井下、お前アホなんだな」
「うるせっ」
桑名と戦った翌日、俺と井下は学校の屋上で昼飯を食べながら井下の過去について改めて語り合っていた。
桑名は今日学校には来ていなかった。今もなお気絶している状態なのだろうか、それともアバドンの力を失ったことをきっかけに教師を辞めるかもしれないな。
あいつは今までうまくいかなかった教師生活を、ビーストの力で無理矢理うまくやっていっただけだ。その手段を失ったのだから桑名はきっと気を落としているに違いない。
まぁ俺としてはあいつが教師を続けようが続けまいがどうでもいいけどな。
「ところでさ、あのウサギってなにものなんだ?」
「オレっちのことか」
神出鬼没とはこのことだ。一番下の一階から屋上までどうやってきたのかは知らないが、いきなり俺たち二人の前にチェックが現れたのだ。当然井下は「うわぁ!」とビックリしている。
「オレっちの名はチェック。神の使いでお前たち人間を『確認する者』だ。そしてオレっちの目的は人間からビーストのカードを回収することだ」
「ビーストの回収……」
井下の手にはミノタウロスのカードが握られている。
「っていうことは俺のこのカードもお前が持っていっちまうのか?」
「ああ。そのカードは人間が持つにはあまりにも危険すぎる。この間お前たちが戦ったあの男だってビーストの力を手にしたことをきっかけに人が変わっちまったようなもんだからな。今後もそうならないようにするのさ」
「…………」
井下はしばらくミノタウロスのカードを見つめていた。そんな様子の井下に俺は「どうした?」と声をかける。
「なあ。このカードもう少し俺のもんにしちゃいけねぇか?」
「なに?」とチェックは井下を睨んだ。
「何考えてんだ。それは人間にとって危険な代物なんだ。力を利用して他者に大きな影響を及ぼすかもしれねぇんだぞ」
「じゃあなんで矢崎は持ちっぱなしなんだよ」
「そ、それは……」
「俺は決めたんだ。俺はかつてチビのころミノタウロスに助けられた。それをきっかけに自分も力をつけようと今まで努力をしてきた。自分が鍛え上げてきたこの筋肉はかつてのミノタウロスのように誰かを助けるためにあるんだ。その気持ちは今でも変わらねー。他にも桑名みたいにビーストの力を悪いことに使ってる奴がぞろぞろいるかもしれなんだろ? だったら俺はそんなやつらから誰かを守れる存在になりてぇんだ! だからこのカードはもう少し俺のものにさせてくれ!」
井下の言葉にチェックは「まったく、人間ってのはよくわからないな」と口にする。
「良いやつもいれば悪いやつもいやがる……わかったよ! そいつはしばらくお前に預ける。そのかわり絶対に悪用はするなよ」
「おおサンキューな! ラビのすけ!」
「誰がラビのすけだ! オレっちの名前はチェックだ! おぼえろコノヤロー!」
「それじゃあお前もこれから一緒に戦ってくれるってことでいいんだな?」
「ああよ! これからよろしくな永一!」
井下はいきなり俺のことを下の名前で呼んできた。まぁこれからなかよくするんだから別に悪くはないな。
「こっちこそよろしくな、陽介!」
昼休みの屋上で、俺と陽介はお互いに握手をした。
こうして、共に戦ってくれる心強い仲間が一人増えたのだ。




