第16話
「ぐわああぁぁぁ!」
桑名の横っ面に俺の飛び蹴りが炸裂し、桑名は片頬を押さえながら地面を転がった。
「き、貴様ぁ……矢崎ぃ……僕を殴ったなぁ! 生徒の分際で、教師である僕を、殴ったなぁぁぁ!
「何が生徒の分際だ! 先公は神かよ!? あぁ!? エラソーなこと言ってんじゃあねぇ!」
俺はフェンリルで桑名の周りをぐるぐると飛び回っている分裂したアバドンを一体一体攻撃していく。
その間に俺は桑名の体に馬乗りした。胸倉を掴んでガンを飛ばす。
「てめぇ指導者なんかじゃねぇ。ただの下らねぇ体罰野郎だ!」
「くそ……戻れっアバドン!」
桑名の一声でそれぞれバラバラに行動していたアバドンたちが一ヵ所に集まった。
井下の体内に入っていたアバドンも出てきたのか、井下は自分の腹を殴るのをやめていた。
「腹がもう痛くねぇ……ってなんだありゃ!?」
井下はおそらく今、俺と桑名の周りに出現しているフェンリルとアバドンの姿を見て驚いているのだろう。桑名のアバドンはすべて集まって、一番最初に見た大きな蝗の姿で俺の目の前に立っている。
「アバドン! クソ生意気なこのガキを立てなくしてやれっ!」
「バドォォォォォン!」
アバドンの咆哮が耳に響く。馬乗り状態の俺の顔面にアバドンの牙が襲い掛かる。
「あぶねっ!」
間一髪。素早くアバドンの攻撃をかわした。
きっと今までの奴らもあの牙で体内を噛みつかれていたのだろう。
「まだだぁ!」
攻撃をかわしたが、次はアバドンが俺の体を掴んできた。
そしてアバドンはそのまま空中に飛行し始めた。
「なっ! ちょ! おいおいおい!」
地面から足を離された俺はジタバタを繰り返すがアバドンは俺の体を離そうとしない。
高さはおよそ地上から5メートルくらいだ。小さく見える桑名がこっちに向かって何か叫んでいる。
「矢崎ぃ! アバドンは今からお前をそのまま地面に落とす! そうなればお前はどこかの骨が折れることは間違いないだろう! だがそんなお前にも最後のチャンスをやろう! 大人しく僕の指導を受けろ! そうすればすみやかに地上に降ろしてやる! どうだ! お前だって痛い思いはしたくないだろぉ!」
たしかにこの距離から落ちれば痛いじゃ済まないだろうな。
だが、俺は桑名の言うことを素直に「はい」と言うほどビビリじゃねぇ。
ここであいつに従順になっちまったらだめだ。
指導と称して罰せられるこのない体罰を繰り替えす大人の言うことなんか、誰が聞くもんか!
「ぜってぇ断る! 死んでも断る! なぜならあんたのやっていることは正義じゃねぇからだ!」
「そうか、ならくたばれ」
遠くからでもわかるくらい残念そうな桑名の顔を見た後、俺は地面に向かって落下するのを感じた。アバドンが俺の体から手を離したのだ。
「うわああああ!」
重力によって引っ張られる感覚が体中に伝わる。
このまま俺は地面に向かって激突することになるが、視界の外側から俺の着地地点に向かって小さな白い何かが動いていた。
「すっかり忘れていたぜ……」
それは俺の真下に到着すると同時に小さな手にカードを持って、獅子のビーストを召喚した。
「ネメア! バリアだ!」「メアァァァァァ!」
白い何かの正体は神の使いを名乗るウサギ、チェックだった。チェックは自身のビーストであるネメアを召喚いて俺の落下地点にバリアを発生させたのだ。
バリアに直撃した俺の体に痛みはさほどなかった。うまいこと地面に着地した俺は助けてくれたチェックに「サンキュ!」と礼を言った。
「な、何してくれてんだこいつは!」
桑名はチェックの存在に気づいた。言葉をしゃべるウサギの発見に驚いているのか、それとも俺を助けたことに腹を立てているのか、どちらかはわからないが頭にきていることはわかる。
「お前ら全員、皆殺しだぁ!」
とうとう教育でもなんでもなくなってしまっているじゃないか。殺人予告をしてきやがった。
「大概にしやがれぇ!」
叫びながら桑名の体にドロップキックを繰り出したのは井下だった。いきなり現れたことにより俺とチェックは思わず拍子抜けしてしまう。
「ぐばぁ!」
地面に転がされる桑名。
「黙ってみてりゃ矢崎のことをイジメやがってよー! さすがの俺も堪忍袋の緒が切れたぜ!」
「い、井下ぁ……お前も僕に逆らうのかぁ? いいだろう。ここにいるお前ら全員地獄に落としてやる! アバドン! 全分裂だ!」
桑名が指示をすると、アバドンの体が徐々に分裂していっている。そこからぞろぞろと分裂した小さいアバドンが出てくるわけだが、その数は尋常じゃない。
さっきまで大量の分裂したアバドンを相手にしてきたが、今はそれの倍以上の数だ。
蝗害と言って、大量の虫が畑を荒らす災害が今も昔もあるらしいが、それはまさに今の状況を再現している。
そんな波のような大量の蝗が俺とチェック、井下に襲いかかろうとしている。
「チェック! バリアだ!」
「だめだ! ネメアのバリアは前方にしか出すことができない!」
「なんだよ! なんかドーム状に出せるバリアとかねぇのかよ!」
さすがに都合がよすぎたか。
自分の身を案じることで頭から離れていたが井下の方がピンチだ。
俺とチェックはビーストを持っているからなんとか対処することができるが、井下はただの一般人だ。俺たちよりも被害にあうことは間違いない。
「逃げろぉ! 井下ぁ!」
声をかけてみるがもう遅かった。井下の体のほとんどはアバドンによって覆われている。
「ぐあああああ!」
「ははは! どうした井下! お前の自慢の筋肉でこの状況を打開してみろよ! 無理だよなぁ!? どんなに体を鍛えても打開できないことだってあることがわかっただろ! 大人しく僕の言うことを聞いて勉学に励んでいればこんなことにはならなかったんだぜボケがぁ!」
「井下ぁ!」
数え切れないほどのアバドンの群れに、井下は地面に倒れた。




