第13話
教師は昔からの憧れだった。
テレビドラマに出てくる熱血教師の影響で、小学生の頃からの夢となっていた。
不良生徒を更生させたり、問題のあるクラスをひとつにまとめたり。
そんな存在になりたいと思っていた。
そのために勉強もたくさんした。大学こそはいいところではなかったが、努力の積み重ねでようやく念願の教師になることができた。
初出勤の日、教室に入ってから桑名礼介は現実というものを思い知ることになる。
最近の生徒たちは自分がどんなに指示をしても言うことを聞いてくれない。
授業もまともに聞かないし、聞こうとする努力もしない。
自分は必死こいて勉学に励んでいたというのに、目の前にいるガキども……もとい生徒たちは将来のことなどどうでもいいのか、今を夢中に楽しんでいた。
スマホゲームをするもの。授業にはまったく関係のない話題ではしゃいでいるもの。自分の授業がつまらないのか、あくびをしているものまでチラホラいる。
「言うことを聞かないか!」
少し強めの口調でクラス全員に言うと、一人の生徒がこんなことを言い出してきた。
「うわっ。暴言だ! 暴言だ!」
最近の教育現場というのはどうも肩身が狭くなっている。
怒鳴れば暴言、叩けば体罰。挙句の果ては教育委員会に訴えてやる……だ。
こうも制限をかけられてしまうと言いたいこともうまくいうことができない。しかしだからといって授業をまともに受けない連中を注意しないわけにはいかない。
そんな板挟みにあっている桑名は「辞めたい」という気持ちが少しずつ心を侵食していた。
とにかく朝が辛かった。学校へ行けばまたあのいい加減なガキどものお守をしなければと思うと足が重くなっていく。
どうして自分はこんな仕事についてしまったのだろうと後悔の念が押し寄せる。
「言うことさえ聞いてくれりゃぁなぁ……」
憂鬱な気分を残しながら、玄関の扉を開けると、床には一枚のカードが落ちていた。
「なんだこれ?」
子供の落とし物だろうか? と思いながらそのカードを拾い上げると、カードが光り出して、桑名の目の前にこの世の者とは思えない存在が姿を現したのだ。
「……はは、最近のおもちゃはよくできているな」
口ではこう言っているが、桑名はこれが決して玩具の類でないことをすぎに理解した。
これは不幸な目にあっている自分に与えてくれた誰かからのプレゼントだと察することができたのだ。
◆
「おーい先生!」
放課後、俺は一人の教師に声をかけた。
「ん? なんだい? 君は……矢崎くんだったね」
さすが教師。生徒の名前はしっかり覚えているみたいだ。
「そっス。矢崎っス。んで、先生について知りたいことがあってさ……教えてほしいんスけど……」
「ああ、かまわないよ。どこで教えようか?」
「なら校舎裏に来てください」
「おいおい、外で勉強するのかい? 変わった子だねぇ」
「いやぁ。なんてったって知りたいことってのはこのことなんで……」
そう言いながら俺はフェンリルのカードを見せた。
普通の教師ならこのカードを見た途端「学校に関係のないものを持ってくるんじゃない」と怒るはずだ。しかしこの桑名はこのカードを見てもなんの反応もない。むしろこのカードの存在を知っているかのようにニヤリと口角を上げた。
「ほう、そうか。君もそれをねぇ……わかった。校舎裏へ行こう」
◆
校舎裏。
授業をさぼったりしているバカな生徒はたまにここでタバコを吸っていたりするが、今日は誰もいないようだ。
なので今は俺と桑名の二人だということになる。
「単刀直入に言うぜ桑名先生。あんた、ビーストカードを持っているだろ?」
「ああ、お察しの通りさ。まさか僕以外にもこのカードを持っている人がいるだなんてね。しかもこんな身近に」
そう言いながら桑名は俺に一枚のカードを見せた。
そのカードには何かの虫の絵が描かれていた。
「先生……あんたその力でよからぬことをしているんじゃないのか?」
「よからぬこと? 別に? 僕は言うことを聞かない生徒たちを指導しているだけさ」
「指導?」
「そういえば君も僕の授業をあまり聞いていない方だよね? マジメに僕の話を聞いているフリをしながら窓の外を見ていたりしているじゃないか」
「俺、数学の話になると蕁麻疹がでるんスよ」
「まさかそれがこの間のテストの成績が悪かった理由かい? そんな言い訳を吐いてばかりじゃ将来社会で生きていけないよ?」
桑名は「ふむ……」と少し考えてから、俺の方を見た。そして不気味な顔をしたままゆっくりと口角を上げてこう言った。
「どうやら君にも指導が必要なようだな」
桑名は手に持っていたカードを空高く掲げた。するとカードが光りを放ち、中から一体のビーストが召喚され……いやっ一体じゃない! 細かくて小さな何かの大群がカードの中から溢れてきた! さっき見た時は何かの虫のイラストが一体しか描かれていたはずなのに、実際召喚されたこのビーストは、小さな存在の大きな群れとなしている!
「な、なんだこいつらは! なんでこんなにもたくさん!?」
「僕のビーストは本来一体なんだけど、自分の身体を分裂させることができるのさ」
桑名の周りを旋回するように飛び回っているたくさんの群れはやがて合体を重ねて一体のビーストとなった。
何の虫かと考えていたが、その形状はなんとなく見たことがある。
「バッタ?」
「いーや。飛蝗じゃなくてこれは蝗。僕のビーストは蝗のビースト、アバドンさ」




