第103話
頬がジンジンと痛みやがる。
当然だ。俺は今さっき自分の顔を自分で殴ったんだからな。
だがこれで相手ビーストの能力を克服することができた……わけでもない。
殴った時のショックで目が覚めたのは本当だが、それはほんの一瞬だけであり今もなお瞼が落ちかかっている。
一発程度のショックでは完全に眠気を覚ますことができないらしい。
「オラァ!」
なので俺はもう一発自分の顔を殴ることにした。
よし、まだ眠気はあるがさっきよりかはマシだ。
「なんて頭の悪い人なの……」
眠りを操るビーストの主である眞城が軽蔑の眼差しを向けてくる。
「わりーな。俺はお前と違ってバカだからよぉ。こういう攻略法しか思い浮かばねーのさ」
永一や聖来がいたらもっとまともな戦い方があるんだろうが、あいにく今あいつらはここにはいない。
生徒会長さんと副会長さんはとっくに奴の鱗粉でおねんねをしているため、味方が一人もいないこの状況であいつを止めなければならないんだ。
いや、味方ならいる。
俺の自慢の相棒がな!
「筋肉の化身、しょぉぉぉぉぉかん!」
ビーストカードを出現させ、すぐさま俺はそいつを召喚した。
「ミノォォォォォ!」
牛のビースト・ミノタウロス。
俺とこいつであいつをとっちめてやるぜ!
「いけやぁ! ミノタウロス!」
俺の指示でミノタウロスはドスドスと眞城に向かって走っていく。
こいつはパワーが強いがスピードが遅いという難点を抱えている。
だがそんなの関係ねぇ! 俺はただ突っ走るだけよ!
「本当に頭の悪い人ね。プシュケー!」「プシュー!」
プシュケーと呼ばれた蝶のビーストは再び大きな羽から鱗粉の雨を降らせた。
「ちぃ! またこれかよ!」
「プシュケーの鱗粉はビーストさえも眠らせる力を持っている。これであなたたちを無力化してあげるわ」
俺とミノタウロスを包むように降り注ぐ鱗粉。
振り払おうとしても次から次へと落ちてくるそれに対処することは無理に等しかった。
「くそ……また、眠気が……」
再び落ちてくる瞼。
俺は必至に堪えようと右手を強く握った。
「おらぁ!」
再び目を覚まさせるため自分の顔を殴ったが、眠気が散る気配がない。
「くそ……なんで、だ……」
「あなたがあんな荒事をするもんですから、眠りの力を少し強めたのよ」
「そ、そんなこともできんのかよ……」
膝が床についてしまう。
このまま全身が倒れ込んでしまったら秒で眠っちまうことは確実だ。
「ミ、ミノォ……」
それは俺のビーストも同じだった。
パワーが自慢のミノタウロスだが、俺と同じように倒れる寸前の状態だ。
「が、がんばれミノタウロス、俺のビーストなら根性みせろや……!」
「ミ……ノ……」
しかし俺の活をも虚しくミノタウロスは前方に倒れてしまった。
「あらあら。あなたのビーストはもうおしまいね」
眠り状態になっているので完全にやられたわけではなさそうだ。
もし倒されていたとすれば強制退場されているはずだからな。
「お、俺は諦めねぇぞ……!」
足腰に踏ん張って、歯を食いしばる。
両方の親指と人差し指で瞼を無理やり開いて絶対に眠らないようにする。
それでも眠気はやってくるが、俺は一歩一歩眞城に近づいていく。
「く……! 近づいてこないでよ!」
すると眞城は何かを投げてきた。
女子らしいかわいらしザインの巾着だ。
それが俺の体に当たると中から大量の鱗粉が溢れ出した。
「しま――!」
顔面にモロに浴びてしまった。
それだけで頭の中がフラフラしてきやがる。
本能が「睡眠をとれ」とメッセージを送っているかのような感覚だ。
「もうそれで終わりね」
そう言いながら振り返る眞城。
おそらく再びプシュケーに掴まってこの屋上から飛び去るつもりなのだろう。
そして再び盗みを働くつもりだ。
「させるかよ、そんなこたぁよぉ!」
眠気が限界になろうとしたその直後、俺は一気にこの眠気を吹き飛ばす方法を思
いついた。
今もなお眠っているミノタウロスの頭に生えている二本の角。
俺は片方のそれに向かって躊躇なく自分の手の平を刺した。
「ぐああああああああああああ!」
貫通する俺の手の平。へへ、しばらくダンベルトレーニングはおあずけだな。
穴が空いている手の平からダラダラと血が流れ、当然比べ物にならない痛みが走る。
だがおかげで、目が覚めた。
「逃げんなよ優等生」




