第102話
「ここか……」
校内を走ってしばらく、俺たちは学校の屋上へと繋がる扉の前にいた。
あの女がビーストに掴まりながらこの屋上に来たことは間違いないねぇ。
「眞城くんが何かを仕掛けている可能性がある。突入なら慎重に――」
「おらぁ! 年頃の納め時だぜぇ!」
堅物会長の言うことを聞かずに俺は勢いよく屋上の扉を開けた。
「……これなら彼の方が断然まともだな」
「それに年頃ではなく年貢なのでは?」
後ろで何かぶつくさ言っているが特に気にしない。
気にするべきはあの女だ。
案の定と言うべきか、蝶のビースト使いは屋上の真ん中に立っていた。
「どうしてここまで来れたの? 他校の生徒への侵入を許さない生徒会長がいるから絶対に逃げられると思っていたのに」
なるほど。何気に会長のことも利用していたんだな。
「確かに最初はここへ来た彼を拒んださ。だが聞かされたんだよ。君が犯罪に手を染めているのではないかという話を」
それを聞いた瞬間、眞城は「はぁ……」と諦めたかのようなため息を吐いた。
「会長に話したんですね。今までの私の行いを」
「そんな、どうして眞城さん!」
副会長さんが眞城に近づいていく。
「私たちは強い正義感によって選ばれたビースト使いじゃない! それなのにどうして悪の道に足を踏み入れたのよ!」
手を差し伸べようとする副会長の手を眞城は思い切り振り叩いた。
「さわんないでよ!」
突然の怒号。
普段は大人しい感じの彼女だが、突如として激しい怒りを見せてきやがった。
「正義のため? そうね、私だって最初はそのためにビーストの力を振るおうって思っていたわ。でもね、それで何になるっていうの?」
「何になるって……」
「私たちが目の前の悪人を懲らしめたところで、それで世の中がよくなるわけじゃないじゃない。この世界には私たちでは把握しきれないほどの悪党が存在しているのよ。そんなにも多くの悪人を私たちだけで裁くなんて、かったるいたらありゃしない!」
「眞城くん……君は一体……」
「正直言って面倒なんですよ。正義の活動? とか時間に無駄なことしているおかげで勉強する時間が減ってしまうって言ってんのよ!」
「やはり君は勉強のストレスで……」
「ええそうよ。親に言われるままにひたすら勉強勉強。遊びに行くことも許されない厳格な教育を強いられている私にはね、正義ごっこなんてお似合いじゃないのよ。正義感溢れる人間の前に私たちのビーストが出現したって言ってたけど、きっと私は違う。勉強詰めという絶望から抜け出すために私のビーストは現れたのよ」
眞城はポケットから何かを取り出した。
それは金色に輝くネックレスだった。
貴金属には詳しくないが、絶対高い代物だと思う。
「このネックレス、いいでしょ? こういうアクセサリーとかさ、つけて街を歩いてみたかったのよね」
そう言いながらネックレスを首にかけた。
「ほら、ぴったり。似合うでしょ会長」
「ああ、似合うと思う。しかしそれは君がビーストの力で盗んだ代物だ。君のものじゃない」
「これ以上罪を重ねないで! 今ならまだ間に合うから!」
「……会長たちにはわかりませんよ。私の苦しみなんて」
パチンと指を鳴らす眞城。
すると上空からパラパラと細かい粉が雪のように降り注いできた。
「な、なんだ?」
「む、いかん! この粉は……」
「か、会長! ……すぅ」
急に二人はその場に倒れだした。
……そう言えばなんだか眠気が……これは一体?
「忘れたのかしら。先日の施設襲撃の際にも私のビーストが活躍したのよ」
思い出した。
たしかアイツのビースト能力は眠りを誘う鱗粉だった。
この能力で嫁嫁クラブの中にいる奴らのほとんどを眠らせたんだった。
味方になった時は状況を有利に運ぶことができたが、敵になるとこんなにも厄介だとは……
「く、くそぉ……」
瞼が少しずつ落ちてくる。
このままでは会長たちの二の舞だ。
俺がここで眠っちまったら眞城は尻尾を巻いて逃げちまう。
そうなったらまた盗みを繰り返すことになるだろう。
それだけは、絶対に止める!
これ以上ビーストの力で、悪党事なんかさせるもんかよ!
「オラァ!」
「な、何をやっているのあなた!?」
相手は面食らっているだろうが当然だろうな。
なんてったって俺は眠気をぶっとばすために自分で自分の顔を殴ったんだからな。
「覚悟しやがれコノヤロー。この井下陽介様が叩き潰してやんよ!」




