第100話
ターゲットが見えた。
太った男が気持ちの悪い笑みを浮かべながら人気のない道を歩いている。
さしずめ新作のゲームか漫画を購入するために店に行く途中なのだろう。空の袋を両手に持っているから、それに買ったものを入れていくつもりなのだろう。
それはつまりあの袋に入るだけの金銭を所持していることになる。
本当に腹が立つ。
欲しいものが手に入ることができる悠々自適な生活。
自分の憧れである生活を送っている人間を見ていると、腹の底がムカムカしてくる。
ならばそれを壊すと同時に向こうが持っているものを奪ってしまおう。
相手の幸せを破壊することと、盗みを働くことでストレス発散。
まさに一石二鳥だ。
一枚のカードを出現させ、ビーストを召喚し、太っている男に向かってビーストを放つ。
「いけ」
このビーストは本当に優秀だ。どんな相手でも一瞬で静めることができる。
打たれ弱いのが弱点なため、ビースト同士の戦闘では絶対に不利になるので、こうして影から不意打ちを仕掛ける形で力を発揮しないといけない。
しかし相手は見る限り今までと同じ一般人。
ビーストの力で無力化させた後、財布ごと盗んでやる。
そしたらそうだ、ゲームや漫画の代わりに新しい参考書を買おう。
くだらない娯楽のために使われるくらいなら、今度の成績のために使われた方が断然有意義だ。
ビーストが男と接触しようとしたその瞬間、能力を発揮しようとしたのだが――
「今でつぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
男が叫んだ。
まるでビーストが接近してきたタイミングを狙ったかのように。
すると男の周りに三人の男女が姿を現した。
「うそっ!」
その三人はどれも知っている人物ばかりだった。
南高の不良三人。
以前会ったことのある三人のビースト使いがターゲットにしていた男を守るかのように囲っている。
素早くビーストを引っ込めてこの場を去った方がいいかもしれない。
「おい! あれがビーストか!?」
背が高い筋肉質の男が召喚したばかりのビーストに指をさす。
(気づかれた――!)
さっさとビーストをカードの中に引っ込めることにした。
自分のいる方に向かって飛んでくるビースト。
「あっちに逃げるぞ!」
スケバン風の女子がビーストの逃亡に気づいた。
しまった。今の行動は相手に自分の位置を教えてしまっていることだということに気づいてしまう。
このミスに気づいた時には、相手はこっちに向かって走ってくる。
「くそ――こんなところで!」
素早く踵を返して走り出す。
運動には自信はないが、ここで捕まるわけにはいかなかった。
「まてぇこらぁ!」
後ろの三人が必死で追いかけてくる。
必死で逃げ回った先は――行き止まりだった。
「くそ――!」
「追いついたぜ」
とうとう見つかってしまった。
「しかし意外だぜ。本当に俺たちのことを知っている奴が盗みを働いているなんてな」
中央にいる少年が近づいてくる。
逃げようにも後ろは壁で、逃げることができない。
「なんでこんなことしてんだよ――会計さんよぉ」
「くっ……」
向こうもやはり私のことを覚えていた。
私が東高生徒会会計、眞城咲であることを。
そして蝶のビースト・プシュケーの使い手であることを。
先日東高のOBがビーストの力で女性を操っている事件があった時に共に行動していた時があった。
その時自分の力を少し彼らにも見せていたため、こっちの能力は把握されているに違いない。
「もう逃げられないぜ? 大人しくするんだ」
狼のビースト使いが一歩ずつ近づいてくる。
間近まで距離を縮めてきて、その手が私に触れようとした時、私は懐に隠していた小さい
袋を取り出した。
少し膨らんでいるその袋を思い切り叩いて破裂させ、そのままプシュケーを召喚した。
「ちょ、なんだ……こ、れ……」
うまくいったようだ。
プシュケーの鱗粉は眠りを誘う。
その鱗粉を袋に集めておいたのだ。破裂させれば鱗粉は宙を舞い、近くにいる人間を眠ら
せることができる。
ちなみに私自身には効果がないので鱗粉を浴びても問題はない。
「おい! なにやってんだよ永一!」
「たくっ! 油断してんじゃねぇよ」
他の二人が走ってこっちに向かってくる。
近づかれる前に召喚したばかりのプシュケーに捕まって、私は空中へと非難した。
「あいつ! 逃げやがった!」
「陽介はあいつを追ってくれ! 私は永一をなんとかする!」
「わかったぜ!」
まだ私を追いかけてくるみたいだ。
ならば目的地はあそこにしよう。あそこなら向こうにとって不利な場所になる。
彼らは必ず追いかけてくるはずだ。ならば返り討ちにしてやる!
だれも私の邪魔はさせない!




