第99話
昨日の敵は今日の友って言葉があるが、まさか言葉通りの展開になるとは。
徳名の野郎が俺たちのビースト捜索に協力してくれるそうだ。
もっとも、こいつを友として扱うかどうかは今のところ保留だがな。
「んで? お前に何ができるんだよ」
こいつのビーストは昨日の戦いで回収済みだ。
パピルサグをなくしたこいつはなんの特別な力を持たないただの男に過ぎない。
「たしかに今の僕はビーストをなくしたただのそこらを彷徨うニートでつ! しかしビーストを利用して悪事を働いてきたおかげで引きこもりの時よりも自身と行動力がついてきたでつ! 今の僕ならどんなこともできそうでつ!」
こいつの言っていることが本当かどうかは疑うところがある。
ビーストをきっかけに悪事を働いていたというのに、その時の行動力がビーストをなくした今でも引き継がれているというのは考えにくいのだ。
「だったらその行動力を働くことに活かしたらどうなんだ?」
「そ、それはこれ、これはこれでつ……」
「都合がいいなオイ」
「し、しかし! みなさんの力になりたいという気持ちは本物でつ! 僕は改心したでつ! 本当でつ! 信じてほしいでつ!」
「そこまで言うならよぉ、何か役に立ってみろや」
そう言ったのは陽介だった。
「そうでつね……あなた方はどのようにして犯人を捕らえる予定だったでつか?」
「それは……」
俺たちはオトリ作戦のことを徳名に話した。
「ふむふむ……悪くないでつね、シンプルだし。しかしうまくいっていないと……」
「ふむ……」と徳名は呟き始める。
「相手が来ないとなると、もしかしたらあなたたちの事情を知っている人物かもしれないでつ」
「俺たちの事情を知っている? それはどういうことだ?」
「すなわち、みなさんがビースト使いだということを知っている人物の可能性があるでつ」
「あ……」
そういう風に考えれば納得がいく。
主犯がもし俺たちがビースト使いであることを知っている人物ならば反撃を恐れて迂闊に盗みに走ろうとは思わない。
「そして逆に考えれば犯人はみなさんが知っている人物の可能性があるでつ」
「ふ~む……ぶっちゃけその発想はなかった」
「ただの偶然じゃね?」
陽介の言う通りかもしれないが、俺たちは今までなんの手がかりを得ていないからこうしてオトリ作戦をしていたわけだ。
だが、もしも徳名の言っていることが本当だと仮定するなら、向こうからやっくるのを待つのではなく、こっちから犯人を特定して攻め込むことも可能だ。
もっとも、徳名の推理が正しければの話だが……
「みなさん、心当たりはないでつか? みなさんの存在を知っているビースト使いを」
「そりゃいろいろいるけどさぁ……」
中林とか高渕とか心当たりがありすぎて特定するには難しい。
「ならばもっと条件を搾るでつ。犯人はビーストの力で盗みを働いている奴でつ。その手口というのはかつての僕と同じで相手の動きを封じることに特化した能力で、さらに男性だけでなく女性にも容易に近づくことができる人物でつ」
「いや男女に近づくなんて誰でもできるだろ。ただ単にお前がシャイな野郎なだけであってだなぁ……」
しかしこれだけ条件があれば犯人を特定することができるかもしれない。
「それにしてもすごい推理だな。お前名探偵か何かか?」
ただのどうしようもないニート野郎かと思ってはいたが、こいつのおかげで俺たちの活動に小さな光が見えたのは確かだ。
「デュフフ! ニート時代は様々な推理漫画を読み漁っていたでつ! その時の経験が今に活かされているでつ! 僕のニートライフは間違ってはいなかったでつ! なので僕はこれからもニートライフを貫き続けるでつぅぅぅぅぅぅ!!」
「「「いや働けよ」」」
これには俺と陽介と聖来は完全同意だった。
◆
あの時は危なかった。
高級そうな腕時計をしていたからいつものように奪おうと思っていたが、相手が悪かった。
まさかあの男が身につけているなんて。
あの男のビーストは強力だ。自分のビーストなんかでは歯が立たないのは明白だった。
戦おうと思えば勝てる相手かもしれないが、もしかしたら伏兵が潜んでいるかもしれない。
あの男以外のビースト使いも戦闘向けである故に、手が出しにくいのが厄介だ。
そもそも自分よりも頭の悪い連中があんな腕時計をしているなんて生意気だ。
自分は毎日頑張っているのに、ご褒美的なものは一切もらえない。
テストで100点を取っても「こんなもの当たり前だ」と言われるだけで、次の日には次のテストに備えてまた勉強をさせられる。
おいしいケーキを買ってくれることもないし、旅行に連れて行ってもらったこともない。
そんなものは勉強の邪魔だと言われるだけだ。
ああ、こんなことを考えているとまたイライラしてきた。
明日あたり狩りに行くか。
そう心の中で思いながら、参考書を閉じ、眠ることにした。




