第98話
俺たちは変態ドM野郎に覚醒した窃盗犯(のちに知ったがそいつの名前は徳名英樹というらしい)をとっちめたはいいが、気になるところが一つあった。
徳名は女に対して免疫がなく、男にしか危害を加えていないらしい。
しかし実際は女性の被害も明らかになっているから、徳名以外のビースト使いが暗躍しているのかもしれない。
徳名にそのことを聞いてみたが、何も知らないそうだ。
もしこのことが本当なら、今もなお高級品を持っている女性が狙われている可能性がある。
いや、女性と限らず男性も同じく危害を加えているかもしれない。
なので俺たちは引き続きオトリ作戦を続けることにしたのだが、結局二人目のビースト使いに接触することはなく、俺たちは帰ることにした。
◆
「ふふふふふふ……」
またやってしまった。これで何度目だろうか。
最初はやめたほうがいいという気持ちの方が断然強かった。
だけど回数を重ねるごとに罪悪感が麻痺していることがわかる。
今ではもう止めるに止めることができないほどだ。
手元にあるバッグや時計、財布の数々……
それが今自分の手元にまとめてあるとすごい優越感に浸ることができる。
自分は他の人間とは違う、自分は特別なんだという気持ちになることができるのだ。
この感覚はもう一度覚えたら歯止めが利かなくなる麻薬そのものだろう。
だからやめない、やめられない。
そもそも自分は本当に悪いことをしているのだろうか?
自分は今まで一生懸命頑張った。
親の期待に応えるために、遊ぶ間も、寝る間も惜しんで勉学に励んだ。
そして東高に入学することができた。
それでも親は、卒業後いい大学に入るようにさらなる期待を押し付けてくる。
なんなのだろうか。自分は親の道具かなにかなのだろうか。
度重なるストレスに胃に穴が空きそうになる。
そんな時、摩訶不思議な力を手に入れた。
その力を使い、悪事を繰り返した。
別にいいじゃないか。自分は他の人間よりも頑張っているんだから、何かしらのご褒美をもらわないとモチベーションが上がらない。
だからストレス発散のために盗みを繰り返す。
そのためにビーストが目の前に現れたのだから。
「これでしばらく我慢できる」
勉強を頑張り、疲れたらビーストの力で盗みを働いてストレス発散。これでまた勉強を頑張ることができる。
いいサイクルだ。
またストレスが溜まったら次は何を盗もうか。
今までの人生でこれ以上に楽しいことはない。だから盗みを繰り返す。
この快楽は誰にも絶対邪魔させない。
◆
「今日もやるのか? オドリ作戦」
「オトリ作戦な」
放課後の公園。
俺たちは今日こそビーストで盗みを働いている野郎をとっちめるために作戦会議を行っていた。
昨日は盗みを働いているっちゃ働いている奴を捕らえることができたが、それとは別の窃盗犯を捕まえることが目的だ。
「んじゃあ今日は私がそれを付けようか?」
聖来が俺の腕につけている腕時計を指さしながらそう言った。
「そうだな、それじゃあ今日は聖来にまか――」
「聖来殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
聞き覚えのある声が公園に響いた。
振り向くとやはりその男がいた。
徳名英樹だ。
「聖来殿! 僕もお手伝いしまつ!」
「あ? お前だれだよ?」
ひどっ! 昨日会ったばかりなのに初対面の対応とかひどっ! まぁわざとなんだろうかどさ……
「そんなひどいこと言わないでほしいでつ! とりあえず僕のお尻にキックを一発……」
「いやどんなとりあえず!?」
いきなりこいつしゃがみながらは尻を聖来に向けてきやがった。
「おー? なんかしんねーけど昨日の聖来みたいにキックすりゃいいんだな?」
聖来の代わりに徳名の尻を思い切り蹴ったのは陽介だった。
陽介の鍛えられた足で蹴られた徳名は「むぎゃあああああああ!」とこの世の終わりかと
思うほどに絶叫した。昨日の「で痛ぅぅぅぅ」という叫びとは大違いだ。
「な、ななな何をするんでつか! 暴行罪で訴えるでつ! 多額の賠償金を請求するでつ
よ! この筋肉ダルマ!」
「誰が筋肉ダルマだとぉ! この贅肉野郎! そこになおれ! この俺直々にお前の体を
搾ってやる!」
「やめろ。お前のストイックさがこいつに通用するわけないだろ?」
俺はそう止めると徳名は急に立ち上がり、「そうでつ! こんなことをしている場合じゃ
ないでつよ!」を言ってきたのだ。
「みなさん! 僕もビースト探しに協力するでつ!」
「「「は?」」」
ここで意外な助っ人が現れた。




