第96話
永一のフェンリルが戦える状態じゃなくなったことで、私と陽介の二人で目の前のお面野郎と戦うことになった。
相手のビーストは尻尾の先端から出ている毒による攻撃を得意としているが、それだけでなく、地面に刺すことによってその場所を毒状態にすることも可能だそうだ。
毒状態になった場所を通過すると、毒が侵食していって、徐々に体力を奪ってしまうようだ。
永一のフェンリルも近くにいた所為で毒に満ちた地面を踏んでしまい、両足が毒状態になってしまったというわけだが……
(どうやって戦うかだな……)
要するに相手は罠を張って戦うこともできるし、そうしなくても直接尻尾での攻撃を仕掛けてくることも明白だ。
接近しづらい戦いになることが想定されるが問題はそれだけではない……
問題はもう一つある。
「よっしゃいくぜミノタウロス!」
「待てぃ!」
先走りしかけた陽介の背中を思い切りキックして無理矢理停止させた。
そう。もう一つの問題とはこの脳ミソ筋肉アンポンタンこと井下陽介のことだ。
ビースト同士の戦いにおいては心強い戦力ではある。
しかしただの戦力でしかないんだよなぁ、こいつって。
今戦おうとしている相手は罠を仕掛けることが得意な戦術を使ってくる。
それに対しこいつは真っ向から挑もうとするもんだから、「考える」という行為をしないのだ。
それじゃあ永一の二の舞を踏むのが火を見るよりも明らかだ。
それじゃあダメなことは、私にだってわかる。
「もうちょっと慎重に戦えよ。今お前が突っ込んでいったら、ミノタウロスだって毒に犯されたかもしれないんだぞ」
「あ、そうかー、すまん」
頭をかきながら謝罪する陽介。
「けどよー? あいつのいる所まで近づかねぇと攻撃が届かねぇぞ?」
たしかにミノタウロスの攻撃は強力だが近づかないとその力を発揮することはできない。
だけど、私のビーストなら!
「近づかなくたって、相手にダメージを与えることができるんだよ! いっけぇヨルムンガルドォ!」
「ガルドォォォォォ!」
ヨルムンガンドの能力は氷の息だ。
自分と相手の開いている距離はおよそ三メートルほどだが、それでも十分なほどヨルムンガンドの氷攻撃の射程範囲だ。
「デュフフ! 遠距離攻撃を仕掛けてくることは想定内でつ! パピルサグ、かわすでつ!」
お面野郎の指示通り、蠍のビーストは真横にジャンプしながら氷をかわした。
「くそ! あっちだ! ヨルムンガンド!」
再び指示を出すと、ヨルムンガンドは氷の息を違う方向に向いて吐き出す。
「無駄でつ無駄でつ無駄でつぅぅぅぅぅ!」
まるで予測しているかのようにヨルムンガンドの攻撃が次々とかわされている。
動いているのは向こうだが、なんだかこっちが手玉に取られたみたいでイライラしてきやがった。
「くっそぉ! 今度こそ!」
「おい」
すると私の肩に手の感触が伝わった。
陽介だ。
「あんまり無駄打ちすんなよな」
「るっせぇ! 当たんなきゃ意味ねぇだろぉが!」
「慎重に戦えっていったのはお前だろ?」
「あ……」
私はさっき陽介に伝えた言葉を思い出した。
「お前がムキになっているから、余計に攻撃が当たんないんじゃねぇの? 知らんけど」
「知らねーなら言うなよな」
こいつはたまに的を射た発言をしてくる。
普段はアホだが不意を突くように真面目なことを言ってくるもんだから、これはこれで
イラっとくるが、おかげで冷静になれた。
「けど、お前の言う通りだよ」
そして陽介は「あのさ」と続けて私に話しかけてきた。
「俺は確かに頭が悪い。だけどいい作戦を思いついたんだ。聞いてくれるか?」
アンポンタンの作戦。正直言って不安しかない。
だけど何の策もなく力を浪費してしまったら、相手の反撃がくるかもしれない。
ここはどんな作戦かは知らないが、陽介の提案に乗ることにした。
「んで? どんな作戦なんだ?」
「ああ、実は……」
ごにょごにょと私の耳元で作戦の内容を伝える陽介。
「……!」
私は陽介の顔を見た。
「陽介」
「なんだよ」
「お前にしてはナイスアイディアだ!」




