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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
三章 ダンジョン運営
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コースター

 ドキッ、ビクッ、ひやひやストレートを考えたのは村の男衆+αである。


『なんか恐ぇのやりてぇな』

『ダンジョンでか』

『いいね、いいね』

『ドキッとするやつかぁ。面白そうだ』

『ビクッもいいぜ』

『ひやひやしたいのぉ』

『ステーキおかわりっ!』


 酒が入った席にて、こんな悪ノリで軽ぅく生まれたアトラクションなのだ。いや、ダンジョンを掘るのは重労働だったが。

 男衆+αはこんな適当な思い付きを実現すべく、いつも以上に張り切って作り上げた。


 それがα(ムム)を苦しめようとは。




「ひっひっひっ、このトロッコに乗ってくだされ」


 体験料を払った三人は、線路に乗せられたトロッコへ乗り込んだ。

 汚ならしい色合い。ギシギシ鳴る床板。なんともオンボロだ。


 ムムの瞳からは既に光が失われていた。

 老婆が注意事項等を雰囲気たっぷりに語ってくれているが、耳を通り抜けている。


「話を聞く限り、お化け屋敷の類いか。トロッコに乗り込むのは珍しい……ムム、大丈夫か?」


 異変に気付いたラギリ。

 しかし、遅かった。


「ひっひっひっ、いってらっしゃいまちぇ……」


 最後の最後に噛んでほのかに頬を染める老婆を残し、トロッコが動き出してしまう。


 この時点でオクビは腰を抜かし白目を剥いて脱落だ。恐怖耐性ゼロだった。


「こりゃ、失敗したかな」




 トロッコは下り坂。

 途中、謎の駅があったがスルーして進んでいく。

 そして第一の恐怖が現れる。


「フンフンフンッ!」


 ライトアップされたステージに座っているのは一匹のラモビフト。

 あの子は撫でられると目を細くして鼻を鳴らすホメちゃんだ。

 お行儀よく、頭を差し出す様は、まさに撫でられ待ちである。


「そんな!?」

「なんだと!?」


 だが、一瞬で通りすぎてしまった。


 トロッコは止まってくれない。

 可愛いラモビフトが撫でられ待ちしててくれていてもだ。


「もふもふマイスター失格な失態だよ」

「これはクルな……」

「そだ、手伸ばせるようにしよう」

「それは止めとけ」


 初っぱなからの特大の一撃に二人は精神に大ダメージを負ったのだった。


 さらにドキッ、ビクッ、ひやひやストレートの攻撃は続く。

 トロッコの走る先で、なにやら光が点滅していた。


「あれってまさか?」

「うん、そうだよ」


 ムムは恐怖のあまり直視できないでいる。

 先ほどのようにすぐに過ぎ去って欲しい。一秒たりとも近くに居たくない。

 そんな願いを嘲笑うかのように、トロッコは速度を落とした。


「うわぁ……」


 ラギリが顔をしかめた。

 これも強烈だった。


 まず先頭にあるのがミミに説教されるムムの石像だ。

 まるで生きたそのままを石にしたかのようで、今にも動きそうだ。


 さらに続けて村の男衆が女性陣に説教される像が並んでいる。どれもこれもリアルだった。


 勝手にここを作ったのが発覚した際の光景を再現しただけのことはある。


「私は怒られてない、私は怒られてない、私は怒られてない……」

「ラモビフト達は元気かな……」


 さらにムムの現実逃避コンボもあり、ラギリも空想の世界に逃げたのであった。


「むおっ!?」


 と、そこへヒタリと冷たくヌメっとした固体が顔へ張り付いてくる。

 反射的に手で弾けば、簡単に剥がれてくれたが。

 張り付かれてたのはほんの数秒。それでもラギリには思い当たる存在がいた。


「まさかサイボンか?」

「んーん、冷餅だよー」


 不定形の魔物であるバノ・サイボンかと思われたそれは、山で採った芋を蒸かしてから練って、最後は冷やして食べるカナィド村の伝統料理だった。


 酸で獲物を溶かして食べる魔物ではなくてホッとするラギリである。

 そして、ムムはもっちゃもっちゃ咀嚼しながら額にシワを寄せていた。


「味ついてない」


 冷餅自体に味はないので、何かしらのソースをつけて食べるのが普通だ。

 しかし、今回のそれは脅かし用なのでそのままなのである。そもそも、痛んできて食べるのに適さないものを流用していた。食べることなど想定されていないのだ。


「やっぱ、ドキッ、ビクッ、ひやひやストレートは恐ろしい……」


 ムムは改めて震えた。




 さあ、ここまでは肩慣らし。

 これからは普通の客も大なり小なり恐怖を覚える本番だ。


 血を啜るルスゥチが牙を剥き出しに近くを羽ばたき、異常に発達した尻尾で相手を絞め殺す四足のポヘシツビが襲うふりをし、ドロドロに溶けた謎の魔物が闊歩している。


 本当には攻撃してこないとわかっていてもビビるものである。

 それが経験豊かな冒険者なら尚更だろう。油断した者から消えていく世界。格下相手でも緊張感を保っているのだ。


 そんな魔物ひしめく光景をムムは真顔で見送った。


 全く怖くない。それどころか可愛らしい。

 気を張ってないと表情が緩んでしまいそうだった。

 彼らは一生懸命脅かそうとしているのだから笑顔を見せてはいけない。ムムにとっては拷問だ。


 そもそも、血を啜るルスゥチは花の蜜の方が好きで第三階層で幸せそうに吸っている姿を見て和める。

 肩に乗っければ羽で顔をくすぐってくれる。よっぽど切羽詰まらなければ血を啜ったりなんかしない。


 ポヘシツビは尻尾に目が行きがちだが、面長のフワフワな顔はシュッとしていて可愛らしい。短い四足でトテトテ走る様を見れば怖がる気持ちも失せよう。尻尾だって力持ちでぶら下がれば楽しいのだ。なにも怖くない。


 謎の魔物は、ムムが栽培しまくったミツタケの蜜を塗りたくった色んな魔物である。恐い子は一匹たりともいない。

 ちなみにミツタケは名前だけ美味しそうで育てたが食用ではなかった残念キノコである。ただ、毛づやを良くしてくれる作用があるらしいので、志願した子に塗りたくっている。

 格好は残念になってしまうので、見た人を驚かせないよう、第三階層ではなく、ここに居てもらっている。


 もちろん、皆、ドキッ、ビクッ、ひやひやストレートの仕事を理解して、脅かそうとしてくれている。

 それでもムムは事情を知っているために怖がれない。可愛がりたい。

 でも、可愛がったら『失敗したー』とシュンとさせてしまう。

 可愛がれないジレンマ。


「ドキッ、ビクッ、ひやひやストレート恐い……」

「ムムの恐いのニュアンスなんか違くないか?」

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