四層は遊び場
ブリーダーの男の処遇はギルドに任せることになった。
ムムの見立てでは一ヶ月肉禁止の刑、ラギリは冒険者資格剥奪の上でブリーダーの総本家へ強制送還して一生牢屋に入るだろうと見立てていた。
どちらがより近いかは語られることはない。
ということで案内再開。
ムム達はもふもふと戯れながら歩き、しかし、最後には涙の別れを体験した。彼らは用事がない限り第三階層から出ることはないのだ。献上野菜でお願いしても拒否されてしまった。
今日のムム達は客ではない。泣く泣く諦め、やって来たのは第四階層である。
先頭のムムは踊るようにターンして両手を広げた。
「さぁさぁ、“あみゅーずめんとえりあ”だよ!」
「へぇ……」
「…………」
きっちりアミューズメントと言えたムムは目を赤くしながらも得意満面である。
二人はそれに気付くことなく、様子の変わった第四階層に興味を全て持ってかれているのだが。
「な、なんか、派手だな」
「………………」
なぜだか、オクビは腰が引けていた。
反対にラギリは無言で、ツト監修した、豪華な壁を触ったりしている。
金至る道の一員だった彼である。血が騒いだのかもしれない。
「この柄の服を作れば……ラモビフト達にいいかもしれない」
違った。もう血液は完全に入れ替わっていた。ずびびーと鼻をすすっていることからして、まだ第三階層を引きずっているらしい。
まぁ、ムムも密かに子ラモビフトを抱いているから平静を保っていられ――
「フンフンフンッ!」
「あぁぁぁぁ……」
逃げられた。世界に救いなどなかった。
手元に残る感触や温もりが薄れていく。過ぎ去りし栄光を思い出せば鼻水が出てきそうだった。
それでもムムは歯を食いしばって立った。
――私が倒れたらこのダンジョンはどうなる。
自らを奮い立たせ叫んだ。
「こうなったらヤケだよ! 遊び尽くしてやるっ!」
「いや、案内してくれよ」
「私に着いてくれば全てわかるっ!」
頼もしい言葉を残したムムは十字路ですぐに立ち止まってしまった。
「くっ、ここに来て難問だ!」
直進すれば、安全にダンジョン体験できる、ダンジョンアドベンチャー2。
当たり判定のみが存在する、斬れず、殴っても痛くない特性武器を持って、モフーレムといった魔物達と戦って進んでいく探検アトラクションである。
前よりもバージョンアップしたのは、自動生成迷路だろう。一日ごとに道が変わるのだ。
まぁ、自動というのは嘘なのだが。
悪戯好きな土妖精、あすはねっと達が好き勝手に土壁を作り出して道を変えているのだ。たまに張り切りすぎてスタートとゴールが繋がって無いこともあるが、それはご愛嬌だろう。
もちろん土壁の上に隙間を作ってもらっているので、魔力は滞りなく流れているで安心だ。
「よし! アドベンチャーへ行こ……でも、ウォーターロードも捨てがたいなぁ……」
右折すれば、ネブサ舟でレースが行われたウォーターロードである。
こちらは水に関する色んな催し物をしており、今日は水鉄砲で舟を沈める撃沈会だった。
この舟が曲者で、参加しない魔法使いが防御魔法を仕込んであり、下手に当てると反撃すらしてくる。
魔法付与が禁止されている帆へ、いかに精密射撃するかがポイントだ。
「撃沈じゃ、一度も勝ったことないんだよね。よし決めた! あぁ、でもでもぉ……」
ここにきて優柔不断なムムである。
どっちも遊びたい。自分に正直だからこそ悩んでいる。
「んじゃ、間取って左行こーぜ」
「は?」
この男は何を言っているのか。ムムには理解できなかった。
直進か右折で悩んでいるのに、左折。しかも間を取ったと宣っている。
真っ直ぐと右の間は斜め右であり、壁である。
つまり左はない。
右斜めもないので、やはり二択から選ばなければいけない。
そう結論づけたムムはまた悩みだした。
目を瞑ることで、より集中して。
これから楽しく遊ぶためにムムは真剣だった。
そして遂に心が決まる。
「そうだ! 今日はテンが熟練冒険者やるんだった! アドベンチャーに……行こ……え?」
目を開ければ、豪華だった内装は鳴りを潜め、黒を基調とした通路へと変化していた。雰囲気は薄暗く、闇や夜を連想させる。空気もどこか重苦しい。
ムムは口をパクパクさせ絶句していた。
ここはアドベンチャーでもウォーターロードでもない。
十字路を左折させた先、
「ドキッ、ビクッ、ひやひやストレート……」
名前はアレだが、立派なアトラクションの一つだった。
けれど、ムムはここをあまり好いてなかった。何度か体験しているが、どうしても馴染めなかったのだ。
なんとか引き返してもらおう。
ムムが二人を説得しにかかろうとしたが、奥から老婆が現れてしまった。
「ひっひっひっ、ドキッ、ビクッ、ひやひやストレートに三名様ご案内ぃじゃあ……着いてきなさい……」
「ふぁ、ふぁい!」
思わず返事をしてしまうムム。
この老婆は恐ろしいメイクをしている。丸鼻のぶたこびっとなんて目ではない。
普段は優しいのである。ムムはご飯を御馳走になったこともあるし、お礼に肩叩きもした。良くしてもらっている。
なのに、メイク一つでこの恐ろしさ。
否、これはメイクだけの恐ろしさではない。
過去の経験が心を縛っているのだ。
ムムはもはやまな板のぶたこびっと。調理される運命である。
ここはドキッ、ビクッ、ひやひやストレート。
いわゆる、お化け屋敷である。




