表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
二章 ダンジョン準備
46/79

敵対者

 どうやら王女マカは前触れのため先行していたサーソを追って、カナィド村にやって来たらしい。


「無茶するねー」

「それほどでもっ」


 話を聞いたムムが脇腹をうりうり突くと、体調が体調が幾分か戻ったマカはくすぐったそうに笑いながら照れていた。


 それを見たサーソは今の言葉(無茶するねー)が誉めに入るのか悩んだものの、王女が気にしてないなら口を挟まないことに決めた。


「なんか、おかしいと思ったらそう言うことだったか」

「王女と私らを会わせないために色々仕掛けてきていたんですね」


 と、そこへ、チャクマと天使長がシャルゥダンを止めて口を挟んできた。どうやら話を聞いていたらしい。


「だが御生憎様だなぁ。会っちまったぞ」


 チャクマは悪魔らしく笑うと、天使長が上品に「どんな気分ですか?」と訊ねてきた。


「ん? マカちゃんが王女様だって知ってビックリしてるよ!」


 だが、ムムに嫌味として伝わるはずがない。

 純朴すぎる返答に二人は「そ、そうだよな(ですよね)」と相槌を打つしかなかった。


「それに会わせたくないのはダンジョンキラーだからね!」


 そしてナチュラルに口を滑らすムムである。ミミは残念そうにアホな我が子を見、サーソは頭を抱えた。


 ムムが逆に、お母さん達どうしたんだろ、と心配していると、毒気を抜かれていたはずの二人に悪意が再び灯っていた。


「そういうことか、そういうことか……」

「あの、ダンジョンキラーですか……」


 くつくつと嫌らしく笑いだした二人に、マカが後ずさってサーソの後ろへ待避する。彼らの正体を知らないはずの彼女であるが、なにか感じ取ったものがあるらしい。


 ミミも背筋を流れるものを感じながらも問いかけた。


「なに企んでるのよ。大人しく帰ってくれるつもりはないの?」

「ないなぁ」

「ないですね」

「なっ!?」


 ミミの予想通り、即答だった。

 断られてショックを受けているのはムムだけである。


「だが、俺には情けがある。悪魔だからな」

「えぇ、えぇ、我は人を救いし天使の長です。悩みし子を見捨てるなんてしません」

「でも、帰んないんだよね?」

「帰らん」

「帰りません」


 意思は固かった。

 絶対に帰ってはくれないらしいが何やら含みがある。彼らなりの譲歩なのだろう。


「要は会わなけりゃいいんだろ? そのダンジョンキラーさんによぉ。だったら良いアイデアがあるぜ」

「こういうこともあろうかと場所の目星もつけていましたしね。即実行可能です」

「うわー、なんか聞きたくないわー」


 これは確実にとんでもない話をぶちこんでくる前置きだ。

 事情を知らないがゆえ、話が全く見えてないマカでさえそう思っているというのに、


「聞かせて!」


 ムムだけは希望に目を輝かせていた。簡単に騙されてしまう子なのである。


 そんな反応に気を良くしたのか、チャクマはずいっと顔を近づけ囁こうとした。


「ちょっ、近いよ」


 が、ムムは即逃げた。

 悪気はない。ちょっと生理的に無理だったのである。ムムの唇を奪っていいのはテンだけだ。


 格好をつけただけでそんなつもりは毛頭なかったチャクマはしゅんと立ち尽くすばかり。そんな彼に変わって天使長が口を開いた。


「来れないようしてしまえばいいのですよ。物理的に会えないのであれば会うことはありません」

「二人を閉じ込めるってこと? それはダメだよ。ダンジョンてのはねー、魔力の流れが滞ると大変なんだよー」


 ムムがコアの知識を使ってカンニングしながら物識顔で説明してあげると、天使長は指を振ってちっちっちと舌打ちした。


「閉じ込めたりはしません。ちゃんと魔力が流れるようにします」


 魔力が流れるようにするには通路の広さを最低限確保するということ。具体的に言えば人が通れる広さは必要だろう。物理的に会えなくなることはない。


 いや、絶対ではないが近い手段はある。ミミはそれに思い至った。


「隠し通路を作るんだね」

「お母さん、天才!?」

「違います」


 親子はしゅんとした。


「なんか裏技があると見た」

「ありません」


 続いてサーソもしゅんとする。

 さらに、ずっと構って貰えてないでいるラモビフト達もしゅんとし、マカも空気を読んでしゅんとしたフリをした。


 この広場でしゅんとしてないのは天使だけなのである。


「まぁ、簡単な話なんですよ」


 それを気にした風もない天使は背中の羽を一枚毟り取り、ぽいと投げ捨てる。すると瞬く間におっさん顔の小さな天使へと変化した。


「ダンジョンのあるべき姿に戻せばいいのです」

「あるべき姿? ……まさか!?」


 にぶいムムでも天使長の言わんとすることを理解してしまった。

 ダンジョンとは魔物。人を糧とする生物だ。


「そのまさかですよ」


 天使長達はこのダンジョンを魔窟化してダンジョンキラーを迎撃するつもりなのだ。


「このダンジョンは皆を笑顔にするためのダンジョンなんだよ! そんなことは――」

「理想を抱くのは構わねぇが、現実はそうそう上手くいかねぇよ!」

「させなっ……」


 大人しくしていたチャクマが突然牙を剥いた。不意をつく強烈な飛び蹴りにムムは意識を刈り取られてしまう。


「さぁ、行きなさい。バーコディエルよ」


 さらに天使長は召喚した天使をミミ達へと差し向けた。


「サーソはマカちゃんを守って!」

「あぁ! そうさせてもらう!」

「ムムちゃん! ねぇ、ムムちゃん!」

「フンフンフンッ……」


 マカが揺すってもラモビフト達が鼻息を吹き掛けてもムムは目を覚まさない。

 ミミが小さな天使と戦っている間に、天使長とチャクマは階下へ走り去ってしまった。






「あっ、めさましたよ!」

「うぅん……」

「ムムちゃん!」

「フンフンフンッ!」


 ミミが小さな天使の髪の毛をバーコードになるように引き裂き勝利してからしばらく経ってから、ムムが目を覚ます。傍らにはマツがいて、魔法で手当てしてくれていた。


「痛てて……たんこぶなってそう」

「なってないよー」

「そっか、ありがとっ」


 石頭ゆえか、マツのおかげか、チャクマにやられた怪我はすっかり治っている。

 ムムは監視機能で自分の頭がどうなっているかチェックしようとして固まった。


「……ねぇ、悪い知らせがあるから皆集めてくれる」

「奇遇ね。もう皆集まってるし、悪い知らせもあるわ」


 ミミの言うとり、手が空いた村人達が集まっていた。ウウが芝生に顔を突っ込んで逆立ちしているが気にしたら負けである。ムムの一大事を聞いて暴走してミミに成敗されただけだ。


「なんかあったの?」

「うん、王様達来ちゃったみたいよ」


 マカがいなくなったことに気付いて、予定を前倒ししてやって来てしまったらしい。

 マカは申し訳なさそうにしていた。


「そっかー、って、それどこじゃないよ!」


 ムムの悪い知らせは、これ以上に悪い知らせであった。


「ダンジョン乗っ取られたのね」

「ダンジョン乗っ取――先言わないでよ!?」


 まぁ、予想のつく範囲であったが。


「乗っ取られたか。やはり、ダンジョンは危険な存在だな。全て滅ぼすべきだ」


 と、そこへ地上側に通じる通路から見知らぬ若い男が歩いてきた。格好からして冒険者のようである。


「誰?」

「俺はだな……」

「俺は? おーい?」


 ムムが変な動きをしても男はフリーズしていた。すると、マカが代わりに男の正体を告げる。


「ジョン・ラッキーさん。ダンジョンキラーの異名を持つ聖人だよ」

「へえ。あの人がそうなんだ。見た目は普通なんだね。で、ジョンはなにしに来たの? マカちゃん迎えに来たの?」

「……れた」

「ん?」


 ぼそりと呟いたので、ムムの地獄耳でも聞こえなかったので聞き返すと、ジョンは猛烈な勢いで駆け寄り、ムムの手を取った。


「惚れた! 素朴で活発そうで気が強そうでアホそうで物凄くいい! 惚れた! 結婚してくれ」

「ふぇ!?」


 事態は混迷を深めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ