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村娘が村人達とぬるーくダンジョン経営  作者: ムムのミニ神
二章 ダンジョン準備
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処罰

「ダンジョンへの協力の話はおいおい話を詰めていこう」

「えぇ、一応要望はこちらに纏めてありますのでご検討下さい」


 ツトは予め用意していた要望書を手渡した。

 そこまで分厚くないので、すぐ様一通り目を通したギルドマスターだったが、この場で決められることは無かったようで持ち帰って検討するとのことだった。


 なので、難しい話は終わり。

 ムムは、解放されたー、と、あからさまに息を吐いた。そしてツトに足を踏まれる。みっともないことすんな、である。


「おぉ、そうだ、先日の件なのだが……」


 先日の件とは二つの勢力がカナィド村で起こした事件のことだ。大体の決着がついたらしく、教えられる範囲で教えてくれるらしい。


「トバズ盗賊団は潜伏先や他方に出向いていた者も含めて大方捕縛した。首領であるトバズはセキ城で裁かれるだろう」


 裁く裁くと言っていた彼が逆に裁かれてしまうとは皮肉なものである。

 だが、盗賊団が数々行っていた行為は許されるものではない。法の元で正しく処罰されるべきなのだ。

 他の団員もそれは同じ。彼らはンピックの町で刑罰が決まるだろうとギルドマスターは口にした。


「で、ウシゴ家の方だが……」


 ツトは手がぴくりと動いた。

 元旦那の自宅だ。気にならないわけがない。


「屋敷に勤めていた者、全員が亡くなっていた」

「全員ですか?」

「あぁ、全員だ。逃げ出した者も含めてな」


 刃物で無惨に切り刻まれていたという。状況からして当主ウゴヨクの犯行だとギルドは判断を下した。


「ほんと最低ね……そんな人だとは思わなかったわ」

「ツト……」


 ツトはやるせなさそうに唇を噛んだ。


 ウゴヨクが残した罪は大きい。結果的に死んでしまったわけだが、それで罪を清算できたかと言えば否だろう。

 死んだ人には家族がいる。友人だっている。悲しみはそう簡単には癒えてくれない。


 ムムだって擬似的ではあるが、その辛さを経験している。

 だからこそ何も言えやしない。

 何か言いたくとも自分の言葉が無力すぎるとムムはわかっているのだ。


「なんて顔をしてんのよ」

「ふぇっ!?」


 突然、ツトはムムの顔をみょーんと伸ばした。


「いっちょ前に人の心配かしら? あなた今の自分の状況理解してないでしょ?」

「ふぁにふぃってんふぉ?」


 手を離したツトはにこりと笑った。


「まだ終わってないのよ」

「なにが?」

「ピンチかな」


 ますます意味がわからなかった。ウゴヨクとトバズ盗賊団の脅威が無くなりギルドと協力関係を結べた。これのどこがピンチなのか。


「あんたはダンジョンマスター。言わば金と名声の塊よ。どれだけ友好的な関係を築こうとも狙われ続けるのは変わらない。一生終わらないのよ」

「そんな!?」

「私ですら時々狙われるからなぁ。ダンジョンマスターならもっと来るだろうね。暗殺者」

「えええええ!?」


 ギルドマスターのお墨付きまで貰ってしまった。

 ムムのピンチはそう簡単に終わるものではないのだ。


 慌てるムムの姿に、ツトはくすりと笑う。


 ――あんたはそうやって明るいままでいなさい。


 暗い顔は似合わない。だからツトは茶化したのだ。

 まぁ、今の話も事実であるのだが。




「さて、そろそろおいとまさせてもらうよ」

「もう帰るの?」


 前回もそうだったが折角村にやって来たのに薬湯にすら浸かってない。これは勿体ない。


「仕事が沢山あるもんでね」


 ギルドマスターは要望書を軽く振ってみせた。なるべく早く検討してくれるらしい。

 こうなると引き止めるのは諦める他なかった。


「次来るときはもっとゆっくりしてってね」

「楽しみにしておこう。それでは、ラギリ君のところへ案内してもらえないかな」

「ん? ラギリ?」


 ラギリとはこの村唯一の治療師の男。元冒険者の彼なので面識があるのは不思議なことではないが、ギルドマスターはなんの用なのか。


「それなは及ばないよ」


 すると既にラギリが入口に立っていた。それも神妙な面持ちで。


「わかっているようだね」

「あぁ」


 ラギリが両腕を差し出すと、ギルドマスターは見覚えのある縄を巻き付けた。

 あれは魔力を封印する封魔の縄だ。


「ちょっと!?」

「いや、いいんだ」


 慌てたムムを制したのはラギリ本人だった。


 ラモビフトに魅了される前、彼はウゴヨクの元で働いていた。そこで、裏の仕事を任され手を汚し、罪を背負っていたのだ。

 ウシゴ家の屋敷を調査して際にそれが露見したのだろう。


「カナィド村で穏やか、とは言い切れないけど、素敵な時間を過ごさしてもらった。でも、そうしているとな、過去の行いを物凄く後悔してくるんだ。この村の人とは違って俺は汚れてる」

「そんなことないよ!」

「ムム、止めなさい」


 ツトが諌めるがムムは止まらない。


「あんだけ、ラモビフトのお世話してくれたじゃん! 皆、鼻息荒くして慕ってくれてるよ!?」

「だからこそ、罪を償いたくなったんだよ」


 ラギリは生まれてから人の温もりを知らなかった。彼の周りにあったのは悪意と金だけ。唯一裏切らない金に執着するようになったのは自然なことだろう。


 冒険者パーティーを組んだのだって効率よく金を集めるためで、仲間だって信用していなかった。


 そして出会うこととなったラモビフト。彼らの瞳はとても透き通った無垢だった。


 虐殺される彼らを見た瞬間、ラギリの中で何かが変わった。いや、封印していた気持ちが溢れ出てきたのかもしれない。


 物心ついて悪意に騙され続けた幼き自分。いつか救いの手が差し伸ばされると信じていた。

 やってこなかったわけだが。


 だが、彼らに自分は手を差し伸ばせる。気づいた時には治療魔法をかけていた。


 それからなし崩し的に村の一員となった。カナィドの村人達は言うなればゆるい。なにもかもゆっるゆるだ。

 しかし、それがいい。

 穏やかに過ぎていく時間はとても暖かく、安心できた。本当の仲間と出会えた気がした。


「胸を張ってカナィド村に住みたいんだよ。何年、何十年かかるかわからないけど、もし帰ってこれたら本当の意味で村人になってもいいかな?」

「もう、ラギリはこの村の人だよぉ……

「そいつはよかった。もう、なんの心配もないな。ラモビフトも頼れる弟子が面倒を見てくれる」

「そんな頼れるだなんて……」


 ムムは照れて体をくねらせた。

 おわかりかもしれないが、頼れる弟子とはマツのことである。


「それじゃ、お願いします」

「あぁ」


 頷いたギルドマスターはラギリを連れていってしまった。


「待ってるからね」


 ムムは涙を堪えて小さくなっていく姿を見送るしかない。

 絶対に帰ってくると信じて。


「青春じゃのう……」


 ぽつり呟いた村長のお昼御飯はまだ半分残っているのだった。

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