↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赫灼のアマランサス  作者: 海倉レノ
第二章「瘴気のゆりかご」
22/47

第二章第七話「信頼」

 「リオ殿下、本当にやるんですか?上位貴族だけだとしても、この時期にこんな催事に呼んだらそれこそ殿下の信頼が……」


 リズが懸念を訴えると、リオは片目を瞑って考えるような仕草を見せた。


 「ゾラにはこんなこと言えないけど、僕は全てを疑っている。貴族も、十一魔賢もね。何かをいきなり仕掛けられるくらいなら、こちらから誘き出して数人でも捕まえた方がいい。アリスに危険な目に遭っては欲しくない。でも、王は国を守らないといけないんだ」


 リオが大規模なパーティーを提案してから一週間後。

 リズがアリスを危険に晒す可能性を考慮した方がいいと伝えたこともあり、彼は参加者を上位貴族に絞ったパーティーを開くことにした。

 しかし、その話をリズが耳にした時にはもう招待状を出していたため、これは事後報告に近い。そんなとんでもない話をゾラより先に聞かされて、リズは顔を歪めた。


 「護衛を任せるのに、勝手なことをして悪かったとは思っているよ。でも、怖がり続けるだけの日々を皆に送ってほしくないんだ。利用できるものは愛する人であっても、友人であっても利用する。そんな王はダメかな?」

 「……ゾラには殿下から説明してくださいね。もうやってしまったことに口を出しても何の意味もありませんし、私がやることは変わらないので」


 味方だと思っていた人たちに疑問を向けることは、時に必要なことである。現に、ネームレスの襲撃は上手くいきすぎていた。普段から警備が行き届いている王城や公爵家に事前に爆発物をしかけ、十一魔賢が任務で分散していた時期にたまたま狙いを定めていたなんてことがあるとは思えない。

 行動をある程度知ることができる人間と言えば、身内を疑うしかないだろう。

 しかし、リオがこの話をリズにしたということは、少なくとも彼はリズが内通者ではないと読んでいるのだろう。信頼されていることは、純粋に嬉しかった。


 「リズが自信を持って信頼できると言える人は誰? 一応参考にさせて貰おうと思うんだけど」

 「十一魔賢の中だったらエリザ、ローズ、ニケは絶対に内通者ではないと思います。貴族家は、ずっと見ているわけではないので……ギーべラント公爵家ではないということしか」


 リオはティーカップを口に運ぶと、一息ついた。


 「なるほどね。じゃあその三名とリズは候補から除外しよう。絶対と言い切れるほどリズが信頼してる子なら、安心だからね。でも、ゾラが聞いたら悲しむだろうな」

 「その、もちろんゾラも信頼はできますよ! ただ、絶対と言い切れるほど私はゾラの人間性を知らないから。エリザは友達だし、ニケはムカつくけど仲間思いで、ローズは絶対に子供が傷つくことはしないので」


 エリザに関してはあまりに主観すぎる理由だが、リオは笑って頷いた。


 「それは、信頼できそうだね」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ローズは広い部屋の端っこにある毛布の塊と対峙していた。今行っているのは、顔を合わせる練習らしい。

 しかし、もう長いことローズの視界には毛布の塊が映っていた。互いに顔は知ってしまったのだから、今更怖がる必要もないとは思うのだが。


 「ローズ、僕にはやっぱり無理かもしれない……こんなに手伝ってもらってるのに、君の目を見るのがまだ怖い」

 「……その、マリー様とも話せたんだから。ランス殿下ならきっとできるわ……」


 人を慰めることにはあまり慣れていない。屋敷の子供たちは基本的にしっかり者だし、イリアだってここまで素直に弱音を吐くタイプではない。

 ランスは臆病で、馬鹿正直なタイプだ。怖いこと、難しいことを素直に言えることも十分強さだと思うのだが、当人に言ったところでネガティブな解釈をしかねない。


 「もう無理やりでいい! 僕を毛布から引っ張り出してくれない……?」


 そう言って、ランスは布団の隙間から両手を伸ばした。いかにも滑稽な図ではあるのだが、本気な気持ちは伝わってくる。

 ゆっくりとランスの手に触れると、緊張しているようで少し震えていた。やるなら一気に行ったほうがいいだろう。じわじわ引っ張っていては、ランスの精神が保たない。

 思いっきりランスを毛布から引っ張り出すと、柔らかい金髪が姿を現した。鮮烈な赤眼が一瞬視界に映ったが、すぐに目を逸らされてしまう。


 「……目を逸らしてはダメよ」


 ローズが無理やりランスの頭を掴むと、ランスは涙目になりながらローズをじっと見つめた。まるで拷問しているかのような雰囲気だが、両者共に至って真剣に練習に励んでいるのだ。


 「あの、ローズ。ちょっと近い」


 ローズがぱっと手を離すと、ランスが一呼吸置いてじっとローズを見つめた。頭を掴むのはさすがに不敬だったかもしれない。仮にも彼が第二王子であることをすっかり忘れていたのだ。

 あとで不敬罪にはどんな罰が課せられるのか調べておこうなどと思っていると、ランスがゆっくりと口を開いた。


 「大抵の人は僕の相手をしてたら疲れるって言うのに、ローズは不思議だよね。それがお仕事だからっていうのは、分かってるんだけど……」

 「……別に、私は殿下とお話するのを仕事だとは思っていないわ。私の仕事はあくまで護衛だもの……ただ、放って置けないだけよ……」


 ランスは目をぱちくりとさせると、はにかむような笑みを浮かべた。


 「マリーと同じだ」


 そう言って、ランスは机に散らばっている手紙の束から一枚を取り出した。


 「前に手紙でマリーが来てくれてるのに僕が全然話せないことを謝ったことがあって、その返事にただ、僕のことが放って置けないから様子を見に来てるだけだって書いてあったんだ。勝手に来てるだけだから、僕が気に病むことはないって……優しいよね」


 以前もランスとマリーの扉越しの会話を聞いて思ったが、肖像画から一目惚れで選んだわりには大当たりを引いている感じがする。

 何年も引きこもっているランスにそんな言葉をかけられる強さがあるマリーであれば、その心配もない。


 「ローズは、ちゃんと休めてるの?」

 「……結界を張ってるから、夜はきちんと寝ているわ。でも一応殿下も、他の人を通したらダメよ……」


 ランスはこくりと頷いた。今日は情報共有をするらしく、この後リズやゾラと合流することになっている。ランスと別れて客間に入ると、先にリズとゾラは到着していた。

 しかし、何やら様子がおかしい。ゾラの表情には心なしか怒りが滲み出ており、対するリズは気まずそうにこちらに視線を向ける。


 「……あの、何があったの……?」

 「殿下を護衛するということは、殿下の様子を監視するのと同義のつもりだったのだけれどね。それを怠った阿呆を叱っていたところだよ」


 リズが何かをしてしまったということだろうか。子供なのだから間違えることだってあるだろう。ゾラからしてみればそんなことは関係ないのだろうが、さすがに可哀想だ。


 「リオ殿下が上位貴族だけを集めたパーティをやるって……もう招待状も出しちゃったらしくて」

 「……そうなのね。でも、殿下がリズちゃんにも言わずにやってしまったことなのでしょう……? そんなことで、ここまで怒らなくても……」

 「それは心強いね。最悪上位の貴族がまとめて潰される機会をそんなことと言えるなんて。魔力量が桁違いの人間は羨ましいな」


 思っていたよりも機嫌が悪いらしい。ゾラは普段からローズに強気に言い返してくることはないのだが、焦っているのだろう。全員守りきれなければ、十一魔賢の信頼問題にも関わる。

 まとめ役的な立場を担っているゾラからすれば、看過できない問題だった。


 「……ごめんなさいね。その、私の失言だったわ……とりあえず、これから先のことを考えましょう……」

 「……いや、僕の方こそすまなかったね。強く当たりすぎた。ローズの方は何もなかったかい?」

 「……ええ、特には」


 ランスが外に出る努力をしていることを話すか悩んだが、やめておいた。今の状況に加えて、第二王子を支持する人が増えるかもしれないなんて話をすれば再び言い争いになるだろう。

 十一魔賢の中で喧嘩をしている場合ではない。

 

 「ひとまず、当日はミラに応援を要請する」

 「一人だけでいいの? 他にも、手が空いている十一魔賢は……」


 リズが口を挟むと、ゾラは何かを考えるように目を細めた。


 「いや、一旦ミラだけでいい。十一魔賢が大きく動けば、警戒されるだろう。それに、出席予定のギーべラント公爵家には彼がいる」


 彼が誰を指しているのかは、リズもローズも分かっていた。二人が一斉にゾラを見つめると、ゾラがお得意の作り笑顔を見せる。


 「僕は、彼の実力を信頼している。それ以上でも、それ以外でもないさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。