31話「記憶喪失の少女と記憶を探そう」
ランプに案内されてキラライフ族の集落を歩いているあいだ、マナはふと足を止めた。
ここは明るい。家々は星の上半分をそのまま屋根にしたような形で、壁や飾りはやわらかな黄色で統一されている。どこを見ても、見ているだけで気持ちが少し軽くなるような景色だった。けれど、その明るさの中で、マナの胸には静かな空白がある。自分のことを思い出そうとしても、やはりはっきりとはつかめない。
「マナ?」
ミクが小さく呼ぶ。
「大丈夫?」
「うん、平気」
マナはそう答えたが、完全に平気というわけではなかった。ララに見せてもらった記憶の映像、聖教国ルミナスという名前、大魔道族という言葉。どれも気になっているのに、ひとつに繋がらない。まるで手のひらの中で砂がこぼれていくみたいに、触れた気がしてもすぐ離れてしまう。
ランプはそんなマナの様子に気づいたのか、少しだけ声を落として言った。
「……マナさん、むずかしいこと考えてる?」
「少しだけ」
「そうなんだ。じゃあ、ちょっと休みながら歩こうよ。夜になるまでまだ時間あるし」
ランプはそう言って、近くの広場へ三人を案内した。そこには星の形をした小さな石のベンチが置かれていて、座るとちょうど集落全体が見渡せる。キラライフ族の子どもたちは広場の端で遊び、大人たちは黄色い魔法服を揺らしながら、何かを教え合っていた。
「ここ、落ち着くね」
ホシノがライドスターに腰かけたまま、きょろきょろと辺りを見回す。
「うん。やさしい感じがする」
ミクも静かにうなずく。
「でしょ?」
ランプは得意そうに笑った。
「うちは、みんなが笑ってるのが好きなんです。だから、困ってる人がいたら助けるし、元気がない人がいたら、少しでも楽しくなるようにするんです」
「いい文化なのです」
ミクが微笑むと、ランプは少し照れたように頬をかいた。
「えへへ……でも、無理に変えたりはしないよ。幸せは自分で見つけるものだから。そこはすごく大事なんです」
マナはその言葉を聞いて、ララの話を思い出した。どの部族にも、きっと守ってきた考え方がある。キラライフ族は、誰かを無理に動かすのではなく、その人自身が前を向けるように手伝う部族なのだろう。
「……なんだか、わかる気がする」
マナがそう言うと、ランプは目を輝かせた。
「ほんと?」
「うん。誰かが勝手に決めるんじゃなくて、自分で見つけるっていうのは、たしかに大事だと思う」
「えへへ、うれしいです!」
ランプはうれしそうに両手を合わせた。
そのあと、三人は集落の中をもう少し歩いた。どの家にも小さな星の飾りがあり、壁には金色の線で模様が描かれている。子どもたちは星形の杖を持って走り回り、時おり小さな光を点したり消したりして遊んでいた。
「みんな、魔法を使うのが自然なんだね」
ホシノが感心したように言う。
「はい! でも、すごい魔法じゃなくて、日常で使うような小さな魔法が多いんです。明かりをつけたり、気分を上げたり、みんなを元気にしたり」
「それなら、マナにも合いそうです」
ミクがそう言って、マナを見た。
「合いそう?」
「うん。師匠、いろんな人を助けてるから」
マナは少しだけ照れた。助けているつもりはあっても、自分がそんなふうに見えているのは少し意外だった。
「……そうかな」
「そうだよ!」
ホシノがすぐに返す。
「師匠って、気づかないうちに誰かを助けてる感じするもん」
「えへへ、それはたしかにあるかもしれませんね」
ミクが笑う。
ランプもくすっと笑った。
「マナさん、やさしいんですね」
「そう、かな」
「そうです!」
そう言われると、マナはますます恥ずかしくなった。けれど、嫌な気持ちはしなかった。知らない土地で、知らない部族と会って、それでもこうして自然に言葉を交わせる。旅をしているからこそ、こういう時間もあるのだと思えた。
やがて空は少しずつ傾き、集落の上に夕方の色が広がり始めた。黄色い家々は朝よりも柔らかく見え、星の飾りが光を受けて静かに輝いている。夜になれば、ここはもっと違う表情を見せるのだろう。
「そろそろ、夜の準備をしないとね」
ランプが空を見上げながら言う。
「夜になると、みんなで光る魔法を使うんです。すっごくきれいですよ」
「見たいのです」
ミクがすぐに答える。
「うん、私も」
マナもそう言った。まだ自分の記憶は戻らない。けれど、こうして誰かと過ごしながら夜を待つ時間は、少しだけ心を落ち着かせてくれる。
ランプはうれしそうに頷いた。
「じゃあ、夜まで一緒にいよう! そのあいだに、もっと集落のことも話せるし」
そうして四人は、キラライフ族の集落で夕暮れを待つことになった。空が赤く染まり、家々の星の飾りがひとつずつ光を増していく。夜を待つあいだの静かな時間の中で、マナは自分の記憶も、少しずつどこかへたどり着けるのではないかと、そんな気がしていた。
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