24話 「記憶喪失の少女とキークライ族の集落」
「……」
キークライ族の少女は、ふわりと身体の向きを変えると、静かに歩き始めた。
その細い身体の周囲では、半透明の帯がゆっくりと風に揺れている。
「行こう!」
ホシノがライドスターをゆっくり前へ進める。
「はいなのです。」
「……うん。」
三人は少女のあとを歩き始めた。
集落へ入ると、外から見えていた以上に静かだった。
風が吹くたびに泡がゆっくりと流れ、白い家々の間を漂っていく。
どの家も白い気泡藁でできていて、柔らかな光を受けてほんのり輝いていた。
道も白い石で整えられており、歩くたびに足音だけが静かに響く。
「静かだね……」
マナが小さくつぶやく。
「そうですね。」
ミクも辺りを見回した。
「本当に静かな部族なのです。」
「なんだか眠くなっちゃいそう。」
ホシノが苦笑する。
その言葉に、少女は振り返った。
「…………?」
不思議そうな顔をしている。
「あ、ごめんごめん!」
ホシノは慌てて手を振った。
「悪い意味じゃないよ!」
少女はしばらくホシノを見つめる。
すると――。
(…………わかる…………。)
頭の中へ優しい声が響いた。
「え?」
ホシノが目を丸くする。
(…………安心…………。)
「よかったぁ!」
ホシノは胸をなで下ろした。
「怒ってないみたい!」
「伝わったのですね。」
ミクが微笑む。
「うん!」
マナは少女の横顔を見つめる。
「優しい……。」
(…………ありがとう…………。)
少女は少しだけ微笑んだ。
その笑顔はとても控えめだったが、不思議と温かかった。
歩いている途中、何人ものキークライ族とすれ違う。
誰も口を開かない。
しかし、三人を見ると軽く頭を下げたり、小さく手を振ったりしていた。
「みんな優しいね。」
ホシノが笑う。
(…………ようこそ…………。)
また頭の中へ声が届く。
「こんにちは!」
ホシノは元気よく手を振る。
「こんにちはなのです!」
ミクも頭を下げる。
「こんにちは。」
マナも静かに挨拶した。
すると、キークライ族の人たちは安心したように微笑み、それぞれの仕事へ戻っていった。
「本当にしゃべらないんだね。」
ホシノが言う。
「はい。」
ミクは頷く。
「口では話しませんが、ちゃんと会話はできるのです。」
「不思議……。」
マナは周囲を見回す。
あちらでは気泡藁を編んでいる人。
こちらでは何かを交換している人。
小さな子どもたちは、半透明の帯を揺らしながら楽しそうに走り回っていた。
「かわいい。」
マナがぽつりと言う。
(…………ありがとう…………。)
案内してくれる少女が少し照れたように俯いた。
「え?」
「師匠。」
ミクが笑う。
「同じ部族ですから、自分も褒められたと思ったのかもしれません。」
「そうなんだ。」
「かわいいね!」
ホシノも笑顔になる。
少女は少しだけ恥ずかしそうに帯を揺らした。
(…………えへへ…………。)
「笑った!」
ホシノは嬉しそうだった。
「やっぱり笑うとかわいい!」
(…………ありがとう…………。)
少女は照れながら再び歩き始める。
「ねぇ。」
ホシノが声をかける。
「名前は?」
少女は立ち止まり、ゆっくり振り返る。
(…………ルル…………。)
「ルルちゃん!」
ホシノが笑顔になる。
「私はスターリー族のホシノ!」
「私はアウラウネ族のミクなのです。」
「……マナ。」
(…………ホシノ…………ミク…………マナ…………。)
少女――ルルは、一人ずつ名前を確かめるように心の中で繰り返した。
「覚えてくれた!」
ホシノは嬉しそうだった。
「よろしくね!」
(…………よろしく…………。)
再び歩き始める。
集落の奥へ進むにつれ、家が少しずつ大きくなっていく。
そして、一際大きな建物が見えてきた。
白い柱が何本も並び、屋根は何層にも重なっている。
入り口には美しい飾り紐や、色とりどりの贈り物が飾られていた。
「大きい……。」
マナが見上げる。
「すごいですね。」
ミクも驚く。
「お城みたい!」
ホシノは目を輝かせた。
ルルはその家の前で立ち止まる。
(…………ここ…………。)
「ここ?」
(…………族長…………いる…………。)
「族長さんのお家なのですね。」
ミクが頷いた。
「入っていいの?」
ホシノが尋ねる。
(…………うん…………。)
ルルは静かに扉を開けた。
ギィ……。
木製の大きな扉がゆっくり開く。
中は外よりもさらに静かだった。
白い床。
白い柱。
天井には泡を閉じ込めたような照明が吊り下げられ、幻想的な光が部屋を照らしている。
「きれい……。」
マナが思わず見入る。
「まるで夢の中みたいなのです。」
ミクも辺りを見回した。
「わぁ……。」
ホシノは感動していた。
ルルは部屋の奥へ向かって歩いていく。
(…………族長…………。)
そう心の中で呼びかける。
しばらくすると、部屋の奥からゆっくりと足音が聞こえてきた。
コツ……。
コツ……。
コツ……。
やがて姿を現したのは、長い白髪を後ろで束ねた、一人の老婆だった。
その瞳は優しく、しかし長い年月を生きてきた者だけが持つ深い知恵を宿していた。
三人は思わずその場で姿勢を正えた。
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