23話「記憶喪失の少女とキークライ族との出会い」
マナとミクとホシノは丘を上り、ステラバブル高原へとやってきた。ステラバブル高原はシャボン泡が飛び交い、そこら中が泡で満ちているため、足元に気をつけながら進まなければならない。だが、道はしっかりと整備されていて歩きやすく、三人はその道を通って前へ進んでいく。目の前には風車の町「エアロバブル」が見えており、そこを抜けた先にキークライ族の集落があるはずだった。
町で冒険者組合に立ち寄り、キークライ族の集落の場所を聞いたあと、三人は北西方向へと向かった。高原の風は涼しく、頬をかすめるたびに泡草の匂いが少しだけ混じっている。空を漂う泡は陽の光を受けて淡く輝き、時折、虹のような色を見せながらふわりと流れていった。そんな景色の中を歩いていると、マナは自分が旅をしていることを、ようやく実感できる気がした。
「ここに......あ、あの子は」
マナが小さく声を漏らす。
前方には、白いドレスのような衣装を着た少女が立っていた。少女の回りには半透明の帯がいくつも浮かんでいて、風に揺れているようにも見える。初めて見る姿だったが、ミクがすぐに反応した。
「..................?」
「キークライ族です!」
ミクがそう言う。はじめてみた、あの子がキークライ族……。マナは目を凝らしてその姿を見つめた。静かで、やわらかい雰囲気をまとった少女は、こちらを警戒しているというより、何かを確かめるように近づいてきていた。
少女はマナの前に立つと、半透明の帯をふわりと揺らしながら、観察するようにのぞき込んだ。まるで言葉ではなく、雰囲気や気配そのものを確かめているようだった。
「......?............~?」
「なに?」
「どうしたんだろう」
ホシノが首をかしげた、その瞬間だった。
(......にちわ............)
なにかが頭に響いた。
「え!?なになに!?頭に声?」
ホシノは驚いた。
(こん......にちわ............旅の人......)
マナは思わず少女を見返す。少女の口は動いていない。だが、確かに声のようなものが聞こえた。まるで頭の中へ直接届いたような、不思議な感覚だった。
「もしかしてこの子?」
ホシノが言う。
「でも、キークライ族はしゃべらないのでは?」
「テレパシーなのですよ。キークライ族は"自分の口では"しゃべらないですから」
ミクが説明する。
「テレパシー?」
説明「テレパシーとは低級光属性魔法であり、口を開かずとも会話できる魔法である。キークライ族は会話するときはこの魔法と、想いを見て伝える魔法も得意とする。」
「そうなんだ、」
マナは小さくうなずいた。知らない種族、知らない魔法、知らないやり方。けれど、不思議と怖さはなかった。少女のまとう空気は静かで、敵意のようなものは感じられない。
(......?............あの......良ければ、案内、する......?、あなたたち、私たちに......用がある......そんな想い............ある......から............違う?......)
少女が不安そうな顔をする。言葉のひとつひとつがゆっくりと頭に響き、マナにはその戸惑いまで伝わってくるようだった。
「ううん、あってるよ。」
マナが答えると、少女の表情がほんの少しだけ和らいだ。
(~!............よかった......じゃぁ、来て............)
「了解なのです。」
「はーい!」
ホシノは元気よく返事をし、ライドスターを軽く揺らした。ミクも少女に向かってうなずき、マナはそのあとに続く。
キークライ族の集落へ向かう道は、これまでの旅路とはまた違う静けさを持っていた。泡が空に浮かぶ音、風が草をなでる音、そして誰かの気配だけが、やわらかく周囲を満たしている。少女は何度か振り返りながらも、少しずつ先へ進んでいく。案内される側であるはずの三人だったが、その足取りはどこか慎重で、同時に期待にも満ちていた。
マナは歩きながら、あらためてキークライ族という存在を見つめていた。物静かで、けれど想いを伝えることを大切にする種族。言葉ではなく気配で話し、贈り物や行動で心を示すという文化は、マナにとってとても新鮮だった。自分はまだ、知らないことばかりだ。けれど、その知らないものに触れるたび、世界は少しずつ輪郭を持ちはじめる。
ホシノはといえば、すっかり興味津々で少女のあとを追っている。
「ねぇ、キークライ族って、やっぱりみんなあんなふうに話すの?」
「どうなんだろう、マナちゃん、気になるよね?」
「うん、すごく気になる」
「会えばもっとわかるのです」
ミクが小声でそう言う。
三人は少女の案内に従って、白い家々が並ぶ場所へと近づいていった。風に揺れる半透明の帯が、まるで道しるべのようにひらひらと漂っている。その先にどんな集落が待っているのか、どんな人たちが暮らしているのか、まだ誰にもわからない。だが少なくとも、今は敵意ではなく、静かな歓迎の気配がそこにあった。
マナはその背中を見ながら、ほんの少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
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