14話「記憶喪失の少女と謎の声」
マナとミクはステラフォレストでホシノとホシナに出会い、集落へ案内された。そのまま族長の家へ招かれ、二人が族長の娘であることを知り、スターリー族の族長・ホシザキとも出会った。そして族長の家へ泊めてもらうことになり、ホシザキの提案でホシノが集落を案内してくれた。
集落を一通り見て回り、家へ戻ってきた頃には夕暮れが森を橙色に染め始めていた。
族長の家では温かな食事が用意され、明るい笑い声が響いていた。
しかし、その穏やかな時間は突然終わりを迎える。
外から爆発音が響き、続いてスターリー族たちの叫び声が集落中へ広がった。
奴隷商人と思われる者たちが襲撃してきたのだ。
「中級風属性魔法! 『スフェラ・アネモス』!」
術者たちが一斉に詠唱すると、青白い風の球が次々と生み出される。
風は唸りを上げながら一直線に集落へ飛来した。
「初級光属性魔法! 『シャイニング・スターシールド』!!」
ホシノが両手を突き出す。
彼女の前に星形の光の盾が何枚も現れ、風の球を真正面から受け止めた。
ドォォォォン!!
衝撃が森中へ響き、大白樺の葉が激しく舞う。
光の盾にはひびが入りながらも、どうにか攻撃を防ぎ切った。
「行きます! 中級草属性魔法! 『ハード・ドラムウィップ』!!」
ミクが地面へ魔力を流し込む。
その瞬間、無数の太い根が地面を突き破り、蛇のようにうねりながら術者たちへ襲いかかった。
「甘いぜ! 中級風属性魔法! 『レピダ・アネモス』!」
鋭い風の刃が何本も飛ぶ。
シュバァァッ!!
根は一瞬で切り裂かれ、木片のように砕け散った。
「嘘ぉ!?」
ミクが目を丸くする。
「この程度か? 亜人よ!」
術者は不敵に笑う。
その笑みに、集落の空気がさらに張り詰めた。
「私を忘れないで」
静かな声が響く。
マナだった。
ゆっくりと一歩前へ出る。
その表情には焦りも恐怖もない。
「なんだ? おまえもやるのか? いいぜぇ! かかってこい!! 『スフェラ・アネモス』!」
術者の手に再び風の球が生まれる。
激しく渦を巻きながら一直線に迫る。
「……」
マナは静かに手をかざした。
(魔力の"流れ"を感じ……)
胸の奥を流れる見えない力。
ミクから教わったあの感覚。
(それを一点に集め……)
魔力が掌へと吸い寄せられていく。
("渦"にする……)
熱が生まれる。
心の奥から自然と言葉が浮かぶ。
(そこに言霊……思い浮かんだ言葉……)
「炎属性魔法……『スフェラ・フローガ』!」
掌から赤い炎の球が生まれた。
炎は勢いよく飛び出し、迫る風球と真正面から激突する。
ドォォン!!
爆風が広がる。
炎と風は互いにぶつかり合い、完全に相殺された。
「なっ!?」
術者の顔から笑みが消える。
「すごいです! 師匠!!」
ミクが目を輝かせる。
「すごい魔力制御力と魔力量です!」
ホシノも思わず叫んだ。
しかし――
「なにをしている! さっさとやれ!」
後方で腕を組んでいた奴隷商人のボスが怒鳴った。
「クッ! おまえたち! やれ! 上級魔法だ!」
術者の一人が叫ぶ。
全員が杖を掲げ、巨大な魔法陣を展開した。
「上級風属性魔法!! 『アエトス・アネモス』!!」
瞬間。
森全体が震えた。
巨大な暴風が竜巻のように巻き起こる。
大白樺が大きくしなり、枝葉が吹き飛び、集落中の吊り橋が激しく揺れた。
ライドスターが木にぶつかり、子供たちが悲鳴を上げる。
「上級魔法!? さすがにあれは低級や中級の光属性防御魔法じゃ防ぎきれない!」
ホシノの顔から血の気が引いた。
星形の盾では耐えられない。
ミクも唇を噛み締める。
(どうすれば……)
魔力はまだある。
だが、どう防げばいいのかわからない。
暴風は刻一刻と巨大になっていく。
(どうすれば……)
その時だった。
(……私を…………使え……)
「え?」
誰かの声。
頭の奥で響いた。
周囲を見る。
しかし誰も話していない。
ミクもホシノも敵も戦闘に集中している。
(私を……この……力を…………使え……)
また聞こえる。
低く、遠く、それでいて懐かしい声。
「誰……?」
マナだけがその声を聞いていた。
(…………)
意識が急激に遠のいていく。
視界が白く染まり、身体の感覚が薄れていく。
そして――。
「フフフ」
誰かが笑った。
その声は、確かにマナの口から発せられていた。
しかし、その笑い方は今までの彼女とはまるで違っていた。
「師匠?」
ミクが戸惑う。
「なんだ?」
術者も警戒して距離を取る。
マナはゆっくり顔を上げた。
その瞳には、今までにはない威圧感が宿っていた。
「ここは、ステラフォレストか?」
周囲を見回し、状況を一瞬で把握する。
「そして、お前らは奴隷商と雇われ魔術師だな?」
静かな口調。
しかし、その一言だけで空気が凍りつく。
「長くは持たないし、終わらせるか」
「なんだ?」
術者たちも混乱している。
「……古代炎属性魔法『アグニア・フローガ』……」
その瞬間だった。
轟――。
マナの身体から金色の炎が溢れ出す。
普通の炎ではない。
黄金に輝く神々しい炎。
熱というより圧力。
存在そのものが周囲を支配する。
炎は山のような勢いで噴き上がり、夜空を黄金色へ染め上げた。
集落中のスターリー族が思わず空を見上げる。
「なっ!」
術者の顔が恐怖に染まる。
逃げようとした。
だが、遅い。
「死ね」
たった二文字。
次の瞬間、黄金の炎が津波のように押し寄せた。
「ア、ア、ア、アアアアアアアアアアアアアアア!!」
悲鳴だけが森へ響く。
炎は一瞬で術者たちを飲み込み、その身体を黒く焼き焦がした。
魔法陣も杖も、防御魔法も何一つ意味をなさない。
術者たちはその場へ崩れ落ち、動かなくなる。
燃え広がったはずの炎は、不思議なことに大白樺にも集落にも一切燃え移らなかった。
敵だけを焼き尽くしていた。
「な、なんなんだ……おまえは」
奴隷商人のボスは後ずさる。
先ほどまでの余裕は完全に消え失せ、顔は恐怖で引きつっていた。
マナはゆっくりと視線を向ける。
「さて……っ!?」
突然、その身体がふらついた。
「時間かな……返そう」
その言葉を最後に。
マナの瞳から威圧感が消える。
身体から黄金の炎も消失した。
力が抜けたように、その場へ崩れ落ちる。
「師匠!」
ミクが駆け寄る。
「マナちゃん!」
ホシノも慌てて抱き起こえようと走り出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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