表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身に覚えはありませんか?  作者: 三嶋トウカ
夏:第1便~第3便

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

第27話:【第6便】あったかポトフ_2


「きた!」


 嬉しいお知らせであるチャイムが鳴った瞬間、私は急いでオートロックの解除へ向かった。配達員の声を聞く前に、もう鍵を解除して自宅の玄関ドアの前に移動する。

 躾けのなっていない犬のように、私はドアの隙間から今か今かと配達員を待った。


「あっ! こっちでーす!」


 私は大きく手を振った。

 配達員はかつく会釈をすると、いつもの箱を手渡してくれた。


「サインは不要です」

「わかりました、ありがとうございます」


 配達員が背中を向けてすぐ、私は家の中へと戻る。

 早く、今日のお届け品の中身を確認したいのだ。


「やった! 早く、早く!」


 箱は思っていたより大きくて、両手で持つとずしりとその中身の重さが伝わる。

 もしかしたら、前回のステーキよりも大物かもしれない。


「ちょっと重いな……でも、この重さがたまらないよね」


 いつもの白いダンボール。角のラベルには太いフォントで、数字が並んでいた。


「00482181……うん、私だけの番号」


 誰もいないのをいいことににんまりと笑って、足早にリビングへと向かう。

 そして、リビングのテーブルに箱を置いた。

 ハサミを持ってきて、テープの端をカットする。切り損ねた部分を引っ張ると、ピリッと乾いた音がして蓋にあたる部分が浮き上がった。

 その中から、ふわっと冷たい空気がやんわりと広がる。


「わぁ……今回もきれいに詰めてある」


 思わず声が出た。

 一番上にはいつもの案内紙。それから、アンケート。


『今月お届けいたしましたのは『あったかポトフセット』でございます。』


 また、今回も違う料理が載っている。


「ポトフ……いいねぇ。季節ぴったり」


 私は目を細めて読みながら、口角を上げた。


 案内紙とアンケートを端に置いて、両手を箱の中に入れる。

 まず保冷材を取り出す。四隅にきっちり収まっていて、その冷気に晒された食材たちの外装には、薄く白い霜がところどころついていた。

 食材は段ごとに仕切りがしてあり、種類ごとに分けられている。


「面白いね、立体パズルみたい」


 一番上から確認するのも楽しいが、今日は一番下から見ていきたい、そんな気分だった。

 仕切りごと取り外し、まずは下段からチェックする。

 下段には、透明パウチに入ったカット野菜。

 小ぶりのじゃがいもは大きくよっつ、にんじんは厚めの輪切り。玉ねぎは四等分だろうか、芯は残っている。セロリの緑が鮮やかで、葉の端がまだ瑞々しい。

 これらかまとまって小分けにされていた。


「全部鍋に入れるだけで良いじゃん! これはラッキー……!」


 指でラベルをなぞる。『国産』『加熱用』『下処理済』。


 次に中段。

 ここはスープが入っていた。透き通る淡い黄金色の液体。

 量から見て、きっと濃縮スープだ。ラベルには『骨・香味野菜・食塩・白ワイン』

 もうすでに美味しそうだ。素材に野菜が含まれているとはいえ、ここへ箱の中の野菜と肉類が入れば、たまらない出汁が採れるだろう。

 想像しただけで、涎が溢れそうになる。


「ワイン入りだって。ちょっとリッチ」

 光にかざしてみると、まるでべっこう飴みたいな透け方をしていて、思わず見入ってしまう。

 

 最後に上段。

 真空パック入りのお肉がなんとみっつ。厚みのあるブロック肉で、脂身と赤身の層がきれいに整っている。


「うわぁ……美味しそう」


 自然と声が出た。

 美味しそうなお肉、ただそれだけで重みも増す気がした。


「煮込んだら溶けそうなくらいに柔らかそう……」


 食材を眺めているだけで、何なら少し満足してしまう。

 それから、トッピング用なのかトウモロコシの粒。

 彩りは完璧だ。


「あれ、これは何?」


 隅の小さな布袋が目に入り、気になって取り出す。


『ハーブミックス』

「あ、なるほど!」


 袋に直接書かれた、手書きの文字がゆるくて可愛いらしい。

 紐を解くと、ローリエと黒胡椒、タイムの香りがふわっと広がった。


「専門店みたいな、そんな雰囲気する」


 顔を近づけて、もう一度深呼吸する。少し粉っぽくて、それでも鼻の奥がすうっとした。


 テーブルに全部を並べてみた。

 野菜パック、肉、スープのパウチにトッピング、ハーブミックス。それから、いつも通りの案内紙とアンケート。


「……豪華だなぁ」


 スマホで写真を一枚撮る。これはSNS用ではなく、ただ記録として。最近は、こうして料理前に並べるのが習慣になっている。

 面白いことに、最近になってこの流れが習慣化してきたのだ。

 記録する、ということは、私にとって何か意味があるらしい。

 私は案内紙を再び手に取り『おすすめの調理方法』を目で追った。


「まずはお肉を茹でて、野菜を加えて、最後にスープ……うん、簡単そう」


 声に出して読むと、何だかワクワクしてくる。


「さ、さっそくやりますか!」


 そう言いながら、野菜をひとつずつパックごと冷蔵庫に入れる。お肉は下段、スープはドアポケット、ハーブ袋は小物トレイへ。

 一旦定位置へ入れておくのだ。でないと、何を腐どこに置いたのかすぐに忘れてしまうし、キッチンもすべて置きっぱなしにできるほどの広さがない。

 空になった箱を畳もうとしたとき、内側に印刷されたメッセージが目に入った。


『お手元に届いた瞬間から、今日のご飯は始まっています』

『どんな食材でも、美味しくいただきましょう』

『身に覚えはありませんか?』


「ふふ、いい言葉だなぁ」


 上ふたつの文章は、素直に素敵だと思えた。

 けれど、最後の一文はよくわからない。

 前にも見た気がするが、会社のキャッチコピーか何かだろうか。


「そう言われると、ちょっと心が引き締まるよね、なんて」


 少し照れたように笑って、箱を折り畳む。うまく切れなかった部分のテープの端が指先にくっついて、ぺたっぺたっと音を立てた。

 

 料理を始める前に、テーブルを拭く。


「ポトフにはパンかなぁ」


 ――ふと、思い出す。昔、あの人と一緒に作ったポトフのこと。「味見ばっかしてる」と笑われて、じゃがいもをひとつ取られた。

 結局、私もあの人も、味見と称してほとんど食べてしまったっけ。

 あのときのスープの香り、湯気の白さ、それから、窓に映る二人分の影。

 それから微かによぎる、赤い匂い。


「懐かしいな……」


 今日のポトフも、あのときみたいに美味しくできるといい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ