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魔界の命運は家庭問題に託された  作者: 三浦サイラス
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25話 最低最悪の嫌がらせ

「何処よ! 姿を現したらどうなの!」



 智香は軽く挑発するが、佐々木場は姿を現さない。



「紅葉に殺される寸前、私の命を僅かだけ魔界力に込めて放っていたんだ。成功するかは不明だったが、こうして会話ができている。どうやら賭けには勝ったようだな」



「な、なんですって!?」



 智香は驚愕した。なんて反則技だろうか。魔界力に命を入れて生き長らえるなど聞いたことがない。紅葉も知らないだろう。知っているならこんな不始末をするはずがない。



「ククク、安心しろエンネルーベ妹。身体もなく、漂うだけの私は戦うなどできない。生き長らえてはいるが、ほんの少しだけ死ぬまでの時間が延びただけだ。すぐに消え去る命だよ」



 たしかにその通りだろう。佐々木場が戦えるのなら、会話などせず、すぐに智香と信一郎は殺しにくるはずだ。



 なら、何の為にこの奥の手(時間稼ぎ)はある?



「ああ、疑問だろうな。戦えないなら何故こんな無駄をする必要が、と」



 本当に今の佐々木場が何もするつもりがないなら死んで終わりのはずだ。



「そんなの決まっているだろ」



 佐々木場には余裕がある。


 何か仕掛けるために出てきたはずだ。



「嫌がらせするためだろうがぁぁぁぁぁぁぁッ!」



 バリッ、と静電気が走ったような音が近くから聞こえた。


 一体何の音、と智香が思う前にそれは判明する。



「う、ぐううッ!?」



 信一郎がその場で蹲ると同時、その全身から魔界力が溢れ出だのだ。溢れた魔界力はバチバチと花火のように小さく爆ぜながら、信一郎を捕らえるように包み込む。


 明らかな異常だ。佐々木場によるモノなのは間違い無かった。



「外崎君!」



 智香は蹲ったまま唸る信一郎に手を伸ばすが届かない。全身で爆ぜている魔界力が智香の手を弾いたのだ。



「痛ッ!?」



「く、来るな智香君! ぐっ!」



 指先に電撃に触れたような痛みが走り、智香は顔を歪める。


 これでは信一郎に触れることができない。



「魔王の魔界力が暴走してるんだぞ? お前ごときが触れられるワケないだろがッ!」



 佐々木場はバカにしたように笑い出す。



「俺に説教垂れてた時に察したよ。コイツは恐ろしい魔界力を持っているくせに、その制御ができてないってなぁ! だからちょぅっとだけ刺激してやったんだ! ハハハハッ! コイツに暴走した魔界力をどうにかする術はない! もうじき周囲を巻き込んで爆発するだろうよ!」



「ば、爆発!?」



「心配せんでいーわよ智香」



 爆発と聞いて智香は狼狽するが、地面にいるドスペラルドから沙世の自信満々の声がした。



「たしかにソイツの言うとーりで、魔王様を中心に周囲十メートルは吹き飛んじまう。けど、コレは暴走であって自爆じゃねーの。だから爆発が起きても魔王様は無事だし、そんくらいの規模なら智香は逃げられる。しょせん局所爆発だから問題ねーわ。まあ、吹き飛んだ跡地を見た魔王様がどう思うかは……今は考えないよーにしときましょ」



「ほ、ホントに外崎君大丈夫なの?」



「だいじょーぶ。ヤツの悪あがきは何の意味もねーから。ただの徒労」



 さすが沙世だ。佐々木場が何をしようとしているのか見抜いていた。


 この周囲に住んでるのは智香だけだ。誰かが巻き込まれる心配はない。智香さえこの場から逃げれば佐々木場の企み(嫌がらせ)は失敗だ。



「智香が魔王様をどーにか助けよーとして巻き添え、ってのを狙ったんだろーけど残念だったわな。ここには優秀なエンネルーベ家の次女がいんの。おめーの狙いは失敗だよ」



 沙世は「なめんなよ」と、鼻をフンスと鳴らす。



「エンネルーベには紅葉以外にも曲者がいるようだな」



 チッ、と佐々木場の舌打ちが聞こえた。



「たしかにその通りだ。爆発は限定的、魔王自身は無事、この場からエンネルーベが逃げるのは容易く、狭い範囲を平らにするのがせいぜい。だからエンエルーベ妹ここからあっさり逃げて道連れ失敗……なワケあるかぁぁッ!」



 パチン、と指を鳴らした音が響く。



「何度油断するつもりだぁッ!? このうっかり女がッ! 俺は嫌がらせをすると決めたらな! 絶対に嫌がらせしてやるんだよ!」



 ドサッ! と、何かが降ってきた音がした。



「なッ!?」



 それを見て智香は驚愕する。



「あだッ!?」



「いつつー」



 智香の目の前にこの場にいるワケのない人物が現れたからだ。



「って、え!? は!? 何!? どこよここッ!?」



「あれ? 私の部屋が消えたんだけど?」



 湊と妙有。二人が部屋着姿のまま智香の目の前に現れ、何事かと混乱していた。



「今の俺は魔界力に等しいんだぞッ! だから強力な魔界力を持つヤツがよく接触していた人物がわかるんだよ! 例えば、外崎と付き合いの長い友人とかなぁッ!」



 佐々木場が紅葉に追い詰められていた時は二人を転移させなかった。それは、この状態でなければできないというのもあるのだろうが、一番はあっさり阻止されるのが目に見えるからだ。紅葉がいては人質をとっても、あっさりと奪い返されてしまう。



「さあ、逃げるのかエンネルーベ妹? 魔王を置いて逃げるのか? 魔王の友人を置いて逃げるのか? それともお前だけ逃げるのか? 魔王に友人殺しの(トラウマ)を負わせるのか? それが許せるのか? ああ、ソイツらをここから逃がすことはできんぞ。どうするんだあぁッ!?」



 佐々木場の声が薄くなっていく。もうじき命が消える合図だった。



「エンネルーベ妹がどんな判断をするのか見られないのは残念だが、まあいい。どっちを選ぼうと最悪の結果だ。魔王は墜ちるぞ。ハハハハハハ……」



 やりたいことはやった。結果はわからないが、望むモノになるのはわかりきっている。


 佐々木場は満足とばかりに高笑いし――その声が消える。


 それがヤツの最後だった。



「くっ……アイツなんてことを……」



 転移された湊と妙有、魔界力の暴走を止められない信一郎。


 紅葉が来られない以上、智香がこの事態をどうにかしなければならない。


 三人を助けられなければ、その結末は佐々木場の望むモノとなってしまう。



「と、智香君。その二人を……」



「うん! わかってるよ外崎君!」



 信一郎を安心させるように智香は大きく頷いた。



「湊! 妙有っち!」



「だ、誰よアンタ!? も、もしかしてアンタが私をここに!? ど、どんなトリックよ! って、信一郎!? なんで全身スパークしてんの!?」



「んー? この赤髪美女さん、もしかして智香っち?」



 慌てふためく湊と落ち着いている妙有の対比は面白いが、今は面白がっている場合ではない。



「そう! 私は智香! で、私の恰好だとか、なんでここにいるんだとか、あの外崎君はなんなのとか、そういうのは後で詳しく言うから! 今は私の指示に従って!」



 智香は「早く立って! ここから離れるの!」と急かすが、二人はその場から動こうとしない。


 いや、動きたくても動けなかった。



「な、なんで!? なんで立てないのよッ!?」



「私も湊っちと同じ。立ち上がったり、ここから移動しようとしたら、足が地面に張り付いたみたいになる……なんで?」



 その場なら手は動くし足も動く。首を動かして周囲を見ることもできるし、腰を左右にほぐすように動かすことだってできる。


 でも、立ち上がったり、この場から移動することはできない。



「二人とも手を!」



 智香に言われて二人は手を差し出す。智香はその手を握って思い切り引っ張るが、二人はその場から微動だにしなかった。



「あだだだだ! 痛い! 智香痛いッ!」



「と、智香っち……腕がもげそう」



 智香に思い切り腕を引っ張られ、二人は痛みに顔を歪める。



「ご、ゴメン!」



 慌てて智香は手を離した。


 佐々木場は「逃がすことはできない」と言っていたが、コレがそうなのだろうか。


 このままでは湊と妙有を信一郎の暴走爆発に巻き込んでしまう。周囲十メートルを吹き飛ばす爆発なんかくらえば、二人は確実に死亡だ。



「やだ……そんなの絶対やだ!」



 湊と妙有を見捨てれば智香は助かる。だが、智香にこの場から一人だけ逃げるという選択肢はない。


 友人になってくれた二人を見捨てるなんて絶対にできなかった。



「沙世ちゃん! なんとかできないの!」



 ドスペラルドから悲痛な紅葉の声が聞こえた。



「二人をそこから動かそーとすんのは難しいわ。佐々木場の魔界力が呪いみてーに二人をしばってる。十分もあれば動けるだろうけど……そんなの待ってたら、間違いなく魔王様が爆発する」



 幸いというべきか、湊と妙有は一生このままというワケではないようだ。まず、その事実に智香はホッとする。



「え? え? なんで人形から声がしてんの?」



「通信機かな? 可愛い外見だよね」



 さっきから色々起こってるせいで、三姉妹は通信波機能(テレパシー)を使用するのを忘れているが、そんなのを気にしている場合ではない。



「魔王様の暴走爆発をどうにかしねーと二人は助けらんねーわ」



「どうにかしてッ! 沙世ちゃんだけが頼りなのッ!」



 紅葉は智香が一人で逃げるワケがないとわかっているようだ。みんなが助かる術はないかと沙世に求めていた。



「……方法はね。いちおーだけどね。あんのよ」



「あるのね沙世ちゃんッ!?」



「言ってお姉ちゃん! 私はどうなってもいいから!」



「…………」



 方法はある。そう言った沙世だが黙ってしまう。



「早く! このままじゃ湊と妙有っちが!」



「……わかった」



 智香は理解している。


 沙世が黙っていた、ということはその方法にはとんでもないリスクがあるのだ。

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