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魔界の命運は家庭問題に託された  作者: 三浦サイラス
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24話 最強のエンネルーベ・紅葉・アリアロフ

「な、なんだこの魔界力はッ!? 一体何者……ま、まさかッ!?」



 佐々木場の膝がガクガクと震えている。どうやら、穴から出てくる“誰か”を佐々木場は恐れているようだった。



「私がこの時代とこの場所に来られないと思っていたのか? おめでたいヤツだ」



 その歪みから現れたのは一人の女性だった。


 束ねた真っ赤な長髪を風になびかせ、右手を腰に当て不適な笑みを見せている。だが、切れ長の瞳は怒りに満ちており、無言の圧力(プレツシヤー)を佐々木場に向けていた。



「もうお前に勝ち目はない。そのまま恐怖で震えていろ」



 そして、背中に生えた漆黒の翼が大きく羽ばたき、夕陽に土埃が舞った。



「お、おおおおおおお前はぁぁぁぁぁぁぁッ!?」



「可憐だ……」



「紅葉お姉ちゃん!」



 智香はこれ以上ない助っ人の登場に目を輝かせた。



「ここが人間界か。映像で見ていたが、たしかに魔界と変わらないな」



 エンネルーベ・紅葉・アリアロフ。


 魔王の右腕と呼ばれているエンネルーベ家の長女。


 魔界屈指の強者が、智香の目の前に立っていた。 



「少し待っていてくれ智香。すぐに済ませる」



 紅葉は智香への挨拶もそこそこに、佐々木場と対峙する。



「さて、ここは久しぶりと言うべきなのか未来場?」



「くッ……ぬおあああああああああああああッ!」



 佐々木場は紅葉の圧力(プレツシヤー)に負けないよう己を奮い立たせ、無数の紫球を紅葉へ撃ち放った。



「はあああああああああああああああああああ!」



 当然本気で真剣だ。智香を前にした時のような余裕や油断はない。



「…………」



 佐々木場の紫球が紅葉に迫る。


 だが、紅葉はそれを防ごうとも避けようともしない。撃たれるがままだ。


 紫球は紅葉に全弾命中する――が、その命中する寸前、紫球は淡い粉塵となって散ってしまう。



「なッ!?」



 以前、佐々木場が魔王に攻撃した時と同じ現象が起きていた。


 紅葉は突っ立っているだけなのに何のダメージもない。



「二百年経っても私の力がわかっていないとはな」



 紅葉と佐々木場両者の力量は、文字通り天と地ほどの差がある。これはそれだけの開きがあるという証拠なのだ。


 佐々木場の攻撃は紅葉にとって頬に当たる風と何ら変わりないのである。



「ば、バカなッ!? 今の私は昔とは比べものにならないくらい強いんだぞッ!」



「この程度で? 笑わせるな未来場。二百年経てば少しはマシになると思ったが、違ったようだな」



 そもそも魔王と紅葉の力量差が凄まじいのに、佐々木場はその紅葉にも全く及ばない。


 圧倒的強さを得た佐々木場だったが、悲しいことにそれはただの自己満足(オナニー)でしかないようだった。



「地獄にブチ込んでやりたい所だが、お前は二百年後の魔界人だ。現代の魔界人である私が気にする必要はないか。二百年後など管轄外だしな」



「ぐ……うああああああッ!!」



 佐々木場は恐怖に満ちた顔で紫球撃ち続けた。本気の魔界砲(ディレ)も放つが、紅葉には全ての攻撃が効かない。無駄な抵抗だった。



「ヒイッ! ヒィィッ! ひいいいいああああああああ!」



 佐々木場は後退しながら紅葉に攻撃を続ける。


 そこにさっきまで智香や信一郎に見せていた、自信たっぷりの姿は何処にもなかった。



魔界砲(ディレ)は魔界力を放つだけの基本技だが、それ故に使い手によって見た目や威力が変わりやすい。知っているな?」



 紅葉が佐々木場に左手を向け、何かを掴み取ろうとするように五指を広げた。



「これが私の魔界砲(ディレ)だ」



 バチバチと赤い稲妻が紅葉の左手に走ったかと思うと弓の形を為し、一発の赤い光弾が引き絞られた矢のように現れた。


 紅葉は現れた弓と矢を構え、攻撃の切っ先を佐々木場へ向ける。



「お前は私の大事な妹を殺そうとした! 絶対に許さん!」



 パァン、と紅葉の左手から光弾が放たれる。


 処刑は一瞬だった。



「――が」



 悲鳴、だったのだろう。


 紅葉の魔界砲(ディレ)が佐々木場に触れた瞬間、太陽のような光と共に爆縮が起き、佐々木場は抉れるように消え去った。



「ハハハ……さすが紅葉お姉ちゃん」



 圧倒的な紅葉の一撃を見て、智香は乾いた笑いが漏れてしまう。



「姉さん、終わったんだから早く戻れっての」



「……久しぶりに生の智香と対面できたのだか」



「時代も世界も違う他世界の絶対強者がいんのはヤベーって話したでしょーが。短時間なら問題ねーけど、姉さんなんかがそこでゆっくりしたら次元崩壊が起きるって」



 沙世は恐ろしい事実を言った。



「え? そうなの?」



「そーなの。姉さんじゃなくて智香がそっちに行ったのはそういう理由があったんよ。しっかし、しまったわ。姉さんは送れねーって勝手に決めつけちまってた。天才にあるまじきうっかりだわ……」



 沙世の声がシュンとしている。紅葉を助けに向かわせる、という発想がなかった自分を責めているようだった。



「気にしなくていいよ沙世お姉ちゃん。私も気づけなかったし、そもそもこんな事態が計算外すぎるよ」



「……ありがと」



 智香に言われて少し気が楽になったのだろう。沙世は素直に智香へ礼を言った。



「すまない智香……私がここに滞在できるなら問題なかったのだが」



「紅葉お姉ちゃんも気にする必要ないない。私はお姉ちゃんが来てくれただけでとっても嬉しいよ」



 気落ちしている紅葉の肩を叩き「落ち込まないの」と智香はニッコリ笑った。



「と、智香ちゃ……ゴホン。ありがとう智香」



 紅葉は思わず素になりかけたが、すぐに被りを振って人前の自分を保つと、智香の頭を愛おしそうに撫でた。



「もう、くすぐったいよ」



「もう少しだけ頼む。また智香に会えるのはいつになるかわからないからな」



「うん、わかった――――――――って、まだ撫でるの? 撫で過ぎじゃない?」



「智香パワーを充電しているからな。しょうがないんだ」



「……智香パワーって何?」



 猫でも相手にしてるように紅葉は智香の至る所を撫でまくる。顔はキリッとしているが、その中身は智香に夢中なのが丸わかりだ。もし、これがエンネルーベ家内なら「もう離れたくなーい! ずっと触りたーい!」と、一日中智香に抱きついたままになるのは必至だろう。



「……はっ! 魔王様!」



 智香ばかり見ていて信一郎に気づかなかったらしく、紅葉は慌てて頭を下げる。



「も、申し訳ありません! 大変失礼を!」



 そのまま紅葉は信一郎の前で膝を曲げようとして――すぐにやめた。


 静かに立ち上がると、真っ直ぐに信一郎を見る。



「……膝を曲げるのはおかしいですね。あなたは私が知る外崎信一郎様ではないのですから」



「はい?」



 キョトンとする信一郎を見て紅葉はフフフと笑うと、出しっぱなしただった翼を仕舞う。



「これが人間の魔王様か……」



「え、えーと? もしや何処かでお会いしてますか?」



「フフフ……」



 信一郎は探るように聞くが、紅葉の返答は微笑だった。



「妹が外崎君を誤解させることをしてごめんなさい。智香は外崎君を嫌ってなんていないから安心してね。いつも智香のことを考えてくれてありがとう。妹のそばに外崎君がいてくれて、私はとっても嬉しいよ」



 それだけ言うと紅葉は「沙世、戻してくれ」と言って姿を消した。


 その後すぐに、ドスペラルドから「ああーん! もっと智香ちゃんのとこいたかったよー!」と声がしたが、そばに信一郎がいるのを思い出したのだろう。慌てて紅葉は口を閉じた。



「智香君」



「……え、えーとね! ど、どこから説明すればいいかな?」



 二人きり(ドスペラルドの向こうに姉が二人いるが)になり、信一郎の視線が智香に集中する。


 その目は言わずもがな、さっきまでの出来事を説明してほしいと訴えていた。



「もちろん全部だよ。智香君が転校してきた理由や、さっきの大男は誰なのか等々、色々と詳しく聞きたい所だね」



『智香、私達が魔王様を殺したくだりは誤魔化し! そこだけは誰にもバレちゃいけねーんだから!』



『わかってる』



 肩に止まったドスペラルドに『安心して』と智香は呟く。



「時間はたっぷりあるから隅々まで徹底的に――なのだけど。なのだけども! まずはそんなことよりも!」



 ガシッと智香の両肩を握り、信一郎は再び涙を流し始めた。



「智香君がこの僕とッ! この僕とやっと話してくれるようになったッ! 当然、何か理由があると思っているよ! さっきの大男やお姉さんが関係しているのだよね! そうそう、智香君のお姉さんはとても可憐だ! 美しい! うっかり頬を染めてしまったよッ! 僕は色恋に無縁かと悩んでいたがそうではなかった! 年上の女性に僕はときめくようだッ! あ、そうだ! まずは智香君自身が感じるクラスのことを聞かせてくれないかッ! これまで全く学校の事を聞いてないし――」



「待った待った待った待った待ったどうどうどうどうどう」



 信一郎に智香は揺さぶられ、その肩からドスペラルドが転がり落ちる。


 興奮気味で喋りまくって智香に迫り、さらにその手をブンブンして鼻息を荒くしている信一郎は、何も知らない者が見たら変態に見えるだろう。



「慌てないで! 外崎君の質問には全部答えるから!」



 まずは謝らなければ。信一郎に色々と話すのはそれからだ。



「あ、あのね外崎君。転校初日で私――」



「フハハハハハハハハッ!」



 突如、空気を揺らすように笑い声が響き、智香の背筋をゾクリと震わせた。



「私を倒したと油断したな! 聞いていたぞ! もう紅葉はコチラに来られないようだな!」



 佐々木場だ。


 紅葉が倒したはずなのに、何故かヤツの声が聞こえる。



「さ、沙世お姉ちゃん? なんかアイツの声が聞こえるんだけど?」



「生きてるワケねーっての! どういうこと!?」



「バカな!? 佐々木場は私が倒した! 手応えもあったぞ!?」



 信じられないが、声がする以上佐々木場は生きている。


 まだ事態は終わっていない。

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