22話 刺客が強すぎる
「佐々木場に流星蹴は通じねーわ。でも、それなら別の必殺技をためせばいいだけ」
「別の必殺技があるの!?」
流星蹴しかないと思っていたので寝耳に水だった。
「どっちの手でもいいから、人差し指と中指に魔界力を集めるイメージして。そこに私が武器を作っから。それで佐々木場の目に向かって攻撃すんのよ」
「えええ!? あんな危険の固まりに目潰やれっていうの!?」
実力差がエグいため、佐々木場に近づくだけで死を意味するに等しい。
「他の箇所じゃまともにダメージを与えんのは難しーわ。確実な場所を狙わねーと」
「でも、目なんてピンポイントすぎて成功率低そうなんだけど」
「だからそのための武器っつーか、新しい必殺技なんでしょーが」
「……って、コレッ!?」
何だかんだ言いながらも、智香は言われた通り魔界力を集中させており――智香の左手の人差し指と中指の先に淡い紫色が灯った。
その指先に集まった魔界力が刃物のように鋭く形成されていく。
「これが第二の必殺技! 魔界振動刃! どんなもんだろーと切り裂ける魔界力を指先に形成すんの! ま、相手が佐々木場だから全てとはいかねーけど、眼なら大丈夫! で、見事目潰しが成功したら周囲が見えなくなって、佐々木場の防御が疎かになる! そうなれば他箇所も魔界振動刃で切り裂けるっつー寸法よ!」
「…………」
初撃箇所が限定されているとはいえ、佐々木場に通じる頼もしい必殺技の登場だ。
でも、智香は真っ先に思った。
「短ッ!」
その必殺の刃は二センチと、ナイフよりも遙かに短いのである。うっかり飛び出したカッターの刃先程度しかない。あまりに頼りなく見える必殺技だった。
「二センチじゃ心臓にも届かないよッ!」
ヴヴヴと、短い刃から振動音が虚しく響く。
「仕方ねーでしょ! 佐々木場に通じる魔界振動刃の長さはそれが適正なんだっての!」
「二センチがかッ!?」
「見え見えの刃物じゃ注意しろって言ってるよーなもん! つか、佐々木場に通じるくらいの魔界力を凝縮したらそんくらいになっちまうの! 目潰ししやすい小ささと思ってやるしかねーのよ!」
「うぐ……ムチャ言われてるけど、通用するだけマシって考えるべきか……」
短すぎる刃でも、これが佐々木場に勝てる唯一の希望なのだから賭けるしかない。
(外崎君と綺砂倉町を守るためにも、佐々木場はここで倒さなきゃ……)
佐々木場は信一郎を怨んでいる。なら、信一郎だけでなく住んでいる町も気に障ってしょうがないはずだ。
信一郎を守るだけなら佐々木場を無視して逃げ切るべきだが、その場合綺砂倉町が滅ぼされる可能性が高い。被害が湊や妙有といったクラスメイト達にも及び、これでは例え信一郎を守れても意味がなくなってしまう。
(そんなの許すわけにいかない!)
信一郎だけでなく、優しくしてくれる友人達のためにも、智香は佐々木場を倒さねばならない。
(でも……でもなぁ……)
しかし、頼れる必殺技が二センチというのは厳しすぎる。しかも命中させなきゃならないのは目だ。飛べるとはいえ、四メートルもある相手に目潰しするのはかなりキツい。それに佐々木場は反撃してくるはずで、さっきの魔界砲のような致命的なモノばかりのはずだ。
全攻撃を避け、小さい目標に、小さな武器で攻撃する。
これは相当うまくやらねばならない。
「うううッ! やれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれる――」
「落ち着きたまえ智香君」
緊張しまくってるのがモロ解りだからだろう。
智香の肩に信一郎の手がそっと置かれた。
「僕は色々と事情をよくわかっていない。だが、智香君を信じることはできる。大丈夫、必ず成功するさ」
かなりテキトーな言葉だ。わかっていないのに大丈夫だなんて、フォローとしてあまりに雑である。
「う、うん……」
それなのに何故だろうか。信一郎からそう言われると、智香から余計な力が全て抜けていった。
「あ、ありがとう外崎君……」
「なに、このくらい朝飯前だよ」
魔界に君臨する王となる者の言葉だからなのか、それとも親しくなりたい男子生徒が励ましてくれたからなのか。
信一郎の言葉は、たったそれだけで智香に大きな自信と安らぎを与えていた。
「外崎君、絶対にここから出ないでね」
「わかった。健闘を祈っているよ」
信一郎を茂みに隠したまま、智香は庭から表へ出た。
周囲に佐々木場の気配は無い。まだこの辺りにはいないようだ。
智香は佐々木場から逃げた。だから、佐々木場は智香に対抗手段が無いと思い込んでいるはずだ。ザコと油断している可能性は高い。
魔界振動刃をブチ当てるチャンスがあるとすればそこだ。
「何処から……」
まだ佐々木場の姿は見当たらない。
ここから移動すべきか止まるべきか、どうしたものかと智香が考えていると――全身を氷柱で貫かれたような寒気が走った。
「勝手にいなくなるなぁぁぁぁぁぁッ!」
遙か上空から佐々木場の叫び声がした。
「上ッ!?」
智香が飛べるのだ。格上の佐々木場が飛べても不思議ではない。
充分に予想できたのに、智香は虚を突かれる形になってしまった。
「くッ!」
だが、全く反応できなかったワケではない。その場から即座に飛び退き、なんとか智香は佐々木場の着地を回避した。
「ふはああああああああああああ!」
佐々木場の巨体は轟音とともに周囲のアスファルトを沈ませ、その衝撃で街灯や空き屋を巻き添えにした。
全身に憎悪のオーラを纏った佐々木場が智香の前に現れる。
「コロォォォォォォォォスッ! 外崎ぃぃぃぃぃぃ! エンネルゥゥゥベェェェェ!」
「ッ!? マズい!」
智香は三人の位置関係を察して顔を青くした。
最悪だ。佐々木場は智香と隠れている信一郎が直線上になる場所で魔界砲を放とうとしているのだ。
これでは智香が攻撃を避けた時、信一郎に魔界砲がブチ当たってしまう。かといって、佐々木場の攻撃を阻止するは不可能だ。零距離で攻撃しなければならない智香と、その場で撃つだけの佐々木場では絶望的な時間差がある。とても間に合わない。
「智香!」
「わかってるッ!」
ならば防御しかない。手段は魔界振動刃だ。
二センチとはいえ、この魔界振動刃は流星蹴で傷つかない佐々木場にダメージを与えられる。なら、その攻撃力は魔界砲を裂くといった芸当もできるはずだ。
「信じてるからねお姉ちゃん!」
「当然だっての!」
智香は魔界振動刃を構える。




