20話 外崎信一郎は智香の家を探す
「ぬぅ……この辺りのはずなのだが」
眼前の風景とメモを見ながら信一郎は自信なく歩いていた。
「やはり苦手は克服しなければ」
地図ぐらいスマホでわかりやすく表示できるが、信一郎はスマホを持っていない。機械音痴のためアプリ、ソシャゲなんてモノは脳内伝説武具状態のため扱えず、ガラケーのままだった。
「ラインで連絡できないのは迷惑だと湊に言われているし、近いうちに教えてもらわなければ」
信一郎は彷徨うようにエンネルーベ・智香・シャントスの家を探していた。
智香の家を湊や妙有に聞こうとしなかったワケではない。だが、二人に相談すればいい顔はされないだろうし、何より高確率で智香に伝わってしまう。
体臭が苦手な相手に調べられている、なんて智香に知られるワケにはいかない。
よって、信一郎は極秘に動いている。住所については教師に聞くと簡単に教えてくれた。自身の行為が良いか悪いかは置いといて、日頃の行いの賜物である。
「こんな地域が綺砂倉町にあるのだな」
砂利が散乱しているアスファルトを歩きながら信一郎は周囲を見回す。
肝試しなどに使われる場所と聞いただけあって、草木が荒れ放題な平地や空き家がいくつも建ち並んでいた。陽は暮れかけで薄暗さが充満しているが、街灯がいくつか設置されているので道は見える。だが周囲に人気がないため、軽いゴーストタウンだ。
「家に明かりでもついていれば、そこが智香君の家なんだろうが……」
家を見つけたら智香を尾行する日々が始まるだろう。それを辛抱強く繰り返し、智香の知らない一面を少しずつ探していくのだ。
「頑張れ外崎信一郎! きっと、智香君と仲良くなれるさ!」
尚志や湊がいれば「ただのストーカーじゃねぇか。即刻やめろ」とツッコミが入るのは間違いないが、智香でいっぱいな信一郎にそんな考えがあるワケなかった。
「おぐっ!?」
同じような角を何度も曲がっていると、信一郎は誰かにブツかった。
「すみません! 前方不注意前でした!」
相手も見ずに信一郎は謝った。そして、相手を確認しようとして頭を上げると――信じられない程でかい人間(?)がいた。
「お、大きい……」
身長が優に四メートルはありそうな巨人が立っていた。あまりに大きいので、目の前にいるのは人間か疑ってしまう。だが、たしかに人間だ。決して壁や機械などではない。
呆然としてしまったが、信一郎は「世の中は広いのだなぁ」と思いつつ、再度頭を下げて巨人の横を通り過ぎようとした。
「待て」
だが、巨人の手が信一郎の行方を遮った。四メートルの巨体の手だけあって、信一郎の身体など簡単に吹き飛ばせそうだ。
「外崎信一郎だな?」
巨人が低い声で信一郎の名を呟く。
「え? はい、私は外崎信一郎ですが?」
普段なら「名を聞くなら自分からだろう」と言うのだが、ぶつかってしまったのもあって、思わず信一郎は相手の質問に答えてしまう。
「そうか。では」
巨人は腰を構えて両手を組むと、その手を天高く振り上げる。
「死ね」
組まれた両手が突如信一郎に振り下ろされた。信一郎など簡単に潰せる巨大な鎚に等しい一撃がやってくる。
「へ?」
殺される、と予感できてもそれだけだ。
平和な世界に生きている信一郎は気の抜けた声を漏らすだけで、死の一撃を見上げるしかできなかった。
「流星蹴ッ!」
だが、そこへ飛び込むように女性の介入者が現れる。
その女性は光が爆発したかのような蹴りを巨人の脇腹に見舞った。
「飛んでけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
蹴りでブッ飛んだ巨人は、空き家に突っ込み派手な音を成らした。現実離れした出来事が展開され、信一郎は女性と巨体を交互に何度も見てしまう。
「こ、これは……」
色々とワケがわからない。何が起こってるか理解できない。
でも、一つだけ解ることがある。
「彼女に感謝しなくてはッ!」
間違い無い。この女性はあの巨人から助けてくれたのだ。
「イぃ!? な、なんでッ!? 全力の一撃だったのにどうしてあの程度のダメージなの!? 消滅したっておかしくなかったでしょ!」
お礼を言わねばならない。何やら女性は狼狽しているようだが、信一郎は構わず女性に迫っていった。
「ありがとうございます! あなたがいなければ僕は――ん?」
信一郎はジーッと女性を凝視する。
「なんと! よく見れば智香君ではないか」
「ドキッ」
真っ赤な髪と、華奢な身体を包む黒のドレスは、智香であると判別するのを困難にしており、更に背中にはコウモリの羽ような曲線を描いた翼までついている。人間界の者達ではコレが智香だと絶対に気づけないだろう。
「え、えーとえーとー」
だが、信一郎はあっさりと智香だと見抜いた。
転校初日から信一郎はずっと智香を見続けている。並の変装や変身では誤魔化せない眼力を信一郎は得てしまった(智香に限る)のだ。
「そ、その何て言えばいいのかな……そのー」
智香は少しパニックになっていた。バレると思ってなかったのか、言葉が詰まって出てこない。
「おお、会話だ! 会話してくれた! うおおおおっ!」
智香と会話ができて、信一郎は感激のあまり思わず目に涙を流す。
今の今まですれ違った結果、両者一週間ぶりの会話だった。
「えっ!? な、なんで泣いてるの!?」
「やっと君と話せた! これほど嬉しい事はないよ! あ、体臭は改善されているだろうか? 色んな香水を試しているのだが、いまいち自信がなくて――」
余程嬉しかったのか、信一郎は智香の姿やブッ飛んでいった巨人のことを聞こうとしない。そんなのよりも智香と会話できた嬉しさが勝っており、信一郎は何度も「ありがとう」を繰り返した。
「二人とも伏せてッ!!」
突如、智香の肩に乗っている小鳥のぬいぐるみから女性の焦った声が聞こえた。
「魔界砲がくるッ!」
瞬間、智香が信一郎の身体を地面へ押さえ込む。
「と、智香君? いきなり何を……って、ん? なんで鳥のぬいぐるみから声――」
首を上げようとした瞬間、夜を分断する膨大な光線が信一郎と智香の真上を通過した。
ゴアッ! と、音がした後に背後を振り返ると、スプーンで抉ったように半壊した空き家が目に入る。
間違い無くさっきの光線によるものだ。
「お姉ちゃん? コレはいくらなんでも強すぎるんじゃない? 今の魔界砲、命中してたら即殺な威力だし、私の一撃をくらってダメージらしいダメージがないみたいだし……」
「なんで……どうしてソイツがいるっつーのよ」
通信機でも仕込んでいるのか、智香と小鳥のぬいぐるみは会話しているようだった。
そして、その二人(?)のやり取りを聞いて、なんとなくだが信一郎は察した。
この状況、どうやらヤバいらしい。
「なんでよ沙世ちゃん! なんでアイツが人間界にいるのよ! アズ・佐々木場・ミストラーは私が捕まえたはずよッ!?」
アズ・佐々木場・ミストラー。
それは自分を殺そうとしている者の名前だと、すぐに信一郎は理解した。




