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魔界の命運は家庭問題に託された  作者: 三浦サイラス
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14話 エンネルーベ・智香・シャントスは落ち込む

昼休みに入ると生徒達はそれぞれの場所へと散っていく。購買へ行くもの、外で弁当を食べようとするもの、教室に残るものと様々だ。


 智香は教室に残って弁当箱を開いているが、箸をつけず両手で頭を抱えていた。



「さ、最悪だ……最悪な転校初日にしちゃった……」



 智香は信一郎を護衛しなければならない。


 そうなってしまったあの日から一週間が経過し、その間、沙世はドスペラルドを使って智香が人間界に住む準備を終わらせていた。


 沙世の手際良さは優秀な秘書さながらで、不動産関係や学校の手続きなど、全て書類のみで何ら問題なく終わらせた。急だったので智香の引っ越し先は治安が悪いというか、人気のない場所になってしまったが、それは仕方ない。


 何にせよ智香は信一郎を守るべく、西綺砂倉高等学校一年二組に転校(入学)できている。



「でもダメなの……魔王様に近づかれるのは本当にダメ……」



 智香はエクスディカテリアにあるその他諸々の機能を使って、信一郎の魔界力影響を和らがせている。そのため、最初の遭遇時ほどではなくなっているのだが、それでも智香はキツかった。


 魔界戦衣(バトルドレス)を着れば智香の魔界力が増大するので影響を受けないが、三十分しか着続けられないし、外見も大きく変わってしまう。根本的解決にはならない。



「人間は魔界力の影響がないってズルすぎる……ズルすぎるよぉ……」



 沙世曰く「人間は魔界力の影響が皆無なんよ。魔界砲(ディレ)とかの攻撃に変換された魔界力になると話が変わるけどね。まあ、アレルギーみてーなもんかな。リンゴ食べて苦しむ人は一部しかいねーけど、リンゴそのものをぶつけられたら誰でもいてーじゃん? つまり、リンゴを食ってもぶつけられてもダメなのが一般魔界人(パンピー)ってこと。わかるっしょ?」とのことで、智香は理解した。つーか、ただの事実なので頷くしかなかった。



「ああもう! 私のバカバカバカッ!」



 自己紹介じゃ噛むし、ビクつきまくるし、何より言ってはいけない一言を信一郎にぶつけてしまった。本能が危険を察して叫んでしまったとしても、アレは言っちゃならなかった。間違いなく信一郎の心にキズを負わせた。



「ううう……どうしよう」



 授業中、智香はチラチラと信一郎を見ていたが、信一郎はずっと白目を向いたまま、そりゃもう見事に固まっていた。教科書やノートは出ていたが、黒板に書かれた文字が記入される様子はなく、全身が微動だにしてなかった。


 昼休みに入る辺りになって、ようやく信一郎は動くようになったが顔色は悪い。朝のことを気にしているのがミエミエだった。



「謝りたい……誤解を解きたい……でも……」



 信一郎の周囲三メートルが智香の近づける限界だ。それ以上近づくと、精神の締め付けが最大まで高まり、即死するとエクスディカテリアが判断している。


 なので、智香は信一郎への三メートル以内には絶対近づけず、安全を考慮すると、もっと近づけない。



『目標は恋人だってのに何やってんだってのッ! 魔王様めっちゃショックうけてんじゃん!』



『知ってるわ! だから悩んでるんでしょうが! 後悔しまくってんでしょうがぁぁぁぁぁッ! あと、恋人は目指してないから!』



 智香と沙世はドスペラルドの通信波機能(テレパシー)で会話していた。


 学校内や人混みといった場所でドスペラルドと会話するのは難しいので、急遽沙世がドスペラルドを改良(アツプデート)したのだ。智香とドスペラルドが三十センチ以内の距離にいるなら、喋らずとも会話ができるようになっている。



『なんとしても近づけっての! これじゃ会話だってロクにできねーわよ!』



『無理無理! 絶対無理! 冗談じゃなくマジムリ!』



 この三メートルは智香と信一郎の間を阻む最大の壁だった。


 このせいで信一郎のそばに行って謝れないし、だからといって離れた場所から謝るわけにもいかない。


 智香は朝のホームルームの件で変な女だとレッテルが貼られている。ヘタな謝罪をすれば、信一郎にからかわれたと思われてしまう。そうなれば更に傷つけてしまうかもしれない。



『気合いで乗り越えろってのッ! このエクスディカテリアだって無理無理言いながら気合いで作ったんよッ!』



『その気合いで作ったモンがバグったせいでこうなったんじゃんッ!』



『あ、そろそろエクスディカテリアのメンテ時間だわ。じゃ、また』



『くっ、煮えきれない所でッ!』



 沙世との通信が切れると、智香は再び机にゴンッ! と、額をぶつけて「死にたい……」と呟く。



「……ん?」



 ゴトッ、と。


 何やら額をぶつけた以外の音がした。机を動かした音だ。


 智香が顔を上げると、隣の机をくっつけてきた女子が目の前にいた。



「あなた……い、いや! と、智香! あなた信一郎と何があったの!?」



 その女子は椅子にドッカリと座ると、黒髪を跳ねさせながら顔を近づけてくる。



「え? あの、えと……」



 何か答えるべきなのだが、智香は突如やってきた女子の迫力に押されて何も言えない。狼狽えるばかりだった。



「あんた信一郎に何かされたんでしょ!? 怨みとかあるのよね!? だから、朝あんなこと言ったんでしょ!? どんなことされたの!? 信一郎は一体あんたに――あだッ!?」



 いきなり質問しまくってくる女子の頭に、手刀が落ちる。



「こら、驚いてるじゃん」



 その手刀を落としたのは小柄な体格だからか幼く見える、ポニーテールが印象的な女子だった。


 いつの間にかもう一つ机がくっつけられ、手刀した女子が座ると、手に持っていた弁当を広げた。



「名前わかんないよね。私は朝岡妙有(あさおかたゆ)で、このうるさいヤツは野々垣湊(ののがきみなと)。まあ、これから一緒に過ごすクラスメイトだしさ。よろしくやろうよ」



「あ……う、うん! こっちこそよろしく」



 まさか話しかけてくれるクラスメイトがいるとは思わなかった。


 智香は朝の一件で酷いヤツと認識されたと思っていたので、この二人の接近はかなり意外だった。



「あ、智香っちって呼んでいいよね。私のことは妙有でも妙有っちでもなんでもいいから。湊っちも呼び捨てでもなんでもいいよ」



「な、何勝手に決めてんのよッ!」



 妙有はそう言うと湊の口の中に卵焼きを一つ放り込んだ。


 妙有は「あんふぁはいふもそうふぃて~」と、湊から何やら言われても涼しい顔をしている。


 どうやら二人にとって、このやりとりは日常的なモノのようだ。



「で、智香は信一郎と過去に何かあったのよね?」



 湊は卵焼きを飲み込むと咳払いを一つし、改めて智香に聞いてきた。



「え? あ、いや、外崎君とは別に何も……」



「別に何もないのにあんなこと言ったの?」



 湊はグサリと刺す一言を放つ。



「そ、それは……」


 どう答えるべきなのだろう。

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