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魔界の命運は家庭問題に託された  作者: 三浦サイラス
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12話 外崎信一郎という未来の魔王

西綺砂倉高等学校一年二組の教室はいつも以上に騒がしかった。



「どんなヤツか楽しみだな、信一郎」



 窓側の席に座って、厳しい目つきをして外を見ている外崎信一郎と、その隣の席に座っている大野尚志(おおのひさし)の二人も、その例に漏れない。


 今日、このクラスに転校生が来る。そのため、誰もがそれを話題にして盛り上がっているのだ。



「うむ。クラスメイトが増えるというのはそれだけで良いことだ。思い出を共有できる仲間が増えるということなのだからな」



 初夏に入りそうな五月下旬。ゴールデンウィークも終わり、七月まで祝日の無い暗雲とした日々に、とあるニュースがクラスに入って来た。


 四日前、掃除当番をしていた一年二組の生徒が、担任の杉原千鶴(すぎはらちづ)が知らない女子と校長室へ入って行くのを見たのだ。


 それは次の日、朝のホームルームで杉原への質問となった。杉原は「もうバレたのか」とため息をつきながら、その女子を説明した。三日後にやってくる転校生だとクラスに告げたのだ。


 最近目立つ話題が少なかったのもあって、転校生の存在は大いにクラスを盛り上げた。ずっとどんな生徒なのか噂されている。


 誰もがやってくる転校生を心待ちにしていたが、その中でもこの出来事(イベント)に最も胸をときめかせている者がいた。



「新たなクラスメイト。一体どんな女子なのだろうな」



 一年二組の委員長をしている信一郎は、眉間に皺を寄せた難しい顔をして、いつも転校生のことばかり考えていた。


 信一郎の意気込みは半端ない。迎える準備を万全にしようと学校の案内や話題に至るまで、色んなシュミレートをして今日に備えている。いつ何が起ころうと隙のない準備を完了させていた。



「学校初日というのは、頼れる者もいなければ話せる者もいない状況。一番孤独を感じる時間だ。だからこそ、委員長である僕がしっかりと転校生をエスコートし、その孤独を取り除いてあげねばならん。誰とも話せず、路頭に迷い、寂しくて死んでしまうウサギのような状況は絶対に避けなくてはならない」



 信一郎は綺砂倉町が好きだ。この好きである気持ちは綺砂倉町に住む人達が暖かいからこそ抱けるのだと思っている。人々が気遣え、優しく、暖かいからこそ、町は育っていけるのだ。


 それは学校にも言えるし、当然クラスにも言える。


 なので、信一郎は世話をすることが好きだった。委員長になっているのはそのためで、自分の信念をクラスへ伝えられる役職だと思ったのだ。


 その思いは伝わっているのか、クラスの信一郎人気は高い。頼れる存在であり、困ったことがあればいつも助けてくれると、男子からも女子からも評判が良かった。



「まず僕がクラスと打ち解けるきっかけとならなければ。これは責任重大だ。転校生の運命は僕が握っているようなものだ」



「いつものことだが、信一郎が言うと大袈裟に聞こえるな……」



 尚志はやや呆れ気味にため息をつく。



「大袈裟なものか。僕は転校生が充実した学校生活を送れる手伝いがしたい。そう思っているだけだ」



「ハハハ。お前はそういうヤツだもんな」



 尚志は高校で最初に知り合った信一郎の友人だ。席が隣なので、自然と話すようになったのがきっかけである。


 尚志は背が高く、目尻が下がって不機嫌に見られがちな外見のせいで不良と思わやすい。入学当初は怖がられ、誰も近寄ろうとしなかったが、信一郎は例外だった。


 信一郎は初対面の尚志に「大野! 今日からよろしく!」と握手を求めてきた。とても断ることなどできないキラキラした顔だったため、尚志は驚き照れながら信一郎と握手した。それからは信一郎を通じて尚志がクラスに理解されはじめ、今では尚志を怖がる者はいない。


 それどころか見た目が不良の尚志と、眉間に皺を寄せつつ堂々としている真面目委員長の信一郎の二人にはギャップがあり、一部女子の間で大変人気だ。当の本人達が知る由もないが、その女子達の間で尚志と信一郎は――なやり取りがされているとかいないとか。


 どの世界でもどの時代でも、美男や美女と呼ばれる存在は大人気(?)なのである。



「無茶しなきゃそれでいいさ。そうでなくとも、お前は誤解されやすいんだから」



「……気をつけようと思ってはいるんだがな。どうも、考えより行動が先に出てしまう」



 時計が始業の時刻を指そうとしている。そろそろ、担任教師がやってくる時間だ。生徒達が疎らに自分の席へと戻っていく。



「おっと、時間だな」



 尚志が自分の席に座ると同時に扉が開き、担任の杉原が入ってきた。


 だが、クラスの視線は誰も杉原を見ていあい。その後ろにいる噂の転校生に向けられていた。



「こりゃクラスの競争率高そうだなぁ」



「かもしれん」



 尚志と信一郎は転校生を見た素直な感想を呟く。


 肩まで切り揃えられた艶やかな黒髪は窓から入ってくる風に靡いており、きめ細やかな白い肌と、ゆったりと歩く清楚な佇まい。その姿に男子達は感嘆の声を漏らした。


 その声に驚いたのか恥ずかしがったのか、転校生はほんのり頬を紅潮させ俯く。その動作が更に男子達のハートを掴み、一層視線が釘付けにされた。


 鞄に下げている目つきの悪い小鳥のぬいぐるみを揺らしながら、転校生は杉原の隣に立つ。



「今週中に誰か転校生に告白するな。賭けてもいいぞ」



「ロクに友情を育んでもいないのに告白する思考は意味不明だが、僕も尚志の言う通りな気がしている」



 恋愛事にあまり興味を持っていない信一郎だったが、教壇のそばに立つ転校生が綺麗で可愛い女子なのは理解できる。第一印象で全てを決めるわけにはいかないが、少なくとも男子からの人気は間違い無く高そうに思えた。



「じゃ、伝達事項の前に言う事がある。コイツがみんなお待ちかねの転校生だ。じゃ、自己紹介よろしくな」



 杉原はポンと背中を押して転校生を教壇の前へ立たせた。



「ほら、サラッと何か言う感じで」



 固い表情を解そうとしているのだろう。杉原はリラックスしろというように、ニカッと転校生に笑って見せた。

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