最終話「これから始まる未来」
それから更に3か月。
「どうかな、変じゃない?」
私はイゾルデとシュテファニエの前で、新しい衣装を見せる。
ハイウェストで黒革製のズボンに白のブラウス、そして藍のマント。
以前なら異性装と言われていたが、もはや異端の魔女と扱われてる現在、気にしないで好きな格好をする事にした。
「と、とっても素敵です」
「異性装なんてはしたないですわ……でも今日は見逃してあげます」
「そんな事言って、明日も見逃すんじゃないですか?」
「それは明日になってみないと分からない事ですの」
等と、二人らしい感想の言い合いをしている。
「じゃあ早速行こうか」
今日は新しい魔道具の試運転。しかも、それは帝都内ではとてもじゃないが扱えくてとても大きいピーキーな代物。
私は二人を連れて帝都郊外までやってきた。なだらかな平原は、実験には持って来いの場所だ。
「こちらです、アリサ」
待ち合わせ場所にはルストフェルトとバルドゥインの姿もあって、麻布に覆い隠された新型魔道具の傍で手招きする。
「ありがとうございます。バルドゥインに任せて良かった」
彼じゃなきゃとてもじゃないがここまで運べなかっただろう。
「全員集まったところで、さっそくお披露目と行きましょうか」
私は堪え切れず、麻布に手をかけてそれを剥がす。
そこには――大きなタイヤの車があった。
まだ屋根とかを作れていない本当にフレームだけのオープンカーだけど、ちゃんと内燃機関で動いてタイヤで走る、正真正銘の車だ。
前2シート、後ろ3人乗り。ちょうどここに居る全員が乗れる。
「では出発します」
エンジンを始動し、心地良いエキゾーストサウンドを立てる。
「わぁ、楽しみです!」
助手席にはイゾルデ、後部座席にはシュテファニエ、ルストフェルト、バルドゥインの3人を乗せて、私は一速に入れる。
「う、動き出した……!」
ルストフェルトが思わず声をあげる。この世界の人間にとって車というものは初めての存在だ。動揺するのも無理はない。
「どんどん行きますよ~」
私は加速しながら、2速、3速とギアを上げていく。
「はやいはや~い!」
「アリサ~! もっとアクセル踏んでくださらな~い!?」
アトラクションでも乗っているかの様にはしゃぐ女性陣二人に対して……
「もっとゆっくりしてくれませんか!?」
「まだ速くなるんですか!? とっくに馬より速いですよ!?」
男性陣はフレームにしがみついて、顔が青ざめている。
「はい、6速~!」
時速80km/hを超えた瞬間、わずかな高台を乗り上げて数瞬の飛翔を始める。
エキゾーストサウンド、女性陣の歓声、男性陣の悲鳴。
それを耳にしながら、私はこの世界の未来に想い馳せて、更にアクセルを踏み込んだ。




