しろ
あれから一週間が経った。
時間が経つのは本当に早い、昨日月曜日だったと思ったのにもう今日は金曜日だ、そんなことが多々ある。
その間みつは目を覚ますことはなかった。
ずっと目を閉じ死んだかのようにベッドで横になっていた。
途中心配になって部屋に行った。
「本当に」女の子だったんだね…。」
僕はゆっくり人差し指でみつの唇をなぞった。
彼女の唇はやわらかく程よい紅色だった。
そして僕は少しずれていた毛布を掛けなおしてあげて退室した。
そしてそれから三日が経ちみつは目を覚ましてきた。
裸体のままで寝ぼけた顔でリビングルームに入ってきた。
その時少し驚いた。
こういうのは初めてだったのですぐにクローゼットから服を取り出し着せてあげた。
お腹空いているだろうと思い簡単にできる目玉焼きとパン、コーヒーを準備させた。
みつはボーっと部屋の隅を見つめ待っており、まだ寝ぼけているようだった。
それらはすぐに完成した。
久しぶりにみつにご飯を作ってあげた、少しジーンと来て泣きそうになるも我慢する。
だって10日間目を覚まさなかったんだよ、心配になる。
感性に任せ抱き着こうとしたがそれはやめた。
今のみつの性別は男ではなく女だからだ。
みつは箸を使いまずは目玉焼きから食べ始めた。
ツンツンと黄身の部分をつつき中の半熟な黄身を取り出し白身と一緒に口の中に運んだ。
うんうんと頷きながらおいしそうに食べていた。
その様子を見るにみつ自体は変わっていなさそうだった。
しいて言うのなら髪の毛がwizardの時と同じで真っ白だったことだ。
先ほどから窓から差し込む光がみつの髪の毛に反射し美しく光っていた。
よくストレスをためると白髪が増えると聞くがそれとは違うと思う。
それ以外の別の何かだ。
そうこう考えているうちにみつはすべてを食べ終わっていた。
それに気付けたのは彼女が手を合わせ「ごちそうさまでした」といったからだった。
それまで僕はずっと考えていた。
「うん。ありがと」
彼女は僕に視線を向けたまま少し微笑んだ。
目が覚めあの事を思い出したのかその微笑みは嬉しそうに見えたがその裏腹に少し悲しそうだった。
それを見た僕は胸が苦しくなり思わず謝った。
「ごめん。みつ、ごめん」
みつはぽかーんとした表情でこちらを見ていた。
僕は目をそらしうつむいた。罪悪感と恥ずかしさ交じりの変な感情のせいだった。
「何が?」
「いや、みつの事を病ませてしまった。」
「私が勝手に病んだだけだよ」
みつはやはり女の子なのだ。
いつもの頑張って声を低くさせ男の子ぶってるのと違い今は透き通り上品な声質だった。
上品と言っても大人びた感じはなくまだあどけなさが残っている、そんな感じだった。
「みつ」
「どうしたの?」
「僕の事好きだよね…?」
「うん」
「みつは僕に何を望んでいるの?」
彼女は表情を変えることなく視線を僕からずらした。
手を顎に添え考えているような仕草をした。
少し時間が経つと手を膝元に置いた。
不安そうな表情を浮かべ再び表情を僕へと移した。
「別に。何もしなくていいよ。」
「それは本音?」
「うん、本音…。」
それは絶対に本音ではない。
僕はわかる、今まで一緒に過ごしてきた僕らだ、わからないと思ったら困る。
できるだけの事をしてあげたい、だから何度も問う。
「嘘だよね。わかるよ、信じてよ。」
「わかった。私を恋人として愛してよ。」
案の定そのような内容だった。
「わかった。」
「え、いいの?」
少し大きく目を見開き驚いた様子でこちらを見ていた。
「その代り子のことは雪に内緒だよ?これはもうしょうがない。僕が悪かった。だからちゃんと責任取る」
変な発想だった。
自分でも何を言っているのかわからなかった。
でもこれしか方法はないと思う。
みんな幸せになる。
何とも難しいものだ。
「それはいけないよ。」
「愛してほしいんだよね?ならこれしか方法はないともう、」
僕はその言葉を吐き捨てるように言った。
全く、
「どっちなん?どちらがいいん?付き合いたいん?このままでいいん?」
「そのままはやだ。でもそれもやだ。」
「…」
何も考えが浮かばず黙り込んでしまう。
物事を考えるが何も浮かばず何度も同じことを連想してしまう。
手を頭の後ろに当て悩む。
悩み、悩み、悩む。
「もう私はいいから。」
その言葉を残し、みつは立った。
椅子に掛けられていた上着を着てそのまま家から出て行ってしまった。
僕はこの沈黙に耐えられず伏した。
「あああ…。wizardってなんなんだ…。」
僕は誰をどのように愛し、誰に愛されてるんだ…?
このどうにもできない喪失感を抱えながら食器洗いを始めた。
なにも考えずに家をでてきてしまった。
行くあてもなくむやみに歩く。
道端に落ちている石を蹴りながらこれからの目的を考える。
なんであんなこと言ってしまったのだろう。
二人を応援する事を決心したのに…。
なんでこう私はあやふやなのだ…。
「あはは…。」
笑いながらその石を強く蹴り飛ばした。
その行先を確認しようと顔を上にあげた。
「あ、雪ちゃん…。」
視線の先にには雪ちゃんがいた。
いつもと変わらないお気に入りの服を着こなし片手にコンビニの袋を持って歩いていた。
とても気まずい。
私は目を合わせたくないので目をそらした。
俯きなるべく自分の顔が見えないようにした。
どんどんと距離が近づく。
10メートル。
8メートル。
5メートル。
2メートル。
1メートル。
「みつちゃん」
気付かれた。
話しかけられた。
私は少し悔しくなり涙目になる。
話しかけられたからには返事をしなければならない。
しぶしぶ思い頭を上げ、雪ちゃんと視線を合わす。
「雪ちゃん、どうしたの?」
「今から拓馬君の家に行くんだけど、みつちゃんもどう?」
その慣れ慣れしさには腹が立った。
今の接し方は男の子の時の接し方ではなく女の子の接し方だったからだ。
「私は良い。今から行く場所があるから。」
冷たく接した。
冷たく接する事しかできなかった。
ともかく息苦しい。
いち早くこの場所から抜け出すために私は走り出した。
今はもう誰とも話したくない。
しばらく走り続け私は誰もいない過疎化した公園にたどり着いた。
ここでなら人に会わなくて済むと安堵の思いでベンチへとふらふらと尻をついた。
だらんと手足を置き、棚におかれている人形のような感じでしばらく過ごした。
考えることはない。
今はただ私たちの関係がよくなることを祈るばかりだった。
「みつ。大丈夫?」
しばらくして声が聞こえた。
それに耳が反応して目が覚めた。
どうやらあのまま眠っていたらしい。
あわてて体を起こし、食い涎を拭く。
こんな恥ずかしい姿を見られたのかと少し顔が赤くなった。
それにしてもなんでここに?
「拓馬…?」
「どうした?それにしてもまた昼寝?よく寝るね。」
「いじらないでよw」
私はようやく笑顔を取り戻した。
「ごめんごめん。それと今日の晩御飯は僕特製の男飯だよ」
そういって拓馬は手を差し伸べてくれた。
その手を握り引張ってもらい立ち上がる。
「みつ」
その高くも低さの心地よい声で話しかけられた。
なにかようなのかな。
「なに?」
「僕雪と別れた。」
私の時間が一瞬止まった。
物事を考えるも自分の思考は追いつかない。
なんで別れたの?
「え?」
一言で状況が理解出来ていないことを伝えた。
「いや、いいんだ。そんな関係だとみつが苦しいだろ?」
笑顔交じりの真顔でそういった。
彼の目を見るとそれは私のための嘘ではないことが分かった。
「私が苦しいから、わかれた?」
「そう。別れた。あちらもちゃんと了承してくれた。」
私は彼の頬を思いっきり叩いた。
バチンという音が彼から鳴った。
「ばかじゃないの!?私が苦しいから?雪ちゃんの方がもっと苦しいよ!なになになに?何がしたいの!?ばかばかばかばか!何がwizardだ!病んでいるやつみんな死んじまえ!!」
私は不満をすべて拓馬に向かって吐き出した。
その間まったく口が止まらなかった。
いいつぃことをすべて言い終ると不思議と涙が出てきた。
口の次は涙。
涙も止まることはなかった。
そういう拓馬は何もせず悲しい表情を浮かべ私を見下ろしていた。
「はあはあ…。なんだよ、こんなゴミ人間の事なんておいてどっか行けよ…。」
震えた声で何とかそう話した。
もう本当に嫌なのだ。
消えてなくなりたい。
気持ちが悪い、気持ちが悪い。
自分に対して吐き気がする。
「みつ、落ち着けって」
私の事を慰めようと近づこうとしてくる拓馬を払いのけた。
「なんにも知らないくせに!知ろうとしない癖に!近づかないで!この変態!」
良いことがなくなり罵声を浴びせる。
次々に思いつく言葉、自分に対しての不満も混ぜつつすべて浴びせた。
拓馬の表情はどんどん険しくなりとうとうは黙りこんでしまった。
それについても文句をいう。
「何黙ってんだよ!?お前は男だろ!黙ってんじゃねえよ!言い返してみろよ!」
「みつ。」
「下の名前で呼び捨てしてんじゃねえ、きもいんだよ!死ね死ね死ね!お前なんか消えちまえ!この社会不適合者め!お前なんて助けなければよかった、見殺しにすればよかった!」
「みつ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!声なんて聴きたくない!静かにしてよ!」
「みつ!!」
「なに!?お前のこ…!」
ギュッと抱きしめられた。
私が言いかけていた言葉はすべてその瞬間に無くなっていった。
全身が花びらに包まれるような感じに襲われる。
でもひとつだけ言えることがある。
それは、それは。
わからない。
でも安心する。
拓馬の暖かさ、柔らかさ、その全てが愛しかった。
続いて私も抱き返す。
愛しい、愛しい。
ただただ愛しい。
ギュウと強く締める。
「僕と付き合ってくれ。」
「そんなのダメだよ…。」
「いやなのか?」
「そうじゃなくて…。」
「なら、付き合おう。」
「うん…。」
「「よろしくお願いします」」
拓馬の胸翳していた顔を上にあげ、目を合わす。
自然と互いの口が近くなる。
「はい、ストーップ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
一瞬にして脳が危険信号を出した。
そこにいたのは山下だった。
あわててその姿勢を解除し、バッチを付ける。
拓馬はすぐにwizardになって戦う構えを決めた。
一方私の方だけど、wizardに変身できなかった。
胸元につけたバッチはポロポロと崩れ落ち、空気へと姿を変えていった。
「みつ!?逃げるよ!」
私を担ぎ逃げようとするも山下の能力が発動する。
「待ってよ、攻撃はしないからさ」
そういうとすぐに時間は動き出した。
「なんだよ?僕らはお前らの変な宗教なんかに入らないよ!」
「はあ…、君は人の話を聞くことができないのかい?」
「聞ける!」
「なら静かに聞け。それにお前には用はない。」
「は?」
「みつさんに用がある。」




