あい
今日は二日に一回の雪とwizardを倒しに行く日だ。
最近の雪の病みは収まりwizardの効果が切れても少し暗くなる程度の事だけで済むようになっていた。
まあそんなこんなで一応ということで倒しに行くのだ。
といっても今日のはいつもとは違った。
僕らが付き合って初めて倒しに行く日。
少し初々しく照れ臭い。
待ち合わせのあの駅で僕は心をウキウキさせながら待っていた。
しばらくすると雪が来た。
息を少し荒がせ、走ってきた。
「そんなに急いでどうしたの?」
「寝坊したからさ、はあはあ…。」
「別に急がなくてもよかったのに。」
軽い話を終わらせ胸にバッチを付ける。
今更気づいたんだけど多分wizardの格好ってお気に入りの服で変わるんだと思う。
そんなことはどうでもいい。
無駄に露出が大いその格好についつい見とれてしまう。
思春期あるあるだね。
全く男は本当に汚らわしい生き物だ、自分でもそう思うよ。
流石にしばらく凝視していたらばれる。
「目つぶしするよ?私だってこの格好ちょっと恥ずかしいよ。だからみないでよ」
彼女は顔を赤くしてそういった。
それがまたたまr…なんでもないです。
最近クラミティは増えつつある。
だから1、2キロ位飛んだらすぐに見つかるようになった。
これもあいつらの仕業だろう。
意外に順調に計画が進んでいるのだろう。
今日倒すクラミティは子供の遊ぶロボットのようなものだった。
体は大きく、おもちゃのくせに威圧感があった。
ドリルの両手を回転させながら襲ってきた。
これはやばいんじゃないのか!?
と思ったが雪と僕は軽々しく倒した。
やばいのは見た目だけであった。
「ねえ、この後どこか行く?」
雪がそう提案してきた。
言われてみれば僕らは付き合ってからまだデートに行ったことがなかった。
「うん。行きたい」
僕は即答した。
そりゃもちろん行くしかない。
行くしかないのだ。
「じゃあこの間さ、少しだけ話題に出したスターファッククスに行かない?」
「あー、あれね。ぜひ行きたいな。」
「よし決まり!」
僕らはそのままの格好、つまりはwizardの格好でそこまで向かうことにした。
少しでも安く済ませようという僕らの素晴らしい精神だ。
「拓馬君勝負しよ、じゃあゴールはすスタファね。」
そういわれたのは僕がぼーっと雪に見とれていた時だった。
しかもこんなよくあるずるい方法、いつ覚えたんだ?
僕はあわてて体制を変えた。
その時はもう遅く雪は結構遠くまで飛んでいた。
「そんなのありかよ…。僕スターファックスの位置すらわかんないよ…。」
文句を言いつつも僕は笑顔だった。
「待ってよー!」
大声で叫んだ。
雪は振り帰りいたずら的な笑顔で手をふってきた。
しかし止まる様子はない。
いくら最近強くなったといってもそんなにはスピードは出ない。
少しいじけて下を見ながら飛んでいた、
ふと上を見上げるとそこには雪はいなかった。
「なんだ、もう着いたのか。これは罰ゲームとして何かを奢らされるな。」
近くにあるのだろうと僕は少し上昇しあたりを見回すが雪の姿どころかスタファもない。
どういうことだ?
僕はあたりを散策した。
しかしそれらの姿はなかった。
あー、これは悪戯か。
全く趣味が悪いな。
少し経ったが出てくる気配はない。
ゴワッ
そう後ろから空気の掠れる音がした。
反射で振り向くとそこには雪の姿があった。
「なんだ、そうい…!」
目を大きく見開きその状況を理解した。
雪がぼこぼこにされ、女のwizardに担がれていたのだ。
ただのwizardではないあの厄介なクラミティ化している者だった。
にやりと薄気味の悪い笑顔を浮かべこちらをのぞきこんでいた。
皮膚は黒く染まり包帯ぐるぐる巻きの状態だった。
「だいすき」
そう発したのは雪でも、僕でもない。
クラミティ化しているwizardだった。
僕が不思議そうにうかがっていると雪を再び地面に打ち付けようと抛り投げた。
激しく降下する雪を担ぎ氷を発生させ足止めをする。
案の定それを喰らい少し動きが鈍くなる。
戦ってはあいつに殺されてしまう。
腹立たしいが僕は気持ちを抑え先ほどより早く空を飛ぶ。
「雪、大丈夫?目を覚まして。」
そうやって揺さぶると微かに唇が動いた。
「おきて!早く」
再び揺さぶり意識を戻そうとする。
そんな時気づいた、そいつは間隣にいたのだ。
雪をかばう形で急いで攻撃を防いだ。
雪をしっかりと担ぎ、落とさないように気を付ける。
痛い、痛いけど我慢だ。
氷の刃を何本も打ち相手の皮膚を削る。
だめだ。
彼奴はずっと「すき」「だいすき」という言葉を漏らしながら暴れ狂う。
「雪!頼むから起きて」
何度も迫りくる攻撃に氷の盾を生成し、防ぐ。
防いで、逃げる。防いで、逃げる。
この繰り返しだった。
こんな時にみつがいれば…。
考える余裕は全然ないのにそんなことを考えた。
とうとう僕の体力切れでガッツリつかまれてしまった。
「!?」
僕はあることに気付いた。
そこにいたのはみつだった。
みつ…。
ああ、そういうことだったのか。
僕はそのことに気付いてしまった。
何気なく接してたあの日常。
悔やみきれない。
「みつ!ごめんよ!」
僕は思わず涙した。
その胸を見るにおそらくみつは女だったのだ。
何かがきっかけで男として生きていたのだろう。
でもそんな時に僕が現れ、接してくうちに僕の事を好きになった。
それを明かすことも、相談することもできず一人で悩んでいたのだろう。
なんてことをしてしまったんだ。
僕は…。
本当に取り柄がないな…。
自我が失われつつある、みつ。
僕は戦うことに躊躇してしまった。
いまの攻撃だってかわせたはずなのに僕は交わさなかった。
もっと詳しく言うとそんな気力がなかったのだ。
急に浮かぶ喪失感と申し訳のなさ。
あんなに僕の事を気遣ってくれたのに自分は何も気にしてあげれなかった。
情けない…。
攻撃を避けず、雪を守りながら謝る。
「ごめんごめんごめんごめん」
しかしみつに伝わるはずなくその包帯のようなのを鋭利の刃物のように形を変え何度もついてくる。
意識を失おうとするも痛さで目が覚める。
「りいいいふ…!」
その瞬間僕の周りで葉が発生した。
何枚もの鋭い葉がみつに向かって刺さる。
「拓馬君目が覚めた…。」
ふらつきながら僕の手から離れていく。
「雪…。このwizardはみつだ。クラミティ化しているみつ…。」
そのことを告げると雪は驚いたようにして攻撃をやめた。
「みつちゃんが…。」
「ねえ、雪」
僕らは攻撃をかわしたり防いだりしながら会話を続けた。
「僕がクラミティ化した時ってどうやって対処した?」
「私が抱き着いた。」
僕は思わずふいた。
「わかった。やってみる」
僕はみつの動きを雪にとめてもらいゆっくり抱き着いた。
優しく包み込んだ。
「ごめんね、みつ。ごめんね…。」
泣きながらゆっくり伝えた。
今まで体験した楽しかった事、苦しかったこと、僕がみつにしてきた悪かった事。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
悍ましい声とともに黒い皮膚が剥がれ落ちていく。
綺麗にすべて皮膚がはげ、不気味な包帯がほどけていく。
中からは笑っているみつが出てきた。
みつは普段細めている目パチリとあけこちらを見ていた。
裸体のみつを見るとやはり女なんだなと思った。
あった時から少し違和感はあった。
僕が起きた部屋はいかにも女の子っぽい部屋だったし。
お風呂に誘っても顔を真っ赤にして誤魔化すし。
声はごまかしたようなものだった。
仕草も時々女の子っぽくて。
これだけの違和感があってもなおきづいてあげれなかった僕は最低だ。
最悪だ。
最も悪い。
「いままで気付かなくてごめん。みつ…。」
再び強く抱きしめる。
じかにみつの暖かさを感じる。
暖かい。
「遅いよ。まったく拓馬は意地悪なんだから…。」
いつもの作り声ではなく地声でそう答えてくれた。
「ごめん、ごめん…。どうしても拓馬の事がすきで…。雪ちゃんを殺したかった。だから私は依存してしまった…。」
涙を浮かべ謝る。
不思議な感覚だった。
もう誰が悪くて、悪くないのかが僕の頭では理解できなかった。
雪もすっかり黙りこみ複雑な眼差しで僕らを見ていた。
多分今の僕らに嫉妬というものはわかなかっただろう。
「みつ。僕らの家に帰ろう。もう大丈夫だから。」
雪にそう目で伝えた。
彼女はそのことをすぐに理解してくれ静かに帰って行ってくれた。
やっぱり優しいんだな。
ずっと僕に頭を伏せみつは泣いていた。
僕はそっと彼女の頭を撫で、包み込んであげた。
「ねえ。拓馬」
「なに、どうした?具合が悪いか?」
普段より、優しく聞いた。
「私と付き合ってください。」
泣きながら震えた声でそういってきた。
少し胸が苦しくなった。
どう答えたらいいか分からなかった。
先ほどでも感じたことだがその傷は愛でしか癒せれない。
その愛の元凶である僕。
難しい。
申し訳なくて再び泣いた。
何も言うことはできずただ泣くことしかできなかった。
「拓馬、ごめん…。私が悪い。私が好きにならなければよかったのに。拓馬まで傷つけてしまった。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん…。」
「僕こそ、ごめん。何もしてあげる事ができない。」
強く抱きしめる。
頭をみつにくっつけは泣き顔を見せずにした。
「でも、愛している。家族として愛してる。」
それしか言えなかった。
最早言い訳でしかなかった。
「ありがとう。拓馬、大好きだよ。大好き。愛してる。」
みつはその言葉に喜んでいたが僕は悲しかった。
だからもうそれ以上何も言わなかった。




