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悩み

やけに激しく鼓動する心臓を押え僕はその瞬間まで待っていた。

その緊張を何とかして殺すため窓の外を見た。

窓からは運動場が見え生徒がそれぞれの部活へと練習を励んでいた。

少しオレンジ掛かった彼らの姿は恰好よくも滑稽に思えた。

しばらくそれらを見つめていると不思議と心拍数はいつの間にか落ち着いていた。

僕がなぜこんなに緊張しているかと言うとそれは今日が大切な日だからだ。

いや、わからないもしかすると大切な日ではなく最低で最悪な日になるかもしれない。

そう考えるとまた少し緊張していく。

普段あまり緊張などしないので今途轍もない眩暈がした。

視界が右回りにゆっくりと回っていく、自分が立っているのかが分からなくなる。

「拓馬君、大事な話って何?」

カバンとナップサックを持った伊藤がゆっくりと会談を下ってきた。

逆光であまり表情を伺うことはできなかったが彼女もおそらく少し緊張していただろう。

この空間で少々の緊張感が走った。

両手をギュッと固く握り少し睨むような感じで伊藤の方を見た。

伊東もそれにこたえるかのように顔をきりっとさせた。

こういう時に限って僕の勇気は出ない。

でも流石に長い沈黙は空気が重くなってしまうのでとりあえず何か喋ることにした。

「そういえばさ…」

やばい、ネタが出てこない。

そこで再び沈黙が始まる。

「ええと…。僕が呼び出した理由はね」

少し照れ臭かったので手を首の後ろに回すしぐさをした。

「うん」

少しそらした視線を再び伊藤の方に戻す。

自分がへらへらしてることに気付きぴんと改めた。

「僕と…」

あと少し、あとすこしで出るのに。

この感覚は自殺しそうになった時と同じだなと思った。

なにせどちらにも勇気が必要なのだから。

でも男として情けない。

僕は成長したんだ。

よしいうぞ。

伊藤にばれないくらいの大きさの深呼吸をして精神を整える。

「よし。伊藤」

「はい?」

「僕と付き合ってくれ。」

僕はその言葉をひょいっと投げたように言った。

伊藤は一瞬動きを止めた。

が、すぐに動きだした。

「え、ああ。」

そのリアクションに対し少し焦る。

もしかして振られるパターンなのではと思った。

「え、えとね」

伊藤が少しもぞもぞしながら話始めた。

「う、うん」

「私でよければ、よろしくお願いします?」

彼女は少し赤くなりながら戸惑いつつ僕にそういってきた。

しばらく僕はその言葉の意味ができなかった。

初めてだからしょうがない。

「え、拓馬君これ冗談じゃないよね…?」

「あ、え、あうん」

「ええ、なにその返事w」

「よろしくお願いします!」

やっと言葉が理解できたのだ。

僕の告白に対し伊藤はОKを出したのだ。

嬉しさに伊藤に抱き着いた。

二つの腕を使って力強く抱きしめた。

「拓馬君いたいよw」

「ああ、ごめんごめんwつい嬉しくなって」

僕は固く締めていた腕を急いで外し解放してあげた。

数秒の間だったけどわずかに熱が残っていた。

これが人の暖かさ。

本来僕がうけるべきだった人間の愛情。

今からでも遅くない彼女に愛されよう。

互いに互いの傷を舐めあってwizardに頼らずに生きていけるまでになろう。

「えーと。あのさ」

「なになに?」

すごく初々しくて発する言葉全てが不思議な風に感じた。

もちろん聞くこともだ。

「僕今まで伊藤の事伊藤って呼んでたじゃん」

「うんうん」

彼女はまだ赤かった。

照れ臭いけど頑張って僕を見ている。

そんな感じだった。

「今日付き合った事だし「雪」って呼んでいい?」

「あ、うん!そっちの方が親しみやすくていい!!」

「じゃあ決まりだね!えーと、ゆ、き?雪!」

「はい!」

そんなこんなで僕らは付き合うことになった。

もともと親しかったお蔭かあまり普段と変わらなかった。

「じゃあ話の区切りの良いところで私は部活に行くね」

「うん。気をつけろよ」

少し彼氏ぶってみた。

まあ彼氏なんだけどね。

こういうやり取りは大切にしないといけないと思うのでこれからバシバシしていこうと思う。

初めてできた彼女だ。

大切にしようと心に刻んだ。

「ありがとう。じゃあね」

「うん、じゃあね」

それからそれぞれ分かれた。

僕は部活に入っていないのでそのまま家に帰る事にした。

履いていたスリッパを靴箱に片づけ土足を取り出す。

少しウキウキした気分で土足を履き、そのままガッツポーズ。

一人の時じゃないとできない行為だ。

そのテンションで家に帰宅した。

靴を見る限りやはりいつもの通りみつが先に帰っていた。

「ただいまああああああああ!」

僕は大きな声で叫んだ。

お腹の底から湧き出るこの興奮を声で大いに露わにしたのだ。

「お帰り~!」

この僕の高テンションの挨拶をあちらも大きな声で返してくれた。

顔いっぱいの笑みを浮かべみつの部屋へと向かった。

「ただいまっ!」

「お帰りっ、どうしたの~何かいい事あったの~?」

みつはいつもの笑顔でそう聞いてきてくれた。

都合がいい僕もそのことについて説明しようとしていたのだ。

「聞いて驚くなよ!」

「この俺が驚く話か~楽しみだね」

みつは僕のためにしていたスマホゲームをやめしっかりと話を聞く姿勢を見せてくれた。

僕はその姿勢にこたえようとその事について簡単に話始めた。

「今日から雪と付き合うことになりました!」

僕は手をぱちぱちし高テンションな様をみつに見せつけた。

「あ、ええ。」

少し悲しそうな表情を見せた。

が、すぐにいつもの笑顔で応答してくれた。

「そっか~。いつか付き合うと思ってたよ~。おめでと」

彼もぱちぱちと手を叩き祝ってくれた。

彼の今さっきの表情から察するに僕と同じく雪の事が好きだったのだろう。

少し悪いことをしてしまった。

僕はそれらを踏まえ反省し大人しく退出することにした。

「じゃあ、これで」

「うん。お幸せに~」







僕はこんなに幸せでいいのだろうか?

きっとだめだろう。

あれから狂いクラミティになっていった人たちを何十人とほったらかしていた。

理性をなくしたのにも関わらず自分の苦しみを叫び暴れまわりどんどん形を変えていく者を見てきた。

恐ろしく毎日夢に出ていく。

どうにかしたい。

助けてやりたい。

でも無理だ、助けてたら僕らが殺されてしまう。

このままじゃあ人としての理性が壊れてしまう。

いいんだよね?

僕はそのままでいいんだよね…?

自問するが答えは帰ってこない。

怖い…。

僕は頭を抱えた。

みつに相談しようと思ったこともあったが話しづらい。

彼奴自身もそれに対し恐怖を抱いていた。

ダメだな僕は…。

無駄な事、気にしないでいいものを考えてしまう。

wizardって一体なんなのだ…?

人を元気にするもの?

不幸にするもの?

そもそもだれがこんなものを作り上げたんだ?

なんのために存在する?

色んなwizardを見てきたがそれぞれ使い道が違った。

もしかしてこれはダメなもの?

常人からしたら麻薬みたいなものなのか?

誰か教えてくれよ。



 僕は再びみつの部屋に訪れた。

「何度もきてどうしたの~?」

「いや…、あのさみつ」

「なーに?」

「みつって誰にwizardにしてもらったの?」

みつは少し悩んで、何かを悟ったかのように話始めた。

「あーそういうことね。俺は下岡という人にwizardにしてもらったんだ~。残念ながら誰が最初に始めたのかも、あの子らが誰を信仰しているのかわからないな~」

流石みつだ。

僕が聞こうとしたことをすべて言い当てた。

が、しかし大した情報は手に入らなかった。

「拓馬~。君が優しいのは俺は知ってる。でもね時には頭を突っ込んではいけないことがあるんだよ~。だからもし何かするならそれはやめてね。下岡みたいになくしたくないからさ。」

多くの時間を過ごした僕ら。

どちらかが欠けると僕らは形をなさない。

まさしくその通りだ。

僕は完違いしていたのだ。

全てを抱え込みすぎたのだ。

「ありがとう、みつのお蔭で悩みが消えたよ」

「いえいえ~僕ら相棒でしょ~?気にすんな~」

「うん!ありがとう!」

僕は部屋を出て自室に戻った。

雪にlimeを送る。

僕は日常に戻った。

メリーバッドエンドでもいいんだ。

「雪、好きだよ」


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