おっさんって人間だったのか?
死ななかったな?
「そんなにヤバいの?」
「おっさんが一回に流す魔力量をバケツ一杯とするだろ?」
「はい」
「シルの魔力量はお風呂サイズだから全体量と比較するとバケツ一杯を耐えられる。でもな、ゴン太の魔力量はお猪口サイズだ。簡単に許容量をオーバーして吐いちまう。あれは魔力を外に出すために吐くんだが、吐き切れなかった分は肉体を内側から引き裂く。最悪の場合は爆死だ」
「「…………」」
俺とゴンザスが思わず顔を見合わせた。
二〇〇回生還しても、二〇一回目で爆死する事だって充分にあり得る。
危険な橋を渡ったもんだな。
「普通はもっと低濃度の魔力で何ヶ月もかけて体に馴染ませたり、吐き気が来たらすぐに魔力を流すのをやめるんだよ。一度でも目眩を起こして吐く体験をしたら、魔力酔いの辛さに耐えかねて心が折れちまうんだ」
「…………」
「どうせおっさんは手加減をしないだろ。オレの角を触る時みたいに、一気に魔力を押し込んだりしなかったか?」
「……しました」
「おっさんはゴン太に無茶をさせ過ぎだ」
「ゴンザス、すまん!」
俺は素直に頭を下げて謝った。
全面的に俺が悪い。
「アニキ、頼んだのは俺なんですから、謝らないでください」
「無知は罪だな……。ゴンザスの魔力量はどのくらいになりそう? 七〇は超えたかな?」
シルは一日平均一〇ちょっとしか伸びない。
スタートが低すぎるけど、ゴンザスも同じぐらい伸びてくれれば御の字。
シルとゴンザスでは種族が違うし、参考にはならん。そこまで期待するのも酷か?
「七〇なぁ。あんな無茶な特訓で七〇しか上がってなかったら、それこそ誰も命をかけてやらねーわ。きっとオレより多いんじゃないか? いくら魔力量が飛躍的に増えようが、オレは絶対に真似しないけどな」
「「…………」」
魔族の中でも能力『魔術』に選ばれた最高峰のマキナより一週間前まで魔力七だった前衛のゴンザスの方が魔力量が多い?
「おっさんはこんな改造人間を作ってゴン太を魔族領に送り込むなよ? オレが直々に出向いてゴン太と魔法対決しなくちゃいけなくなる」
「「…………」」
ゴンザスは今や改造人間か。
あと一歩で人間の枠から外れるな。
俺はギリギリ崖に指をかけて耐えている。俺が先か、ゴンザスが先か。ステータスの種族欄は、いつでも俺の味方だ。
「あとゴン太はまだ魔法適正がそこまで高くないからな。これ以降はゆっくりステータスを伸ばせよ。くれぐれも今回みたいな無茶は禁物な。せっかく人間最強レベルなんだからよ」
「そうします」
ゴンザスがマキナに頭を下げた。
「ゴンザスが人間最強レベルなの? それって俺も含めて?」
「おっさんって人間だったのか?」
マキナ…………自覚してたけど、酷すぎる!
崖に指をかけてたはずが、笑顔で谷底に突き落としてきた。
「実はこの体内に魔力を流す技。接近戦で使えば敵を簡単に無力化させる事ができると思ったんだけど……どうかな?」
「それはやめておけ」
「……なぜ?」
ゴンザスで吐くのを耐えられないんだ。いくら強靭な奴でも耐えられないはず。
流す量さえ注意すれば、デメリットはない。
「相手の潜在魔力量が跳ね上がって、次に会った時はより強くなるぞ」
「あっ……」
敵を強くしてどうするんだよ! って奴か。
「それにいくら量を少なくしても体内で高濃度の魔力が暴れる事には違いない。ゴン太は吐けたからいいものの、吐く前に気絶でもされてみろ。魔核のように行き場を失った魔力で、そいつがボンッと爆ぜるぞ。おっさんもいい趣味してるぜ」
「……お蔵入りしておきます」
対人戦最強技が魔力を体内に流し込むって嫌だ。
マキナが魔族だと忘れる程度にはしっかりしてるイメージがあったが、マキナもやっぱり魔族だったな。
爆死をいい趣味してるとか……。
「んじゃ、オレは用事があるからもう帰るわ。水は適当な樽にでも入れてくれ。今度来る時は、デッカい水袋を持参するから、次はそれに頼むな」
「はい!」
これ引き留めなくちゃダメなやつだ。知ってるぞ。
その前にお土産の準備をする。
俺は調理場に行き、三つある水樽のうち一番高性能な樽を庭先に運ぶ。
これは蓋をきちんとすれば横向でも設置可能な樽で、さらに蛇口が付いていて捻るだけで水が出る。
マキナが長距離を持ち運んだとしても、中の水が零れないのはきっとこの樽だけだ。
入ってた魔力水は庭の樹木たちに撒く。
隣人がいないから、周りに見られる心配がない。そのためやりたい放題に農園を広げている。
ちなみにコーン茶の材料であるトウモロコシ。あれは収穫後に乾燥させないとダメなので、俺の農法では相性が悪い。だから素直に買う食材だ。
「【クリーン】、そして【ウォーター】」
樽の中を一度キレイにしてから新品の魔力水を補充する。
樽はマキナが帰った後に街で購入し直せばいいだろう。今は翼たちも買い出しを手伝っているので、アイテムボックスが使える。一度に大量購入が出来るため、ついでに樽を一つ買うぐらい造作もない。
問題はどちらかと言うと資金面だ。
まだ駆け出しの冒険者の場合、ランクを上げないと買い取ってすらもらえない素材が多い。
理由はランクに見合わない強いモンスターを狙う一獲千金や高ランク冒険者の後を追ってハイエナのようなオコボレ冒険者を減らすためだ。
無理して取っても買い取ってもらえないのでは行う冒険者が減る。
南領の頃はコックの知り合いに卸してた事もあり、お得意様価格で買い取ってくれていた。
新天地に来たんだ。多少の不便は致し方ないとは言え、今は売れる物がない。
「マキナ先生、こちらが魔力水です。急いで帰らなくても、シルがもうすぐ帰ってくると思いますよ?」
「リーが喜ぶのに、なんでおっさんの相手をしなくちゃいけないんだ!」
口調はキツいが、本心じゃないのはわかる。顔はまだいたいのに、帰らなくちゃいけない寂しそうな顔だ。
マキナの顔は実にわかりやすい。
これ以上引き止める場面ではないな……。
「俺はモンスターを倒してきます」
「俺も一緒に行く」
「いや、でも……」
お前は空気を読みすぎだ。邪魔者は消えますねって聞こえたわ。
「マキナ先生、今日はありがとうございました! リーとコーン茶を楽しんでください。次回は是非泊まりでゆっくりと……」
「おっさん、ありがとう」
マキナは樽を抱えてシューッと飛び上がった。
「あー、そうだ」
マキナが空中で静止して振り向く。
おっ? また魔核の爆竹でも放ってくるのか?
二度と同じ手は食わんぞ。
「オレが口出しする事じゃないけどよ。ゴン太はレベル上げに精を出すより、夫婦仲を良くする努力をした方がいいと思うぞ? じゃあな!」
えっ? えっ? えっ?
ちょっ! なに? どういう事?
マキナが帰りがけに爆弾を投下してきたぞ。




