顕在魔力量? 潜在魔力量?
「おっさん、アジトを変えたならオレに連絡しろよな」
「「えっ?」」
突然、空から女の子の声が降ってきた。
俺とゴンザスは声のする方を振り向く。
「マキナ? おー、久し振り。元気だったか? 連絡しようにも、俺はマキナの連絡先を知らないぞ……」
「シルを使いに出せばいいだろ。オレはリーと違って魔力波長を追跡しなくちゃならないんだ。意外とアレ疲れるんだぞ。ゴン太も元気そ――わっ! 魔力量が跳ね上がってる。お前たちいったい何をしでかしたんだ?」
マキナがゴン太ことゴンザスを見て目を見開いた。
そんな怪物を見るような目で見なくても……。
あまりに大袈裟に騒ぐから魔力量が急に増えたのかと思って、ついついステータスを確認したが、微動だにしていない。
「うーん。実はステータスを見ても魔力量が七から上がらなくて困ってたところなんだ……」
「魔力量が七…………? 何言ってん…………あー、わかった。おっさんは表層の顕在魔力量しか見えないのか。ゴン太の魔力量は潜在魔力量の話だぞ」
「顕在魔力量? 潜在魔力量? 何ですか、それは?」
「知りたいか? オレでも潜在魔力量は直接相手の顔を見ないと見えないんだけどな」
シルがゴンザスを見ても変化に気が付けないのに、どうしてマキナにはそれがわかるんだ?
疑問は後回し。
俺たちはすでに七日間も結果のでない特訓を繰り返している。
「マキナ先生! 是非教えてください! 正直手詰まりで困ってます」
「マキナ先生……マキナ先生……いい響き。どうすっかな~」
メガネをかけてくれれば基礎から丁寧に教えてくれるマキナ先生にチェンジするのに、今日はメガネをかけてくれない!
メガネさん……出番ですよ……。
「今回のお礼はリーの大好きなコーン茶でどうでしょう!」
出血大サービス!
コック情報では南領より北領の方が食料の値が二倍近く高い。
ただし、その情報は南領の配給前の情報だ。もしかしたら、北領で食料を買って、南領で売ってる商人がたくさんいて食料全体の値が高騰してるだけかもしれんが……。
コーン茶はみんな水の代わりによく飲むし、特にシルが愛飲してるから在庫切れを起こさないように大量購入している。
ゴンザスの魔力量の問題が解決すれば、俺たちも資金集めに乗り出せる。
「あれな……。城で茶を淹れても味が違ったんだよ。まぁ初めて飲んだ奴らには好評だったけど、何が悪かったんだろうな」
えっ? 味が違った?
リーにお土産で持たせたのは南領で買ったコーン茶だ。
俺たちが今飲んでるコーン茶は北領で購入したものだが、産地が違っても味に変化がなかったように思える……。
それぐらいコーン茶の原料の産地が変わっても味が安定しているのに……。
リーが淹れたら味が違う?
「あのコーン茶には俺の水魔法で出した魔力水を使ってます! お土産はその魔力水でどうでしょうか!」
勝った!
これなら絶対に食いついてくるぞ。
「水って重いんだよな……」
そうでした。マキナ先生と錬金術と調薬のお勉強をした時に習いました。
水がない事のメリットは大きいと説明されたのに、学習せずにその水をお土産に提案してどうするんだ。
「きっとリーが喜んでくれますよ!」
マキナはリーが大好きだ。
リーを出しに使うようで気が引けるが、マキナ先生モードじゃないマキナから教えを請うのが難しいんだよ。
「リーが喜ぶ……リーが喜ぶ……。仕方ねーな。それで手を打ってやるか」
「さすがマキナ先生!」
持ち上げて持ち上げてやっとここまでたどり着いた。
今日は全然甘くない。
こんな時にシルがいてくれればとても助かったのに、あいにく敷地内生活の窮屈さに限界が来て、散歩がてら翼たちの護衛に付いていった。
「ゴン太、レベルを上げて来い。お前最近レベルを上げてないだろ?」
「はっ?」「えっ?」
俺とゴンザスが同時に素っ頓狂な声を出す。
レベルを……上げる?
レベルってステータスに表示されてるレベルの事だよな?
「魔族や獣人はレベルが上がらずとも、ステータスが更新されるが、人間は例外なんだよ。だから人間に比べて獣人の方が成長が早いと勘違いされる」
マキナがニヤリと得意気な顔をした。
「でもな、調べたんだが獣人と人間は初期値も伸びも同じだ。ただし、更新タイミングが随時行われれば、伸びたステータスでさらに効率のいい鍛練ができる。だから獣人の方が人間よりちょっとだけ有利なんだ」
へぇ~。冗談でマキナ先生って呼んだけど、マキナは普通に俺の先生だな。
知らない事を教えてくれる。調べたと言ったから、きっとこれも研鑽の賜物だ。
被験者に選ばれた獣人や人間の末路は、この際考えないでおこう。
魔族の初期値は高く、随時ステータスが更新される。
獣人の初期値は低く、随時ステータスが更新される。
人間の初期値は低く、レベルアップ時にしかステータスは更新されない。
翼たちは剣の扱いは上手くなったと思うけど、鍛練の成果が出ていたかと言われると、ステータスが全く上がらず低いままだった。
なるほどな。あれには明確な理由があったのか……。
俺とゴンザスは今の特訓を成果が出るまで根気強く続けていた可能性が高い。モンスターを倒してレベルを上げるなんて発想はなかった。
状況的にマジで詰んでいたのか……。
もっと早くマキナが現れてくれてればな……。
いや、逆に考えるんだ。一週間で現れてくれて良かった。
「ゴンザスはいつからレベルが上がってないんだ?」
「魔道具を使ってステータスをチェックしてないからわからないです。別にコックにも聞いてませんし……」
ステータスを見るのはマナー違反ってシルがよく言っている。でも、自分のステータスすら魔道具を使わないと見れないって不便だな。
そんな頻繁に『俺レベル上がった?』って聞くのも変だ。それにゴンザスはレベル一桁とかでもない。一つ上げるのも期間がかかりそうだ。
「今はレベル四五だぞ」
「九年前も四五です」
つまり九年間ステータスが更新されていない。
俺と出会うまでは半身麻痺だったんだから、わざわざモンスターを倒してレベル上げをしろと言う方が酷だ。
上がってなくて当然か。
「人間って大変だな」
「マキナ先生、俺も……俺もレベルアップしてないんだけど……」
「おっさんはもう強くならなくていい」
マキナ……ひどい。
実は誰にも言ってなかったけど、俺……レベルアップ以外のタイミングなのにステータスが上がった事がある。
それはシル、リー、マキナに『絶対服従の誓い』をして《勇者の加護》を与えた時だ。
上げ幅はそれぞれのステータスの一割程度だが、魔族に《勇者の加護》を与え続ければ俺は無限に強くなれる可能性を秘めている!
やっぱり俺って人間じゃないのかな? 魔族の味方ばかりしてるけど、一応まだステータス様は俺を人間だと表示してくれている。本当にありがたい事だ。
ちなみにテイムモンスターを増やした時にも《勇者の加護》は付くけど、このような現象は起こっていない。
「ところで、どうしてマキナ先生はゴンザスの潜在魔力量を見抜く事ができたんですか?」
「魔術系はオレの得意分野だからな」
確かにマキナの能力は『魔術』だ。
全知全能は万能型だが特化型の能力にはその分野で勝てないようだな。
「参考までに聞いておくが、どういう実験をしたらこれほど潜在魔力量を増やす事ができたんだ?」
「単純にゴンザスの体に直接魔力を流しました」
「簡単に言うけどなぁ。人間の体におっさんの高濃度な魔力を取り込んだりしたら、魔力がすごい勢いで暴れてすぐに目眩を起こして吐くだろ?」
「……はい。吐いてました」
「正直に言え。何回ぐらい魔力を流した?」
「毎時六回で、それを一日五時間として。七日間だから……二〇〇回ぐらい?」
「きっと、そのぐらいです」
「二〇〇回……。よくゴン太は死ななかったな」




