拠点の中央に巨大な正三角形の柱
「待った待った待った!」
「なんだよ。オレ結構忙しいんだぞ。水をリーに届けなくちゃいけないし、今日は日が暮れる前に家に帰らないとお客さんを待たせちゃうんだ」
あー。それで急いでるのか……。
なるほどな。って違う違う違う。
「ゴンザスの夫婦喧嘩って?」
「んなもん。南領のアジトからここに向かう途中にゴン太の魔力波長と近い波長の女を西領の方から感じただけだ。別居中なら今日中に謝った方がいいぞ。マーの野郎が配下を集めて進軍してるようだからな。今日を逃すと二度と仲直りができなくなんぞ」
思わぬところから、突然ゴンザスの妻子の情報が舞い込んできた。
確か女性は魔力波長が変わるって言ってたな。その魔力波長が近いほど子供を身ごもる確率が上がるとも……。
ゴンザスには子供がいるはずだ。
ゴンザスと妻は魔力波長が近くなってる可能性が高い。
なら、ゴンザスの妻は西領にいるのか?
俺とゴンザスが再び顔を見合わせた。
「「…………」」
ところで、マーの野郎って誰だ? マキナの知り合いなら当然魔族か?
魔族が配下のモンスターを引き連れて進軍している?
その進軍先にゴンザスの妻子が?
ヤバいじゃん!
「マキナ先生! 俺とゴンザスを西領まで運ん……」
「嫌だよ。真っ直ぐ南に帰らないと、リーのところに寄ってたら日が暮れる前に家に帰れねーもん。お前がきちんとアジトを変えたって言わねーから遊ぶ時間がなくなったんだぞ。オレのせいじゃないからな」
マキナは南側に帰るのか。俺たちのアジトが北領に移ったせいで移動距離が伸びちゃったな……。
でも、アジトを変えたおかげで、西領の情報が知れた。
「あの……せめて、方角だけでも……」
「方角? 魔力波長を追跡するのって疲れるんだぞ? 方角を探すだけだかんな。んーっと………………あっちだ。この角度で真っ直ぐ進めばいる」
マキナが目を瞑って魔力波長を探し当てると指を差す。
その方角に西領があり、ゴンザスの妻子がいるのだろう。
俺は足元に矢印を付けた。
「俺は翼に置き手紙を書く。ゴンザスは急いで支度しろ!」
「はい!」
「んじゃ頑張れよ」
「お気をつけて! リーにもよろしく言っておいてください!」
別に暗号にする必要はないだろう。
『マキナが訪ねてきて、ゴンザスの妻がいる方角がわかった。とにかく俺たちはそこへ向かう。お前たちは鍛練を続けてろ。注意:人間はレベルアップしないとステータスが更新されません』
俺は拠点の中央に巨大な正三角形の柱を作った。
「アニキ、俺ならいつでも行けます!」
ゴンザスも盗賊たちに置き手紙をしてきただけかもしれない。
すぐに戻ってきた。
「俺も準備は出来てる。レッドベア・オープン。お前はみんなが戻って来るまで拠点を守っていろ」
レッドベアが五メートルの木の棒を持って頷く。
森のモンスターが稀に入口から侵入してくる。
日に一度あるかないか程度の頻度だが、一体でも中に入って拠点を荒らされたら、直すのが手間だ。
そちらは手間なだけで森のモンスターなんてまだ可愛い。本当の敵は正面より空からやって来る。
「また来たな……。レッドベア頼むぞ」
レッドベアが木の棒で突く。
目を離すと俺の果樹園が鳥たちに狙われる。
一応は防護ネットを真似て土魔法で網目状の箱を作り、全体を守っているのだが……。
どんどん成長する木が網目の隙間からツンツン枝を外に出す。その先に実った果実が鳥たちのいい餌となり、溜まり場と化している。
森に住んでいるせいで、動物の被害がすごい。
箱の外の果物はどうせ食べきれないし、お裾分けの気分で食べてくれて構わないっと思うようになった。
俺が嫌がってるのはいくら【クリーン】をかけても、一時間後には元に戻る大量のフン。
現在いたちごっこ中。
最終手段は決まってる駆除だ。
「トップスピードを出すにはゴンザスを俺が抱えるしかないな」
さすがにゴンザスをお姫様抱っこする気にはなれないから、妥協案で背負う。
「【サンド】。これに乗ってくれ。今こそ鍛えた肉体を使うチャンスだぞ。絶対に振り落とされんように手摺りを強く握ってろよ」
「はい!」
ゴンザスの方が体格がいいため、俺がゴンザスのお尻を支えておんぶする事はできない。
背負子と言われる登山者が荷物を括りつけて運ぶ運搬具を土魔法で作った。
相当強固になるイメージで作ったから、ゴンザスの予想体重九〇キロでも壊れないだろう。
「【サンド】」
ゴンザスが乗ったところでシートベルト代わりの土ベルトを装着。
このステータスがなければ、ゴンザスを背負う事など出来なかっただろうが、ティリアと美穂を抱えて走れた俺には大した事はない。
追加で背負子がズレないように土魔法で俺の体に固定した。
俺は拠点の壁を軽くジャンプして飛び越える。
右手に槍を持ち、邪魔な木は切りながら、とにかく真っ直ぐを目指す。
一〇分ほど走り。一つ目の山頂が目前に迫ってきた。
「ゴンザスは目がいいか?」
「どうでしょう」
「拠点の柱は見えるか?」
「辛うじて見えますが……」
「どっちを向いてる?」
「えっ?」
「もういい」
俺は反転して柱の向きをチェックする。
「少しだけ左にそれてるな。方向を修正するわ」
俺は拠点の柱の向きをチェックしながらポイントを探す。
「この辺りだな。【サンド】」
「アニキ、これはいったい……」
「今は時間が惜しい。この柱が拠点までの距離と同じぐらいになったら声をかけろ」
「はい」
背中合わせにゴンザスを座らせる事で、後ろを振り返る手間が減る。
俺は再び走り。『柱の向きをチェックする』を何度も繰り返しながら、とにかく走った。
「アニキ、そろそろいい距離です」
「全然大丈夫じゃないが、場所はもう大丈夫だ」
北から西へ向かう場合は国境に壁はないようだ。俺が走ったルートが森や山を無理やり越えるコースだったため、たまたま設置されていなかっただけかもしれないが……。
「【ヒール】【キュア】。ゴンザス、二五秒後に安全ベルトを外すぞ。三〇秒後に戦闘を開始する!」
「はい!」
回復魔法は念のためだ。ずっと椅子に座ってて体が凝り固まってても困るからな。
俺は左手でアイテムボックスから火炎の斧を出して、後ろのゴンザスに手渡した。
「【サンド】」
俺はゴンザスを支える土ベルトを砂に変える。
ゴンザスが椅子からジャンプして正面を向く。
「いや……アニキ。これ……手遅れ……」
「俺が道を切り開く! ゴンザスは取りこぼしを仕留めてくれ。ただし、遅れずに走ってこいよ」
「はい!」
街に押し寄せる無数のモンスター。
モンスターはつい数分前に街に侵入したはずだ。今は街の中から煙が上がっているが、さっきまで目印になる煙はなかった。
マキナが教えてくれた方角へひたすら真っ直ぐに進んだ先にあった危機に瀕した街。
ここ以外にはあり得ないだろ!




