75/100
読書/中島敦『十年』 ノート20180807
中島敦『十年』
きわめて短いエッセイ。石川啄木先生の詩にある、お城の石垣に寝転んで空想する十五歳の少年のように、中島敦先生も少年のころは夢を見た。「末は博士か大臣か」という言葉に表れる立身出世こそが人生の生きがいというあたりは、現在とは少し価値観がズレるところではあるが、文豪、宰相という言葉が飛び出してくる。頭上を飛ぶ雲のように容易につかめるものではない。少年は、もう一つ夢があった。パリを旅行したいというのだ。しかし当時としては一般人が行くにはかなりの大金でとうてい行けるものではなかった。中島宣先生は、パリにはいきたいけれども路銀がないから我慢して、代わりに背広を新調し国内旅行をしようかなという当時流行りの詩人のポエムを引用して話をしめくくる。
――ふらんすへ行きたしと思へどもふらんすはあまりに遠しせめては新しき背広をきてきままなる旅にいでてみん。(萩原朔太郎)
閑話余談。
このころ、芸術家である岡本太郎の一家、藤田嗣治がパリに滞在し、他方で詩人・作家である金子光春夫妻がバックパッカーのように小銭を稼ぎながらパリにたどり着いたかと思うとすぐに帰国してしまった。
ノート20180807




